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第053話

一晩中、紗月はほとんど眠れなかった。

夢の中では、涼介との過去の出来事が何度も繰り返された。

二人の初めての出会い、結婚写真を撮った時の幸せ、そして結婚式の慌ただしさ......

夢の中で、彼女はずっと涼介に「なぜ?」と問い続けていた。

なぜ。

なぜ,彼女の愛情をあのように踏みにじったのか。

目が覚めると、枕は涙で濡れていた。

愛されない苦しみは、何年経っても癒えることはなかったのだ。

「ママ......」

ベッドのそばにいたあかりが、そっとティッシュを手に取り、紗月の涙を拭いていた。「またパパがママを怒らせたの?」

紗月は目を閉じ、あかりを抱きしめた。

その小さな体を抱きしめると、彼女は再び力が湧いてくるのを感じた。

6年間、彼女を支え続けてくれたのはこの子どもたちだった。

どんなに辛くても、彼らを決して諦めることはできない。

「ママ、もう泣かないで」

あかりは紗月の背中を優しく撫で、「いつでも、あかりとお兄ちゃんたちはママの味方だから、ママは悲しまないで」と優しく声をかけた。

その真剣な声色に、紗月の心は少しだけ温かくなった。

二人はしばらく抱き合っていた。

やがて、ドアの外から白石のノックが聞こえてきた。

「紗月さん、起きていますか?」

紗月は眉をひそめ、あかりを離してドアを開けた。「何かあったの?」

「もし起きていたら......」

白石は困惑した表情でドアの前に立っていた。「佐藤さんのために、二日酔いスープを作ってもらえませんか?

彼、これから大事な会議があるんですが、昨夜飲みすぎて二日酔いで頭が痛くて、まだ起きられないんです。

今の時間、他の使用人はまだ出勤していなくて、頼れるのがあなたしかいないんです......」

紗月はうなずいた。「わかったわ」

そう言うと、彼女は振り返って上着を持ち、階下に降りていった。

彼女はキッチンで二日酔いスープを作りながら、同時にあかりの朝食も準備していた。

白石がキッチンの入り口に立ち、何か言いたげだった。

「何か言いたいことがあったら、言ってください」

紗月は食材を切りながら、彼に声をかけた。

白石は一瞬ためらい、そして口を開いた。

しばらくして、白石は頭を上げ、紗月の完璧に近い横顔を見た。「昨日のことですが......

嘘をつきました」

紗月の手が少
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