次の「悪魔を除く」計画を立てる暇もなく、私は祖母の家に送られた。「行きたくないよ!お父さんとお母さんと一緒にいたいの!嫌だ、嫌だ......」「美奈、いい子だから。今はお母さんが君の面倒を見れないの。もう少し経ったら、迎えに行くからね」「嫌だ!お母さんに会いたくなったら、どうするの......うぅ......」母は迷いを見せたが、私がさらに訴える前に、大きな手に抱き上げられてしまった。「いい子にして、母さんを困らせるな。少ししたら、お父さんが迎えに来るよ」でも、彼らが言っていた「少し」は半年以上も経ってしまった。迎えに来たのは、弟の初めてのお祝いの日だった。母は弟を抱え、父はその隣に立っている。周りの人たちは、みんな順番にお祝いの言葉をかけていた。二人とも満面の笑みを浮かべ、弟を囲んで幸せそうな家族に見えた。祖母は私の背中をそっと押した。「あら、私の可愛い孫娘じゃないの。おいで、たっぷり可愛がってあげるわよ」私はよく分かっていた。おばあちゃんに「可愛い孫」と呼ばれるのも、すべて弟のおかげだということを。「美奈、お腹すいてないか?パパが美味しいものを取ってくるよ」「美奈、欲しいプレゼントはある?ママが買ってあげるよ」父と母の言葉はぎこちなく、それでも熱心だった。私は口を開けたが、突然何も言うことがないように感じた。ふと、祖母の家に戻りたくなった。宴会が終わり、私は祖母の手を引いて一緒に帰りたいと言った。「美奈、祖母はもう年を取っていて、この間、君の世話でかなり疲れているんだ。少し大人になって、私たちと一緒に帰ってくれないか?祖母には休んでもらおうよ」そうして、私はまたあの家に戻ることになった。母は私に対して警戒しているようだった。私が少しでも弟に近づくと、すぐに私を遠ざけた。正直、この頃、弟を「除く」ことを諦めようかと思うこともあった。だって、まだ小さい彼は白くてぷくぷくしていて、香りも良くて柔らかく、とても可愛かったから。でも、あの日、彼がフォークを持って、おばあちゃんの目に突き刺したあの日までは。
弟は今、自分でお箸やフォークを使って食べる練習をしている時期だった。私が洗面所で手を洗っていると、突然リビングから悲鳴が聞こえた。慌てて駆けつけると、おばあちゃんが床にうずくまり、手で目を覆っていた。指の隙間からは真っ赤な血が溢れ出していた。弟は赤ちゃん用の椅子に座り、大喜びしていた。まるで、とても面白いものを見つけたかのように、楽しそうに笑っていた。ぼんやりと見ていると、彼の笑顔が前世で私を階段から突き落としたときの、あの歪んだ笑みと重なった。私はすぐに前に飛び出し、彼に思い切りビンタを食らわせた。怒りが込められたそのビンタは強烈で、彼の体がぐらつき、次の瞬間には耳を裂くような泣き声が響き渡った。すぐに異変に気づいた。彼の耳のあたりから、少しずつ血が流れ出していたのだ。突然、強い力で私は押し飛ばされ、頭をコーヒーテーブルに激しくぶつけた。頬の痛みには気づかないままだった。父が大声で泣き叫ぶ弟を抱き上げ、私に向かって殺気立った目を向けた。「美奈、死にたいのか!」父の怒りは、私を燃え尽きさせるほど強烈だった。恐怖で体が震え、私は腕で自分を抱きしめ、言葉を発せずただ首を振るばかりだった。母の焦った声が聞こえたとき、ようやく私はそっと顔を上げた。しかし、その光景は私を殺すよりも辛かった。母は慌てて弟を抱きしめ、「大丈夫、どこが痛いの?」と何度も繰り返し、涙が次々と床に落ち、それが私の心にも重くのしかかった。母は一度も振り返って私を見てはくれなかった。冷たい。なぜこんなに冷たいのか。もう冬になったのだろうか。耳元には父がおばあちゃんを支え、母が弟を抱きしめる音が聞こえ、しばらくして部屋は静かになった。私は頭を上げ、空っぽの部屋を見つめた。瞬間的に、この世に私しかいないように感じた。
おばあちゃんの左目は失明し、弟は医師の素早い対応で聴力は保たれたものの、耳鳴りの後遺症が残ってしまった。事態が落ち着いた。後、私は寄宿学校に送られた。寄宿学校には、1週間に1度、2週間に1度など、帰宅の頻度が違うところもあるが、私が送られた学校は1ヶ月に1度しか帰れないところだった。前世でも弟が原因で寄宿学校に送られた。「食うか食われるか」が社会の常識であり、学校でもそれは変わらなかった。学校ではトイレに頭を押しつけられたり、服を剥がされて写真を撮られたりした経験が、再び頭をよぎった。私は必死に両親に泣きついて懇願したが、おばあちゃんに平手打ちをくらった。「まだ演技してるのか。こんなに小さいくせに、なんて悪意のある子だ。泣く資格なんてない!お前のせいで私の目が見えなくなったんだぞ!」私はその一撃に呆然とし、さらに彼女の断言に頭が混乱した。おばあちゃんは私を「厄介者」と罵り続け、最後には平手打ちがどんどん重くなっていった。それでも母が「子供にそこまでしなくても」と一言言って、ようやくおばあちゃんは手を止めた。「行きなさい」これは私が家を出るとき、母が私に言った唯一の言葉だった。私は「厄介者」というレッテルを背負ったまま、寄宿学校に入った。
私はできる限り自分の存在を消しながら、年を繰り返し過ごしていたが、それでもトイレで誰かに待ち伏せされた。化粧が濃く、未成熟な顔立ちにそぐわないほど、煙草を吸っていた彼女たち。「お前が美奈?大した顔でもないな。しかも顔に傷があるじゃないか。ブスがよ」隣の女の子が彼女に耳打ちすると、彼女は急に怒りをあらわにし、私の頬をぐっとつかんだ。「学校一の美少女?今日からは、ただの笑い者にしてやるよ」内心で突然、ほんの一瞬だけ挫折感を覚えた。ずっと前世の悲劇を変えようと必死だったのに、運命の歯車は何一つ変わっていなかった。でも、その挫折感は一瞬だけだった。もう一度生き直して、ここで怯むわけにはいかない。タイミングを見計らって、トイレにあったモップを掴み、狂ったように振り回した。彼女たちは近づくことができなかった。「近づかないで!」「一人しかいないじゃない。みんなで一斉に行けば大丈夫よ!」モップがトイレの穴に入ってしまい、強烈な臭いに思わず吐き気がこみ上げた。後ろにモップを振り回すと、あたり一面に悲鳴が響き、耳膜が破れそうなほどだった。モップにくっついた汚物で誰かを突けば、その場で倒れそうなほどの威力があった。「あなたたち、何をしているんだ!!!」教頭先生のピカピカに輝く頭には、無関係な汚物が数滴飛び散っていた。もし怒りが実体化するなら、私はその場で燃え尽きていたかもしれない。「親を呼び出しなさい!」
父は教頭先生との話を終えると、厳しい表情で私の方を振り返った。私は負けずに父を睨み返した。どうせ男女差別なんだろう。好きに怒ればいい。「お前のおじいちゃんが......」父は一瞬、言葉を詰まらせ、なかなか続きを口に出せなかった。「おじいちゃんが亡くなったんだ」その時の心情はよく覚えていない。ただ、足がガクンと崩れ、涙が自然に溢れ出てきた。
おじいちゃんの葬式は、田舎の実家で行われた。遺言通り、故郷に眠りたいとのこと。弟が生まれてから、家の中で私に優しくしてくれた唯一の人が、おじいちゃんだった。昔の記憶の中では、夕方になると農作業を終えたおじいちゃんが、よく私を肩車して村の東から西まで散歩に連れて行ってくれた。学校に通ったことがないおじいちゃんは、村の人々に「うちのお姫様を連れて散歩だ」と誇らしげに言っていた。夕陽が沈む中、鼻歌を歌いながらおじいちゃんが私をあやすと、いつも私は笑い声をあげていた。あの曲がまだ頭の中で響いているようで、涙がまた視界をぼやけさせた。「いつまでここにいるつもりだよ。もう死んでるんだから、さっさと片付けろよ」ぼやけた視界の中、弟の佐藤俊一が眉をひそめ、苛立ちを隠せない様子でおばあちゃんにそう言いながら、手で何度も叩いていた。そうだ、前世でも、彼が言い争いになり、怒りに任せておじいちゃんに拳を振り、罵声を浴びせ続けたせいで、心臓の悪かったおじいちゃんが亡くなったのだ。今世ではなぜか、その出来事が早まってしまった。でも、俊一が関係していることに違いはない。怒りが頭にのぼり、私は俊一の襟をつかんで、その首を絞めた。「お前だろう!お前がまたおじいちゃんを怒らせたんだろう、この悪魔め!なんでお前が死なないんだ!」力を込めると、彼の顔はすぐに紫色に変わり、目は白目をむき始めた。
「誰か、早く誰か来て!この悪い子を、こいつを殺してやる!ああ、俊一が!」叩かれ、蹴られ、肌をつねられても、私は痛みを感じなかった。ただ、強い力で引き離されるまで。「ゴン!」と大きな音がした。次の瞬間、私は温かくて懐かしい胸の中に引き寄せられた。「美奈、大丈夫よ。お母さんがいるから、もう大丈夫だからね」弟が生まれてから、母に抱かれたのは一体どれくらいぶりだっただろう。強がっていた心が一瞬で崩れ去り、抑えていた悲しみが一気に溢れ出した。私は母の腕にしがみつき、嗚咽を漏らした。「警察を呼べ!この子を捕まえろ!甘やかした結果がこれだ!まだ守るつもりなのか?今日は絶対にこの悪い子を懲らしめてやる!」そこでようやく気がついた。おばあちゃんの手には折れた木の棒が握られていた。さっきの「ゴン」という音は、その棒が折れた音だった。赤ん坊の腕ほどもある太さの棒が、私に当たっていたのだ。おばあちゃんは母を押しのけながら、私を殴ろうと叫び続けていた。「あなた、何か言いなさいよ!!」突然の母の怒声で、騒がしかった場が一瞬で静まり返った。母は怒りに満ちた表情で、父を睨みつけながら叫んでいた。父はいつも通り、ただ口を開けて、唇を動かしただけで、すぐにきつく閉じてしまった。一瞬静止していたおばあちゃんは勢いを取り戻し、母を強く押しのけ、木の棒を振り上げようとした。「私の娘に手を出せると思ってるの?」私が気づく前に、母の手にその木の棒が握られていた。母の目には怒りの炎が宿り、歯を食いしばり、無謀な侍のように私の前に立ちはだかった。心の中の隙間が埋められたような気がした。たとえ全世界が私を見捨てても、母だけはずっと私を愛してくれた。でも次の瞬間、心の奥に潜む獰猛な獣が暴れ出し、周りの全てを引き裂こうと叫んでいるのが感じられた。「お母さん、苦しいよ、ごほっ、ごほっ......」母は焦りながら弟の元へ駆け寄った。俊一はその腕の中で「怖いよ」と言いながらも、口元には笑みを浮かべ、その顔には悪意が満ちていた。こうして、この「選択の戦い」で彼はまたしても勝利を収めたのだった。もし視線が実体を持つなら、俊一は私に貫かれてすでに千々に裂かれていただろう。一連の騒ぎが収まると、おばあちゃんの意向で私は「女性の道徳教
学校にいるとき、前世での出来事が映画のように何度も頭をよぎり、ある奇妙な点に気がついた。高校の寄宿学校は、1ヶ月にたった4日しか休みがなかったが、その4日間だけは俊一以外の皆が妙に慎重に振る舞っていた。いつも「鉄の女」だったおばあちゃんでさえ、怯えたように縮こまっていた。何か私の知らない事情があるはずで、それはきっと俊一に関係していた。私は体調不良を装い、数日間の休みを取って帰宅した。家の中は静まり返っていたが、突然、寝室から短い悲鳴が聞こえ、その後すぐに不気味な静寂が戻ってきた。その声は短かったが、俊一の部屋から発せられたものであることは分かった。部屋の扉を開けると、俊一が若い女の子を押し倒していた。その子は口と鼻をしっかりと塞がれ、涙を流しながら天井をぼんやりと見つめていた。私は全身が震え、恐怖が体を支配していった。「何をしているの?」俊一は驚いて床に尻もちをついた。だが、すぐに態度を取り戻し、憎々しげに私を睨んできた。「このクソ女、なんで帰ってきやがった!」
消防隊は迅速に到着し、すぐに火は消し止められた。私は霊体となって空中に浮かび、地上を見下ろしていた。部屋には焦げた肉の匂いが漂い、消防士が二つの黒焦げの遺体を引き出した。その場面を見ると、母は取り乱し、気を失った。おばあちゃんは地面に座り込み、私と母が「不幸を招く者」だと罵り続けていた。そして、父は到着した警察に連行された。おばあちゃんは泣き叫び、道を塞いで警察に抗議していた。そうよ、行かないでよ。お父さんにあげるプレゼント、まだ持って行ってないから。現場に残っていた調査員たちは、すぐに私の部屋から一冊の日記を見つけた。その中には、私と母が何年にもわたって受けてきた屈辱の数々、そして父の浮気の証拠や、父が「冗談」と称して話していた保険金詐欺の計画などが記されていた。その内容が真実かどうかなんて、誰にも分からない。だって、死者は嘘をつかないからね。おしまい
今日は俊一と約束した実行の日だ。彼は父とおばあちゃんをうまく外出させていた。家の中は静まり返り、弱った母が昼寝しているだけだった。計画では、母がちょうど眠り薬で意識が朦朧としている間に、私はドアの見張りをし、彼が中に入って毛布で母を窒息させることになっていた。一見完璧に見えた計画だが、予想外のことが起きた。彼の「彼女」が突然家に現れたのだ。艶やかに着飾った女性が、私を一瞥してから俊一の腕に絡みついた。俊一は初め不機嫌そうだったが、すぐに彼女に誘われて部屋へと消えていった。ドアが閉まる瞬間、彼女は私に向かってそっとウインクした。私は冷笑を浮かべた。俊一は私が愚かだとでも思っているのか?彼の計画は彼一人で完遂できる内容だった。それなのにわざわざ私を巻き込んだのか。その理由は、母を殺すだけでなく、私に罪をなすりつけようという魂胆だったに違いない。私は母の部屋に入り、彼女の白くなった寝顔をじっと見つめた。以前はよく笑っていた母だったが、その笑顔もだんだんと消え、代わりにシワが増えていった。人生は長いのだから、母には人間らしい幸せを味わってほしい。こんなクズたちに苦しめられるべきではない。ドアをノックする音が静かに聞こえ、私はドアを開けた。艶やかな化粧を施した彼女の顔がそこにあり、待ちきれない様子で手を差し出した。「終わったわよ。じゃあ、お金は?」私は彼女に一束の現金を放り投げた。「さすが、昔のクラスメイトね。今度またこんな仕事があったら教えてよ。割引してあげるから」彼女の言葉には応じず、ただ静かに見つめていた。彼女の顔には厚化粧が施されていたが、その声は、かつてトイレで私を取り囲んだ時とまったく同じ傲慢さがにじんでいた。部屋は再び静まり返り、私は携帯電話を取り出して連絡をつけ、すべての手配を終えた後、俊一の部屋に向かった。軽い寝息が聞こえてくる中、私は枕を持ち上げ、彼の顔に押しつけた。突然、枕の下で激しい抵抗が起こり、私は足元がふらついて床に倒れこんだ。「やっぱりお前が悪だくみしてたんだな!俺を殺そうとしたな。ぶっ殺してやる!」彼は何度も立ち上がろうとしたが、薬のせいでうまく立ち上がれない。「ははは、ピエロだな。お前、笑えるよ......」彼は口汚く私を罵り、殺してや
「どうだ、話は簡単だろう?彼女さえいなければ、この家は俺が牛耳れるんだ。もう誰にも邪魔されない。お前が協力するなら、家の一部屋を譲ってやってもいいぜ」「そういえば、まだ彼女いないだろ?私の知り合いにすごく美人がいるんだが......」私は彼の話を遮り、ぼそっと言った。「お前は彼女を殺したいってわけか。でも、父さんとおばあちゃんが......」「お前、頭が本当に悪いんじゃないのか?おばあちゃんが母を嫌ってるのは知ってるだろ。母がいなくなれば、むしろ喜ぶさ。父だって、これで堂々と女の同僚と一緒にいられるんだ。彼女が死ねば、みんなが喜ぶんだよ」俊一は計画を語りながらますます興奮し、その目には狂気に満ちた光が宿っていた。「いいよ、じゃあその計画で進めよう」私が振り返って立ち去ろうとした時、彼は我慢できずに尋ねた。「その知り合いの女って......」私は彼のたくましい腕の筋肉を見ていた。「後で彼女のLINEを送ってやるよ」
それは、私がまだ幼かった頃のことだった。喉が渇いて水を欲しがった時のことだ。ちょうど沸かしたばかりの熱湯を、母は二つのカップの間で慎重に移し替えていた。私は母が手元に集中しているのを見て、彼女を突き飛ばした。母は倒れ、カップの熱湯がその身に降り注いだ。「痛っ......」母が苦痛に叫ぶ中、私はとても嬉しくて笑っていた。母は痛みを堪えながら、私の前にしゃがみこんで優しく言った。「美奈、そんなことしちゃだめよ。もしあなたが火傷していたらどうするの?」私は素直に頷いたものの、他人が苦しむ声に酔いしれていた。おばあちゃんが「女の子なんて役立たずだ」と嫌味を言っていた時、私はこっそりとカッターナイフを取り出し、彼女の腕を切りつけた。腕から血がポタポタと床に滴り、赤い血の花が咲いてとても美しかった。それだけでは物足りなくて、もっと血の花を見たかったけれど、父に手を叩かれてナイフを落としてしまった。「お父さんなんて嫌い、大嫌い、死んじゃえばいいのに」それは、母が私を初めて叩いた時だった。震える手で私の頬を打った彼女の顔には、涙が一面に流れていた。父が小声で呟くのが聞こえた。「医者が言っていたことは本当だった。この子は本当に産むべきではなかったのかもしれない......」しかし、母は信じなかった。彼女は何度も私に「優しくしなさい」「みんなと仲良く」「命を大切にしなさい」と教え続けた。私はいつも大人しく頷き、母の言う通りにしていたけれど、どうしても心からの喜びを感じることはできなかった。心の中で何かが叫び続けていた。すべてを壊したい、滅ぼしたい、そして誰かを苦しめたいと。公園で子供を押し倒したり、わざと道行く人を足で引っ掛けたり、家の中で鋭利なものをどうにかして両親に当たるように仕向けたりしていた。母の目から光がだんだんと失われていくのがわかった。しかしある日、母の目に再び光が戻り、嬉しそうに「弟か妹ができるのよ」と私に告げた。その笑顔が私の目に刺さるようで、たまらなく痛かった。私は大声で叫び、周りの物を片っ端から叩きつけ、最後に家を飛び出した。大雨が私の体を濡らし、冷たい寒さが全身に染みわたり、体が震えた。意識はだんだん遠のき、体は寒くなったり暑くなったりして、気分が悪くて仕方なかった。
学校の先生が家で事件があったことを知らせてくれた時、反射的に「また俊一が何かやらかしたのでは」と思った。救急室で横たわる母を目にした瞬間、膝の力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになった。母はベッドの上に静かに横たわり、酸素マスクが顔のほとんどを覆っている。その顔色はシーツと同じくらい白かった。医師によると、流産による大量出血が原因で、出血は止まったものの、しばらく入院して様子を見る必要があるとのことだった。おばあちゃんは「また余計な金がかかるわね」と不満げに呟き、父はいつも通りの無表情で何も言わなかった。流産?どうしてそんなことが起きたのか。私はゲームに没頭している俊一をじっと見た。彼はゲーム相手に毒づきながら、口汚く罵っていた。私は彼のスマホを蹴り飛ばした。「てめえ、何してやがる!?」彼は凶悪な顔つきでこちらに飛びかかってきた。「お前だろう、またお前の仕業だ、そうだろう?」彼は私の意図を理解したようだった。不敵な笑みを浮かべていた。「俺だよ、だからどうした?あの歳でまた妊娠して、俺の代わりを生むつもりだったのか?バカじゃないのか」「最低だ、畜生め!」彼は私の襟を掴み、引き寄せながら吐き捨てた。「俺が畜生だって?お前も同じだろ。俺の時だって、お前はあいつを突き飛ばしたんだろう?俺より偉いってわけじゃないんだよ」酸素が薄れていくように感じ、頭が激しく痛んだ。かすかな叫び声が耳元で聞こえた。意識が遠のく前に、ベッドで青白く横たわる母の姿が見えた。すると、忘れていた記憶が次々と蘇ってきた。思い出したのだ。
俊一の年齢が、彼にとって最も強力な保護となった。彼はすぐに家に戻ってきたのだ。「このクソ女!!」彼は私に飛びかかり、取っ組み合いが始まった。俊一は体が大きくても、まだ大人の力には及ばない。私はすぐに彼を押さえ込んだ。抑えきれない怒りと悔しさをこめて、拳を彼に叩きつけ続けた。帰宅したばかりの両親に止められなければ、本当に彼を殺していたかもしれない。私は家族に囲まれている俊一を冷ややかに見つめ、内心では何も感じなかった。どれだけ悪事を働いても、どれだけひどいことをしても、許され守られる人がいる。それが「男の子」であり、ただその理由だけで。顔を殴られ青紫になった俊一は家族の関心を一通り受けた後、またしても得意げに振る舞い始めた。「中村静香、どこに行ったんだ?あの女のせいで、俺がこんな目に遭ってるんだぞ」「怒らないでね。あの子ならもうとっくに追い出しておいたよ。小さいくせにうちの俊一を誘惑するなんて、ろくな大人にならないに決まってるからね。毎日、彼女の家の前で悪口を言ってやったのさ。おかげで近所中があの子がどういう子か分かってるよ」「なんだって??」二人の男の声が同時に響いた。一人は驚愕で、もう一人は怒りの色を含んでいた。父は自分の母がそんな厚顔無恥なことをしていたとは思いもよらなかったから驚いていた。そして俊一は、「彼女を追い出しただと?じゃあ、これからどうやって楽しめって言うんだよ」ずっと黙っていた母は、顔色がみるみるうちに青ざめ、生気が抜けたように信じられない思いで自分の息子を見つめていた。彼女は子供が間違いを犯しても、時間をかけて導いてあげれば立ち直れると信じていた。しかし、ヤコブ症候群の影響を甘く見ていたのだ。「性根が腐っている人間が、変わるなんてありえない」「おせっかいなババアが、余計なことしやがって」私はこの奇妙な家族のやり取りにもう飽き飽きしていたので、振り返ることなく自分の部屋に戻った。ドアが閉まった瞬間、足の力が抜け、私はその場にしゃがみ込んだ。俊一が刑務所に入らないということは、いつかまた彼に殺される運命にあるということだ。この家の中では、いつか命を落とすか分からない。まだ俊一にどう対処するか考えがまとまらないうちに、今度は母に異変が起きた。
ああ、惜しかったわね。部屋の緊張した雰囲気は少しだけ和らいだ。「美奈!!!」怒りに満ちた顔で父が飛びかかってきて、手を高く振り上げたが、母が必死にその腕を抱き止めた。母は涙で顔を濡らし、苦しそうに言葉も出せず、ただ黙って父に向かって首を横に振り続けた。前世で死ぬ間際、この家で一番恨んでいたのは母だった。弟が生まれてから、彼女の愛はすべて弟に向けられたからだ。どれだけ母を愛していたか、その分だけ憎んでいた。再び生き直した今になって、盲目的だった私の目はようやく本当のことを見抜いた。本当に恨むべき相手の第一位は「悪魔」俊一、そしてその次が「透明人間」みたい父だ。弟が生まれる前から、おばあちゃんが母に嫌味を言っても、父はすべてを見て見ぬふりだった。おばあちゃんがくだらない理由で私を叱りつけても、父は私を擁護することもなく、むしろ偽善的に説教をした。彼はまるで舞台裏の人物のようで、舞台で誰が騒ごうと、ただ静かに眺めているだけだった。もし父が怒りを表すとすれば、それは「役者」が彼に影響した時だけだ。今、私はちょうど彼に「石」を投げつけたのだ。彼は私を叱ろうとしたが、警察に阻まれた。結局、俊一と私はそれぞれ容疑者と通報者として連行され、事情を聞かれることになった。証拠は明白で、俊一も自白したため、大きな罰ではなかったものの、少しでも苦しむことができれば良しとした。自分の賢さに満足していたその時、私は思いもよらぬ展開で打ちのめされた。
数日後、警察が家に訪ねてきた。「お前だろ?絶対にお前が通報したんだろう?」突然の一言で、皆の視線が一斉に私に向けられた。それに続いておばあちゃんが口を開いた。「ほらね、やっぱりお前が戻ってきてからろくなことが起きないんだ。この厄介者め、絶対にまた何か企んで俊一を害しようとしているんだよ。最初から川にでも放り込んでやればよかったのに」頬に平手打ちが飛んできて、すぐに腫れ上がった。口元を少し動かすだけでも鋭い痛みが走る。普段は腰が痛いだの背中が痛いだの言っているおばあちゃんも、俊一のためとなると急に戦士のように豹変した。警察が、顔を真っ赤にし目をむいて怒るおばあちゃんを引き留め、場の雰囲気が落ち着き始めたところで、私はこのまま終わらせる気にはなれなかった。「そうよ、私が通報したの。それで何か問題でもある?」彼女の目はさらに大きく見開かれ、私は微笑んだ。「おばあちゃんの大事な俊一がどんな罪を犯したか知ってる?法律を犯したのよ。ふふ......」おばあちゃんの目から力が抜け、彼女はその場に倒れ込んだ。私はさらに楽しくなり笑い声を上げると、部屋の中は一気に混乱し始めた。年齢的に高血圧や心臓病などの持病を持つ人も多く、一度倒れたらそのまま目を覚まさないかもしれない。みんながツボを押したり、救急車を呼んだりして懸命に対応していた。そして、ようやく長い溜息とともにおばあちゃんは意識を取り戻した。
私は彼の言い訳には全く応じず、震えるその女の子を引き上げて外に連れて行こうとした。俊一は山のような体でドアを塞ぎ、険しい顔でこちらを睨みつけた。「出て行かせないぞ」私は無視して、再び通り過ぎようとしたが、彼に強く押し返されて床に投げ出された。手のひらがひりひりと痛み、擦りむけているのが分かった。無言で冷ややかな表情を浮かべながらゆっくりと立ち上がり、キッチンから果物ナイフを取り出した。「道を開けなさい。もう一度は言わない。私が本気でやらないと思う?」彼がどれだけ怖くても、今はまだ中学生で、前世でのあの冷酷で狡猾な大人には成長していない。私の狂気に満ちた姿に明らかに驚いていた。数秒間の呆然とした後、彼は女の子をじっと睨みつけた。「もし外で変なことを言えば、お前がスカートで俺を誘惑しようとしたって言ってやるぞ。周りのみんなに、どんなやつかばれるぞ。お前の親も恥をかくに違いない」私は背後の女の子の表情を確認することはできなかったが、俊一は続けて言った。「助けても無駄だよ。彼女は俺の姉だ。もし俺に何かあったら、彼女もただじゃ済まないんだから」俊一は年端もいかないのに相当な策略家で、この一言で女の子を怯えさせ、私にもプレッシャーをかけてきた。だが......彼は再び生まれ変わった私の目的が、彼に復讐することだとは知らないのだ。