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第011話

透也が席に着いて間もなく、ウェイトレスが理恵の料理を運び始めた。

「お姉さん、この料理は何ですか?」

透也は理恵に料理を運んでいるウェイトレスを引き止め、大きな目をぱちくりさせながら尋ねた。

小さな透也は愛らしく、声もおとなしくて、ウェイトレスはつい微笑みながら足を止め、「これはフィレステーキだよ。食べたいなら、親に頼んで注文してもらってね!」

透也はニコニコと笑いながらウェイトレスにお辞儀をした。「ありがとう、お姉さんはとても綺麗です!」

四十代のウェイトレスは、この「お姉さん」という呼び方に心を打たれ、軽やかな足取りで料理を運んでいった。

「ステーキが食べたいの?」

横にいた杏奈は眉をひそめて尋ねた。

はいたずらっぽく笑い、「いいえ、食べたくないよ」

「じゃあ、さっき何を......」

「杏奈おばちゃん」

杏奈の言葉を遮りながら、透也は続けた。

「賭けをしよう」

透也は杏奈の携帯を手に取り、ストップウォッチをセットして、「あの女の人が十秒以内に食べられなくなる方に賭けるんだ」

杏奈は彼を一瞥し、全く信じられない様子で「食べ始めたばかりじゃないか」

そう言いながら、透也に横目をやり、「嫉妬しているのかい?ステーキが羨ましいの?」

「五、四、三、二......」

透也は携帯をテーブルに置き、得意げにカウントダウンを続けた。「一」

「バン!」という音と共に、少し離れた理恵が険しい顔で箸を放り投げた。

杏奈は驚いて、理恵が慌ててトイレに駆け込む姿を見つめた。

「これは......」

透也はいたずらっぽく笑い、それからスパゲッティを食べ始めた。

......

理恵はトイレで三十分も過ごしていた。

彼女はたった一口ステーキを食べただけだった!

食べ物に当たったとしても、こんなに早くはならないはずなのに!

彼女は体をぐったりとさせながら、テーブルに戻った。

すると、箸の下に小さな紙片が置かれていた。

その紙には、綺麗な文字で「悪事の代償よ」と書かれていた。理恵は激怒し、その紙を破り捨てた。

「店長を呼んできて、監視カメラをチェックさせて!」

誰がそんな大胆なことをしたのか、彼女は確かめたかった。

「申し訳ありません、桜井様。先ほど店のシステムがハッカーに攻撃され、監視カメラの映像がすべて消去されました......」

「役立たず!」

監視室に入ると、彼女は持っていたガラスのコップをコンピュータのモニターに投げつけた。

ガラスとモニターがぶつかる音が響き渡った。

きっと桜井紗月に違いない。絶対に彼女だ!

......

夜の十時。

黒いマセラティが青湾別荘の前に停まった。

涼介は最後の国際電話を切り、一身の疲れを感じながら車を降りた。

習慣的に寝室の前で足を止めた。

廊下の端にある子供部屋を一瞥した後、長い足を踏み出してその部屋に向かった。

しかし、子供部屋には誰もいなかった。

「ご主人様、お帰りなさいませ」

子供部屋の物音に気づいた執事が駆け寄り、「お姫様をお探しですか?」

涼介は眉をひそめた。「あかりはどこにいる?」

執事はため息をつき、「お姫様はどうしても紗月と一緒に寝たいと言い張り、子供部屋にはベッドが一つしかないので......」

「それで、お姫様は紗月の部屋、つまり階下のメイド部屋に行って、一緒に寝ていました」

執事は涼介の表情を慎重に観察しながら、「今すぐ紗月を起こして、お姫様を連れて来させましょうか?」

涼介は何も言わず、代わりに階下へと向かった。

彼は紗月の閉ざされた部屋の前で足を止めた。

執事はそれを理解し、すぐに鍵を取り出してドアを開けた。

部屋は暗く、ベッドサイドに小さなランプが一つだけ灯っていた。

涼介は長い足を踏み入れ、ベッドに横たわる大人と子供を見下ろした。

紗月は薄灰色の寝間着を着て、あかりを抱いて眠っていた。

彼女はすでに寝ていたが、その腕はまだあかりの傷ついた顔を守るように添えられていた。

なぜか、この瞬間、涼介はこの光景に温かさを感じた。

彼は自嘲気味に笑った。本当に狂っていた。

あかりは自分と桜井紗月の娘であり、二人の愛の証だ。

だが、この目の前にいる紗月は、邪な意図を持ち、自分に近づいて利益を得ようとするメイドに過ぎない。

しばらくして、涼介は部屋を後にした。

「明日、子供部屋にもう一つベッドを追加しろ」

「承知しました」

部屋のドアが閉まり、廊下の足音も次第に遠ざかっていった。

月明かりの下で、紗月は目を開け、冷笑を浮かべた。

......

安らかな夜が過ぎた。

翌朝、紗月は早起きしてあかりの朝食を準備した。

ついでに涼介の分も作った。

かつて一緒に過ごしていた頃、涼介の朝食は毎回手作りしていた。

ただ、六年の時が経ち、涼介の好みが変わったかどうかはわからなかった。

朝食をテーブルに並べ終わる頃、あかりも洗面を終え、小さな寝間着を着て現れた。

「わあ、大好きなワッフルがある!」

あかりが目を輝かせて、椅子に駆け寄り座り込んだ。「朝食がこんなに豪華なんて!」

「そうかしら?」

彼女の言葉が終わらないうちに、上から涼介の低くて微笑んだ声が響いた。

あかりは顔を上げ、階段を降りてくるその男を見つめた。

孤高で、貴族的で、言葉にできないほどの美しさ。

あかりの顔がなぜか赤くなり、「パパ、おはよう」

これは彼女のパパであり、昨日ようやく再会したパパだった。

「おはよう」

涼介は微笑みながらあかりの向かいに座った。

あかりは自分のワッフルを一口切り分け、涼介の前に置いた。「パパ、これ食べてみて。おばさんが作ったワッフル、とってもおいしいよ!」

涼介は彼女の前にまだ手をつけていないデザートを一瞥し、「食べてもいないのに、どうしておいしいってわかるんだ?」

あかりは少し照れくさそうに笑い、「予感がしたの!」

そして、すぐに一口頬張ってみせた。「ほんとにおいしい!」

涼介は彼女がほおばっている膨らんだ頬を見ながら、「まだ痛むか?」

あかりは一瞬驚いた後、自分の顔を気にしていることに気づいた。

「もう全然痛くないよ」

そう言った後、あかりはそっと紗月を一瞥し、「パパ、おばさんのことも心配してあげないの?」

「彼女のほうがあかりよりひどくやられたんだから」

涼介は朝食を取りながら、冷静に答えた。「大人だから痛くない」

「痛くても、俺が気にする必要はない」

あかりは下を向き、静かに唇をかみしめた。

朝食後、涼介は出かけた。

執事があかりと紗月を連れて別荘内を案内し続けた。

この大きな青湾別荘は、あかりにとっては未知と驚きがいっぱいだった。

それに対して、紗月にとっては懐かしい場所だった。

午前中、彼女は興味を持てず、淡々としていた。

青湾別荘の至る所に涼介との思い出が詰まっており、そのすべてが紗月に、あの男性への愚かなほどの一途さを思い出させていた。

昼食の時、あかりはあまり食欲がなく、ほんの少ししか食べなかった。

紗月は、あかりがまだ桐島市に慣れていないためだと考え、彼女が昼寝をしている間に、あかりの好きなオレンジを買いに出かけた。

しかし、青湾別荘を出た直後、赤いフェラーリが彼女の横に停まった。

窓が下がり、理恵の傲慢で高慢な顔が現れた。「話さない?」

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