悪魔はすぐそばにいる

悪魔はすぐそばにいる

による:  藤原愛子  完結
言語: Japanese
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概要

子供

女性パワー

青春

弟に階段から突き落とされ、全身が麻痺した。 命が危ないとき、母は彼を抱きしめてそっとささやいた。 「お母さん、怖いよ。僕、わざとじゃなかったんだ」 深夜、弟の手が私の人工呼吸器に伸びてきた。 次に目覚めた時、私は妊娠した母の姿を見て、迷わず彼女を階段から突き落とした......

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21 チャプター

第1話

「美奈、行こうか」私は必死に母のお腹を睨んだ。さっき、医者から母がすでに妊娠2ヶ月以上だと確定されたところだった。どうすれば母のお腹にいる悪魔を消し去ることができるのか。前世では、この悪魔が生まれてから、家族をずっと苦しめ続けた。両親を気まぐれに叱りつけ、おばあちゃんの目を刺し、おじいちゃんを怒り死にさせ、そして私が彼に一言注意しただけで、階段から突き落とし全身麻痺にさせた。夜遅く、人工呼吸器を抜かれたこともあった。彼がその時言った言葉は今でも忘れない。口元を歪ませ、目には狂気に満ちた興奮が宿っていた。「起きろよ、お説教好きなんだろ?お前なんて、ただの役立たずだ。カスが俺に説教するなんて、死ねよ」「何してるんだ、早く行かないと」おばあちゃんは皺だらけの顔をしかめながら、私に不機嫌そうに言った。おばあちゃんは私が女の子だということで、昔から私に冷たかった。母は場を和ませようと、目をくるりと回し、偽りの笑顔を浮かべて私に聞いた。「美奈、ママのお腹の中には弟か妹、どっちがいいと思う?」私はどうにかしてこの悪魔が生まれてくるのを止める方法を考えることで頭がいっぱいで、おばあちゃんの話なんて気に留めなかった。「ママ、遺伝子検査をしてみたら?ヤコブ症候群を持っている子供がいて、反社会的人格を持って生まれてくることがあるらしいよ」「まあ、そんなこと思いつかなかったわね。私の友達にその道の専門家がいるから、頼んで聞いてみるわ」私は心の中で焦り、明らかにおばあちゃんの言う検査とは別物だと思った。それでも少しの希望を抱いていた。もし弟のヤコブ症候群が検出されたら、それも悪くないかもしれない。だが私はまだ、おばあちゃんにとって弟がどれほど大切な存在であるかを甘く見ていた。
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第2話

「男の子だったわよ」「本当?お母さん」「嘘じゃないわ。私の友達は信頼できる人よ」両親が嬉しそうな顔をしているのを見て、私は何とも言えない気持ちになった。記憶では、両親はこの子をとても楽しみにしていて、周りの人はみんな冗談で「美奈に弟ができたら、もう両親に愛されなくなるよ」なんて言っていた。それが怖くて大泣きした私に、両親は笑顔で「弟か妹ができても、もっと愛してあげるよ」と言ってくれた。でも、彼らは約束を破った。食べ物も、飲み物も、服も、遊びも、全部弟が選んでからでなければ、私の番は回ってこなかった。私は崩れ泣きながら叫んだ。「なんで全部弟が先なの?男女差別なの?」父は厳しい顔で私を叱った。「美奈、お前はお姉さんなんだから、小さい子を優先するのが当然だ。先生も教えてくれたはずだろう、年長者を敬い、年少者を大切にすることを」その時、何かが違うと感じたが、反論することはできなかった。「おばあちゃん、ヤコブ症候群のこと言ってなかった?」「そうだよ、お前みたいな小さい子にしては、知識が豊富だね。友達が言うには、その子はXYなんとかが他の子より多いらしい」「XY染色体のこと?XYY、Y染色体が1本多いってことだね」「そうだ、それそれ」私はほっと息をついた。調べてもらったなら良かった。だが次の瞬間、心が締め付けられた。「ヤコブ症候群ってすごく強そうじゃない?他の人より染色体が多いなんて、きっと賢いんだわ」私は焦り足を踏み鳴らしながら、前世で調べたヤコブ症候群に関する資料をすべて口にした。「この小娘、そんなに小さいのに、ずる賢いわね。嫉妬してるんじゃないの、弟に?」母は優しくしゃがみ込み、私を慰めた。「弟が生まれても、パパとママは変わらずに美奈を愛するから、心配しなくていいのよ」父もついでに同調した。私の心は少しずつ沈んでいった。今の母の優しい声は、私を溺れさせるには十分だった。もう両親にこの子を諦めさせることはできないと悟った。もう、自分で動くしかない。
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第3話

「美奈、早くこっちに来なさい。もうすぐ雨が降るよ」スーパーの入り口に立っている母を見つめながら、私はゆっくりと歩いていった。目の前にはスーパーの階段がある。高くはなく、たった四段だけ。この高さがちょうどいい。母に大きな怪我をさせずに、お腹の中の悪魔を取り除くことができる。完璧な計画だ。でも、私の手は思うように動かない。母の横顔はとても優しい。手は震え続け、まるで重い石を抱えているかのように、腕を持ち上げることができない。タクシーがゆっくりと近づいてくる。ぼんやりと見ていると、それが弟の運転するおもちゃの車に見えてきた。彼の顔には陰険な笑みが浮かんでいて、母にまっすぐぶつかっていく。母が足を押さえて倒れ、苦しむ様子を見ると、弟はさらに嬉しそうに笑った。私は迷うことなく手を押し出した。驚きの声が響き、母は見事に地面に倒れた。彼女のスカートの裾はすぐに血に染まっていく。だから、この悪魔は死ぬのだろうか。母の痛みに満ちた叫び声が、私を現実に引き戻した。「美奈......あなた......」 母の顔は恐怖で歪んでいた。その時初めて、自分が口元に微笑みを浮かべていることに気づいた。私は慌てて笑みを抑え、口では慌てて助けを求めた。
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第4話

まさか、あの子の生命力がこんなに強いとは思わなかった。医者から「赤ちゃんは無事です。あとは安静にしていれば大丈夫でしょう」と言われた。心の中で失望感が止まらなかった。おばあちゃんは嫌味たっぷりに母を責めた。しかし、母はただ黙ってすべての責任を背負い込んでいた。私は母の体から生気が抜けていくのを感じた。まるで今にも私の前からいなくなってしまいそうだった。罪悪感、自己嫌悪、そして不安――言葉では表現できない感情が押し寄せてきた。私は耐えきれず、母の手をそっと握り、小さな声で「お母さん」と呼んだ。母はぼんやりしていたが、私に気づき、優しく微笑んでくれた。その瞬間、私はほっとして、母の手の甲に顔をそっと寄せた。
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第5話

次の「悪魔を除く」計画を立てる暇もなく、私は祖母の家に送られた。「行きたくないよ!お父さんとお母さんと一緒にいたいの!嫌だ、嫌だ......」「美奈、いい子だから。今はお母さんが君の面倒を見れないの。もう少し経ったら、迎えに行くからね」「嫌だ!お母さんに会いたくなったら、どうするの......うぅ......」母は迷いを見せたが、私がさらに訴える前に、大きな手に抱き上げられてしまった。「いい子にして、母さんを困らせるな。少ししたら、お父さんが迎えに来るよ」でも、彼らが言っていた「少し」は半年以上も経ってしまった。迎えに来たのは、弟の初めてのお祝いの日だった。母は弟を抱え、父はその隣に立っている。周りの人たちは、みんな順番にお祝いの言葉をかけていた。二人とも満面の笑みを浮かべ、弟を囲んで幸せそうな家族に見えた。祖母は私の背中をそっと押した。「あら、私の可愛い孫娘じゃないの。おいで、たっぷり可愛がってあげるわよ」私はよく分かっていた。おばあちゃんに「可愛い孫」と呼ばれるのも、すべて弟のおかげだということを。「美奈、お腹すいてないか?パパが美味しいものを取ってくるよ」「美奈、欲しいプレゼントはある?ママが買ってあげるよ」父と母の言葉はぎこちなく、それでも熱心だった。私は口を開けたが、突然何も言うことがないように感じた。ふと、祖母の家に戻りたくなった。宴会が終わり、私は祖母の手を引いて一緒に帰りたいと言った。「美奈、祖母はもう年を取っていて、この間、君の世話でかなり疲れているんだ。少し大人になって、私たちと一緒に帰ってくれないか?祖母には休んでもらおうよ」そうして、私はまたあの家に戻ることになった。母は私に対して警戒しているようだった。私が少しでも弟に近づくと、すぐに私を遠ざけた。正直、この頃、弟を「除く」ことを諦めようかと思うこともあった。だって、まだ小さい彼は白くてぷくぷくしていて、香りも良くて柔らかく、とても可愛かったから。でも、あの日、彼がフォークを持って、おばあちゃんの目に突き刺したあの日までは。
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第6話

弟は今、自分でお箸やフォークを使って食べる練習をしている時期だった。私が洗面所で手を洗っていると、突然リビングから悲鳴が聞こえた。慌てて駆けつけると、おばあちゃんが床にうずくまり、手で目を覆っていた。指の隙間からは真っ赤な血が溢れ出していた。弟は赤ちゃん用の椅子に座り、大喜びしていた。まるで、とても面白いものを見つけたかのように、楽しそうに笑っていた。ぼんやりと見ていると、彼の笑顔が前世で私を階段から突き落としたときの、あの歪んだ笑みと重なった。私はすぐに前に飛び出し、彼に思い切りビンタを食らわせた。怒りが込められたそのビンタは強烈で、彼の体がぐらつき、次の瞬間には耳を裂くような泣き声が響き渡った。すぐに異変に気づいた。彼の耳のあたりから、少しずつ血が流れ出していたのだ。突然、強い力で私は押し飛ばされ、頭をコーヒーテーブルに激しくぶつけた。頬の痛みには気づかないままだった。父が大声で泣き叫ぶ弟を抱き上げ、私に向かって殺気立った目を向けた。「美奈、死にたいのか!」父の怒りは、私を燃え尽きさせるほど強烈だった。恐怖で体が震え、私は腕で自分を抱きしめ、言葉を発せずただ首を振るばかりだった。母の焦った声が聞こえたとき、ようやく私はそっと顔を上げた。しかし、その光景は私を殺すよりも辛かった。母は慌てて弟を抱きしめ、「大丈夫、どこが痛いの?」と何度も繰り返し、涙が次々と床に落ち、それが私の心にも重くのしかかった。母は一度も振り返って私を見てはくれなかった。冷たい。なぜこんなに冷たいのか。もう冬になったのだろうか。耳元には父がおばあちゃんを支え、母が弟を抱きしめる音が聞こえ、しばらくして部屋は静かになった。私は頭を上げ、空っぽの部屋を見つめた。瞬間的に、この世に私しかいないように感じた。
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第7話

おばあちゃんの左目は失明し、弟は医師の素早い対応で聴力は保たれたものの、耳鳴りの後遺症が残ってしまった。事態が落ち着いた。後、私は寄宿学校に送られた。寄宿学校には、1週間に1度、2週間に1度など、帰宅の頻度が違うところもあるが、私が送られた学校は1ヶ月に1度しか帰れないところだった。前世でも弟が原因で寄宿学校に送られた。「食うか食われるか」が社会の常識であり、学校でもそれは変わらなかった。学校ではトイレに頭を押しつけられたり、服を剥がされて写真を撮られたりした経験が、再び頭をよぎった。私は必死に両親に泣きついて懇願したが、おばあちゃんに平手打ちをくらった。「まだ演技してるのか。こんなに小さいくせに、なんて悪意のある子だ。泣く資格なんてない!お前のせいで私の目が見えなくなったんだぞ!」私はその一撃に呆然とし、さらに彼女の断言に頭が混乱した。おばあちゃんは私を「厄介者」と罵り続け、最後には平手打ちがどんどん重くなっていった。それでも母が「子供にそこまでしなくても」と一言言って、ようやくおばあちゃんは手を止めた。「行きなさい」これは私が家を出るとき、母が私に言った唯一の言葉だった。私は「厄介者」というレッテルを背負ったまま、寄宿学校に入った。
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第8話

私はできる限り自分の存在を消しながら、年を繰り返し過ごしていたが、それでもトイレで誰かに待ち伏せされた。化粧が濃く、未成熟な顔立ちにそぐわないほど、煙草を吸っていた彼女たち。「お前が美奈?大した顔でもないな。しかも顔に傷があるじゃないか。ブスがよ」隣の女の子が彼女に耳打ちすると、彼女は急に怒りをあらわにし、私の頬をぐっとつかんだ。「学校一の美少女?今日からは、ただの笑い者にしてやるよ」内心で突然、ほんの一瞬だけ挫折感を覚えた。ずっと前世の悲劇を変えようと必死だったのに、運命の歯車は何一つ変わっていなかった。でも、その挫折感は一瞬だけだった。もう一度生き直して、ここで怯むわけにはいかない。タイミングを見計らって、トイレにあったモップを掴み、狂ったように振り回した。彼女たちは近づくことができなかった。「近づかないで!」「一人しかいないじゃない。みんなで一斉に行けば大丈夫よ!」モップがトイレの穴に入ってしまい、強烈な臭いに思わず吐き気がこみ上げた。後ろにモップを振り回すと、あたり一面に悲鳴が響き、耳膜が破れそうなほどだった。モップにくっついた汚物で誰かを突けば、その場で倒れそうなほどの威力があった。「あなたたち、何をしているんだ!!!」教頭先生のピカピカに輝く頭には、無関係な汚物が数滴飛び散っていた。もし怒りが実体化するなら、私はその場で燃え尽きていたかもしれない。「親を呼び出しなさい!」
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第9話

父は教頭先生との話を終えると、厳しい表情で私の方を振り返った。私は負けずに父を睨み返した。どうせ男女差別なんだろう。好きに怒ればいい。「お前のおじいちゃんが......」父は一瞬、言葉を詰まらせ、なかなか続きを口に出せなかった。「おじいちゃんが亡くなったんだ」その時の心情はよく覚えていない。ただ、足がガクンと崩れ、涙が自然に溢れ出てきた。
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第10話

おじいちゃんの葬式は、田舎の実家で行われた。遺言通り、故郷に眠りたいとのこと。弟が生まれてから、家の中で私に優しくしてくれた唯一の人が、おじいちゃんだった。昔の記憶の中では、夕方になると農作業を終えたおじいちゃんが、よく私を肩車して村の東から西まで散歩に連れて行ってくれた。学校に通ったことがないおじいちゃんは、村の人々に「うちのお姫様を連れて散歩だ」と誇らしげに言っていた。夕陽が沈む中、鼻歌を歌いながらおじいちゃんが私をあやすと、いつも私は笑い声をあげていた。あの曲がまだ頭の中で響いているようで、涙がまた視界をぼやけさせた。「いつまでここにいるつもりだよ。もう死んでるんだから、さっさと片付けろよ」ぼやけた視界の中、弟の佐藤俊一が眉をひそめ、苛立ちを隠せない様子でおばあちゃんにそう言いながら、手で何度も叩いていた。そうだ、前世でも、彼が言い争いになり、怒りに任せておじいちゃんに拳を振り、罵声を浴びせ続けたせいで、心臓の悪かったおじいちゃんが亡くなったのだ。今世ではなぜか、その出来事が早まってしまった。でも、俊一が関係していることに違いはない。怒りが頭にのぼり、私は俊一の襟をつかんで、その首を絞めた。「お前だろう!お前がまたおじいちゃんを怒らせたんだろう、この悪魔め!なんでお前が死なないんだ!」力を込めると、彼の顔はすぐに紫色に変わり、目は白目をむき始めた。
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