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第055話

この味は違う!これはまさしく妻の味だ!

涼介は仕事でよく酒席に参加することがあり、昔一緒に暮らしていた時は、いつも酔っ払って帰ってきていた。

いつも彼が酔い潰れると、桜井は気が利いていて、二日酔いスープを作ってくれた。

スープにある独特な香辛料が入っているので、その味は特別だった。

涼介は、もう6年も彼女のスープを口にしていなかった。

しかし今、この女が作ったスープの味は、桜井が作ったスープとほとんど同じだった!

涼介は他のことは気にせず、ベッドから飛び出して階下に駆け下りた。

キッチンでは、紗月があかりのためにお粥を作っていた。

彼女は集中していて、背後の急ぎ足の音にも気づかなかった。

涼介の存在に気づいたときには、すでに彼女の後ろに立っていた。

涼介は紗月をぐいっと引き寄せ、大きな手で顎をつかみ、鋭い鷹のような目で危険な光を放ちながら問いかけた。「このスープ、誰に教わったんだ?」

紗月は突然の動きに驚き、反射的に反抗しようとしたが、逆にさらに強くつかまれた。

最後に彼女は彼を見上げ、「誰にも教わっていないわ。自分で作ったんだ」と答えた。

「ありえない」

涼介の低い声は、酔いの残るかすれた響きを帯びていた。「味が違うから。誰に教わったんだ?

お前、桜井とつながっているのか?

彼女が、お前を送り込んできたのか?」

彼がそう言うにつれて、その推測はますます正しいと確信しているようだった。

国外で有名なジュエリーデザイナーである紗月が、わざわざここに戻ってきて仕事もせず、あかりの専属メイドとして来たこと。

あかりに対する接し方が、まるで実の子供のように大切にしていること。

紗月の名前が、桜井紗月とほとんど同じだ。

家のインテリアが桜井の趣味と同じで、スープの味まで同じだということ!

紗月の目が桜井の目と違っていなければ、涼介は紗月が顔を整形し、声を変えた桜井だと思ってしまうかもしれないほどだった。

だが、彼ははっきりと分かっていた。紗月は桜井じゃなかった。

桜井の目は彼を愛で見つめ、その瞳には光が宿っていた。

しかし、紗月の目はまるで涼介を他人のように見つめていた。

そんな目をしている人物が、桜井であるはずがなかった。

涼介はその鋭い目で、紗月をじっと見つめた。

紗月は少し動揺した。

まさか、スープだけで、彼女を
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