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第054話

6年前、紗月がこの家の主人だった時も、誰も本当に彼女を尊重してはいなかった。

白石は一瞬言葉を詰まらせ、「そうだ」と言った。

「それがあなたの考えかもしれないが」

紗月は棚からスプーンとトレイを取り出しながら、「私、これまでの人生で十分すぎるほどの屈辱を味わってきた」と静かに語った。

「これからは、もう屈辱を受けたくない」

そう言い切ると、彼女はトレイを持ち、白石を避けて階段を上がっていった。

白石はその場に立ち尽くし、紗月の細くて長い背中を見つめていた。彼の目の中の光は、次第に消えていった。

もし選べるなら、誰が進んで屈辱を受けたいと思うだろうか?

だが、今理恵に取り入らなければ、後で彼女が嫁いでくる時にどうしようもなくなるのだ。

......

主寝室。

紗月が二日酔いスープを持ってドアを開けた時、涼介はベッドにもたれ、スマホを見つめていた。

昨晩の二日酔いで頭痛がひどく、起き上がるのさえ困難だった。

昨夜のことは記憶が混濁しており、何が起きたかはっきりとは思い出せなかった。

彼女が入ってきたのを見て、涼介はスマホを置き、眉をひそめた。

昨晩の彼の振る舞いを思い出すと、紗月の表情はさらに冷たくなった。

冷淡な表情で部屋に入り、二日酔いスープを差し出した。

涼介は紗月の目が赤く腫れているのを見て、眉をひそめながら口を開いた。「泣いたのか?」

昨夜と同じ質問に、紗月は思わず冷笑した。

紗月は涼介を冷たく見つめ、皮肉を込めて答えた。「昨夜、リビングでも同じように話しかけてきたね」

「また同じ手を使って、次は私を押し倒し、奥様との出会いの話をするつもりか?」

涼介は顔をしかめた。

昨夜のことは全く覚えていなかった。

「俺が昨夜、妻のことを話したのか?」

「そうよ」

涼介がスープを受け取らないので、紗月はスープとスプーンをベッドサイドに置き、「奥様のために桜井さんと婚約したって話をしたわ」と冷たく続けた。

「奥様は本当に素晴らしい人だね。お腹に三つ子がいるのに、自分の命を投げ出して、遺書を書いて、佐藤さんに妹と結婚させたなんて」

「事情を知っている人は彼女を称賛するだろうが、知らない人はあなたと桜井さんが何か後ろ暗いことをして、証拠隠滅のために殺したんじゃないかって疑うかもしれないね!」

これまで抑えてきた言葉を、紗月
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