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第052話

酒に酔った涼介は、紗月に向かって彼らが出会った当時のことを包み隠さず語り出した。

その情熱的な言葉は、紗月の目にはすべて偽りに見えた。

彼は知らなかったのだ。紗月と彼の初めての出会いは、桜の木の下ではなかった。

涼介が交通事故に遭ったときだったことを。

何年も前、涼介はひどい事故に巻き込まれた。

車に轢かれ、道端に放置された彼を助けたのは紗月だった。病院に送り、意識を取り戻すまで、1ヶ月間献身的に彼を看病した。

紗月は涼介に好意を抱いていたが、実際に好きになってしまうことを恐れていた。

自分があまりにも普通すぎて、彼のような特別な人に釣り合わないと思っていたからだ。

だから涼介が目を覚ました日に、紗月は何も告げずに病院を去った。

お互いもう二度と会わないだろうと思っていたが、再会は意外と早く訪れた。再び出会った瞬間、彼こそが運命の人だと信じていた。

そして、紗月は必死に追いかけた。そしてついには彼と結婚することになった。

だが、結婚式の日、涼介は紗月にはっきりと「好きじゃない」と告げた。

「好きになるかどうかもわからないけれど、佐藤家の妻という立場は他の誰にも与えない」と言われた。

その時、彼女はそれを最高の誓いだと思い込んでしまった。

だが、結局どうなっただろうか......

紗月は目の前の男を見つめ、その瞳には怒りの炎が宿っていた。

紗月は彼のためにキャリアを捨て、あちこちで医者を訪ねては薬を求めた。ただ、涼介が「そろそろ子供を持とう」と言ったから。

その結果、彼女は彼の子を宿した。それも三つ子だった。

しかし、返ってきたのは、彼と妹の理恵による同時の裏切りだった。

彼女が得たのは、彼が手配した車により、海を渡る橋の上から突き落とされた記憶だった。

そして、紗月の死後、遺書という名の屈辱を使って彼女をさらに辱めた。彼女を裏切り者だとし、遺書には理恵と結婚するよう指示が書かれていると世間に発表したのだ。

その過去は、海外で深夜に目が覚めたときに思い出すたびに、紗月の背筋を凍らせた。

もし3人の子供がいなければ、もし響也の病気の治療が必要でなければ、紗月は涼介の腹を切り裂いて、良心があるのか確かめていたかもしれなかった。

そんな男が、今、自分の前で深い愛情を装い、彼女との過去を語っていた。

一体何のために?

今の自分
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