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第017話

涼介の冷たい視線を受けながらも、紗月は少しも気にしなかった。

紗月は淡々と頷いて、「分かりました」

そして、立ち上がって階段を上り始めた。

階段の踊り場に差し掛かったとき、紗月は足を止めて振り返り、こう言った。「今朝、桜井さんが家に来て、写真を壊してしまった。そのせいであかりは一日中不機嫌でした」

「もし佐藤さんが桜井さんとの関係をうまく処理できないのであれば、あかりの願いを簡単に聞き入れない方が良いかもしれませんよ。二人の女性が不機嫌になるような事態を避けるために」

涼介は彼女の背中を見つめ、その声は周囲の空気よりも冷たかった。「俺に指図する気か?」

「ただの提案です」

紗月の声には感情が一切なく、平静だった。「あかりがいつも不機嫌だと、仕事が増えるだけですから」

それだけ言うと、冷淡な背中を見せたまま階段を上がっていった。

ソファに座ったまま紗月の背中を見つめていた涼介は、眉を深くひそめた。

......

翌朝早く、理恵は白石からの電話で目を覚ました。

「桜井さん、今マンションの下にいます。佐藤さんがあなたをお迎えするようにとおっしゃいました。お話したいことがあるそうです」

「涼介が呼んでいるの!?」

理恵は興奮してベッドから飛び起きた!

これは、涼介が朝一番で彼女を呼び出した初めての出来事だった。

「ちょっと待って、メイクをしたらすぐに降ります!」

1時間後、完璧なメイクを施し、長いドレスをまとった理恵は車のドアを開けた。

後部座席では、黒い服を着た涼介が目を閉じて休んでいた。

車に乗り込むと、理恵は驚きで声を震わせながら、「涼介、まさかあなたが......」

涼介は冷たい声で遮った。「白石、レストランへ」

レストラン。

涼介は朝食をとりながら、淡々と口を開いた。「半月後、祖母の誕生日宴に君を連れて行くつもりだ。

もう六年間も婚約者の立場にいるんだ。そろそろ君に新しい立場を与えるべきだろう」

理恵の目が輝いた!

やはり涼介が朝一番で彼女を呼び出したのは、良い知らせを伝えるためだったのだ!

理恵は心の中で喜び、顔には恥じらいを浮かべて、「私には、構わないけど......」

「俺は構う」

涼介は冷たく彼女を一瞥し、「祖母の誕生日の日に、君との婚約を解消すると発表するつもりだ」

「パチン!」

理恵の手から箸がテーブルに落ちた。

彼女は震える声で涼介の顔を見つめた。「涼介、それはどういう意味?」

涼介は優雅に朝食をとり続けながら、「君との婚約関係を保ってきたのは、一つは桜井紗月の遺志を果たすため、もう一つは彼女の死んだことで、君との関係が終わったから、あなたを守るためには、新しい立場を与える必要だ。

そして、もしお互いに本当に心を惹かれる相手が現れたなら、この偽りの婚約関係はいつでも終わらせることができると約束したはずだ」

理恵は唇を強く噛み締めた。「でも涼介、私たちはまだ心を惹かれる相手に出会っていないじゃない」

「でも、あかりが戻ってきたんだ」

涼介はナイフとフォークを置き、冷淡な目で理恵を見つめた。「あかりの存在が示しているのは、6年前に桜井紗月が死んでいなかったということだ。

妻が生きている以上、君とこの関係を続けるべきではない。

それに」

彼はスープを一口飲んでから続けた。「君とあかりはあまりうまくいっていないようだ。

昨日、使用人から、君があかりを一日中不機嫌にさせたと言ってた。

だから、この契約はこれで終わりだ」

彼は空になった碗を置き、「祖母の誕生日には、まずあかりの存在を公表し、その後で婚約解消を発表するつもりだ」

そう言ったあと、立ち上がって大股で部屋を去っていった。

理恵はその場に座り、拳を固く握りしめた。

「ガシャーン!」

涼介の車が無情に去っていくのを見て、理恵がついに爆発し、テーブルの上の食器を全て床に叩きつけた!

彼女は、涼介が朝一番で自分を呼び出したのは良い知らせがあると思っていた。

ところが、突然、あのクソガキのために、自分との婚約を解消しようとしていた!

理恵の目は怒りで細くなった。

あのクソガキのせいだ!

もしあかりが戻ってこなければ、涼介はこんな態度を取らなかったはずだ。

たった3日で、涼介は彼女を捨てようとしていた!

あかりを排除しなければ、彼女は理恵とは言えなかった!

桜井紗月が自分で現れず、娘を送り込んで犠牲にするなら、彼女がその計画を完遂してやる!

......

昼過ぎ。

理恵は弁当を持って佐藤グループのビルに入った。

彼女が涼介のオフィスに入ると、涼介はちょうど午前中の会議を終えたところだった。

涼介は眉をひそめた。「何しに来た?」

理恵は微笑んで弁当を差し出し、「お昼ご飯を持ってきたのよ、義兄さん」

この「義兄さん」という言葉に、涼介は少し戸惑った。

彼は眉をひそめた。「どうしてそう呼んでる?」

「お姉さんがまだ生きているなら、涼介も私と婚約を解消するし、これからは以前と同じ、義兄さんと呼ぶわ」

理恵は笑顔で食事を差し出し、「今朝、涼介の話を聞いて、いろいろ考えたけど、確かにこれまで良くなかったわ。

婚約を解消しても、これからも涼介は義兄さんで、あかりは姪になるんだから、そうでしょ?」

涼介は頷いた。

「ただ、あかりは私のことを嫌っているみたいで......」

理恵はため息をつき、涼介に箸を手渡しながら言った。「義兄さん、明日あかりを連れて外に遊びに行って、あかりとの関係を改善したいの。

これからもどうせ家族になるんだから、私のことを嫌わないようにしたいわ」

理恵は心からの言葉を口にし、涼介はしばらく考え込んだ後、頷いた。

それも悪くなかった。

理恵の態度から判断すると、確かに反省の気持ちを持っているようだ。

理恵とあかり、一人は桜井紗月の妹で、もう一人は娘だ。本来、争うべきではない。

「ありがとう!」

理恵の目に一瞬だけ狡猾な光が見えた。「それじゃあ、すぐ準備する!」

夕食の時、涼介はこの決定をあかりに伝えた。

「絶対に彼女と一緒に遊びに行きたくない!」

あかりは目を丸くして反対の意を示した。「彼女って、すごく意地悪だもん!」

涼介は静かにため息をついた。「彼女はあかりのおばさんなんだ」

桜井が生きていたら、きっとあかりと理恵が対立する姿を見たくないだろう。

しかし、紗月にとって、涼介の善意は違った意味に受け取られてしまった。

あかりを何度も傷つけ、敵対しているのに、今さらあかりと仲良くなるように説得し続けているなんて......

涼介の心の中で、あかりがどれだけ重要なのかはわからないが、少なくとも理恵が一番大切な存在であることは確かだろう。

突然、悲しみが込み上げてきた。

「紗月」

不意に耳元で聞こえる低い男性の声が彼女の思考を引き戻した。

涼介は淡々と紗月を見つめた。「明日、あかりと一緒に行け。

それに、人を追加で同行させる」

紗月はため息をついた。「どうしても行かなければならないのですか?」

「それはお前のようなメイドが気にすることではない。あかりの世話をしっかりとすればいい」

「......わかりました」

夕食の後、あかりは部屋に戻り、ベッドの上でゴロゴロと転がっていた。「あんな女と仲良くなんて絶対にしたくない!」

「あかりの気持ちは限られているの。ママにあげたら、もう他の人にはあげられない!」

紗月はあかりの姿に微笑みを浮かべ、慰めの言葉をかけながら、透也にメッセージを送った。

今日も一日会えなかったし、少し透也が恋しかった。

「ママ」

「明日、理恵の誘いには行かないで」

透也はタブレットで理恵のスマホに同期された内容を見ていた。その中には、「クソガキを殺す」というような文字がはっきりと記されていた。

具体的な計画は書かれていなかったが、そのタイトルだけでも透也の心は冷え込んだ。「ママ、行かないで、わかった?」

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