「どうだ、話は簡単だろう?彼女さえいなければ、この家は俺が牛耳れるんだ。もう誰にも邪魔されない。お前が協力するなら、家の一部屋を譲ってやってもいいぜ」「そういえば、まだ彼女いないだろ?私の知り合いにすごく美人がいるんだが......」私は彼の話を遮り、ぼそっと言った。「お前は彼女を殺したいってわけか。でも、父さんとおばあちゃんが......」「お前、頭が本当に悪いんじゃないのか?おばあちゃんが母を嫌ってるのは知ってるだろ。母がいなくなれば、むしろ喜ぶさ。父だって、これで堂々と女の同僚と一緒にいられるんだ。彼女が死ねば、みんなが喜ぶんだよ」俊一は計画を語りながらますます興奮し、その目には狂気に満ちた光が宿っていた。「いいよ、じゃあその計画で進めよう」私が振り返って立ち去ろうとした時、彼は我慢できずに尋ねた。「その知り合いの女って......」私は彼のたくましい腕の筋肉を見ていた。「後で彼女のLINEを送ってやるよ」
今日は俊一と約束した実行の日だ。彼は父とおばあちゃんをうまく外出させていた。家の中は静まり返り、弱った母が昼寝しているだけだった。計画では、母がちょうど眠り薬で意識が朦朧としている間に、私はドアの見張りをし、彼が中に入って毛布で母を窒息させることになっていた。一見完璧に見えた計画だが、予想外のことが起きた。彼の「彼女」が突然家に現れたのだ。艶やかに着飾った女性が、私を一瞥してから俊一の腕に絡みついた。俊一は初め不機嫌そうだったが、すぐに彼女に誘われて部屋へと消えていった。ドアが閉まる瞬間、彼女は私に向かってそっとウインクした。私は冷笑を浮かべた。俊一は私が愚かだとでも思っているのか?彼の計画は彼一人で完遂できる内容だった。それなのにわざわざ私を巻き込んだのか。その理由は、母を殺すだけでなく、私に罪をなすりつけようという魂胆だったに違いない。私は母の部屋に入り、彼女の白くなった寝顔をじっと見つめた。以前はよく笑っていた母だったが、その笑顔もだんだんと消え、代わりにシワが増えていった。人生は長いのだから、母には人間らしい幸せを味わってほしい。こんなクズたちに苦しめられるべきではない。ドアをノックする音が静かに聞こえ、私はドアを開けた。艶やかな化粧を施した彼女の顔がそこにあり、待ちきれない様子で手を差し出した。「終わったわよ。じゃあ、お金は?」私は彼女に一束の現金を放り投げた。「さすが、昔のクラスメイトね。今度またこんな仕事があったら教えてよ。割引してあげるから」彼女の言葉には応じず、ただ静かに見つめていた。彼女の顔には厚化粧が施されていたが、その声は、かつてトイレで私を取り囲んだ時とまったく同じ傲慢さがにじんでいた。部屋は再び静まり返り、私は携帯電話を取り出して連絡をつけ、すべての手配を終えた後、俊一の部屋に向かった。軽い寝息が聞こえてくる中、私は枕を持ち上げ、彼の顔に押しつけた。突然、枕の下で激しい抵抗が起こり、私は足元がふらついて床に倒れこんだ。「やっぱりお前が悪だくみしてたんだな!俺を殺そうとしたな。ぶっ殺してやる!」彼は何度も立ち上がろうとしたが、薬のせいでうまく立ち上がれない。「ははは、ピエロだな。お前、笑えるよ......」彼は口汚く私を罵り、殺してや
消防隊は迅速に到着し、すぐに火は消し止められた。私は霊体となって空中に浮かび、地上を見下ろしていた。部屋には焦げた肉の匂いが漂い、消防士が二つの黒焦げの遺体を引き出した。その場面を見ると、母は取り乱し、気を失った。おばあちゃんは地面に座り込み、私と母が「不幸を招く者」だと罵り続けていた。そして、父は到着した警察に連行された。おばあちゃんは泣き叫び、道を塞いで警察に抗議していた。そうよ、行かないでよ。お父さんにあげるプレゼント、まだ持って行ってないから。現場に残っていた調査員たちは、すぐに私の部屋から一冊の日記を見つけた。その中には、私と母が何年にもわたって受けてきた屈辱の数々、そして父の浮気の証拠や、父が「冗談」と称して話していた保険金詐欺の計画などが記されていた。その内容が真実かどうかなんて、誰にも分からない。だって、死者は嘘をつかないからね。おしまい
「美奈、行こうか」私は必死に母のお腹を睨んだ。さっき、医者から母がすでに妊娠2ヶ月以上だと確定されたところだった。どうすれば母のお腹にいる悪魔を消し去ることができるのか。前世では、この悪魔が生まれてから、家族をずっと苦しめ続けた。両親を気まぐれに叱りつけ、おばあちゃんの目を刺し、おじいちゃんを怒り死にさせ、そして私が彼に一言注意しただけで、階段から突き落とし全身麻痺にさせた。夜遅く、人工呼吸器を抜かれたこともあった。彼がその時言った言葉は今でも忘れない。口元を歪ませ、目には狂気に満ちた興奮が宿っていた。「起きろよ、お説教好きなんだろ?お前なんて、ただの役立たずだ。カスが俺に説教するなんて、死ねよ」「何してるんだ、早く行かないと」おばあちゃんは皺だらけの顔をしかめながら、私に不機嫌そうに言った。おばあちゃんは私が女の子だということで、昔から私に冷たかった。母は場を和ませようと、目をくるりと回し、偽りの笑顔を浮かべて私に聞いた。「美奈、ママのお腹の中には弟か妹、どっちがいいと思う?」私はどうにかしてこの悪魔が生まれてくるのを止める方法を考えることで頭がいっぱいで、おばあちゃんの話なんて気に留めなかった。「ママ、遺伝子検査をしてみたら?ヤコブ症候群を持っている子供がいて、反社会的人格を持って生まれてくることがあるらしいよ」「まあ、そんなこと思いつかなかったわね。私の友達にその道の専門家がいるから、頼んで聞いてみるわ」私は心の中で焦り、明らかにおばあちゃんの言う検査とは別物だと思った。それでも少しの希望を抱いていた。もし弟のヤコブ症候群が検出されたら、それも悪くないかもしれない。だが私はまだ、おばあちゃんにとって弟がどれほど大切な存在であるかを甘く見ていた。
「男の子だったわよ」「本当?お母さん」「嘘じゃないわ。私の友達は信頼できる人よ」両親が嬉しそうな顔をしているのを見て、私は何とも言えない気持ちになった。記憶では、両親はこの子をとても楽しみにしていて、周りの人はみんな冗談で「美奈に弟ができたら、もう両親に愛されなくなるよ」なんて言っていた。それが怖くて大泣きした私に、両親は笑顔で「弟か妹ができても、もっと愛してあげるよ」と言ってくれた。でも、彼らは約束を破った。食べ物も、飲み物も、服も、遊びも、全部弟が選んでからでなければ、私の番は回ってこなかった。私は崩れ泣きながら叫んだ。「なんで全部弟が先なの?男女差別なの?」父は厳しい顔で私を叱った。「美奈、お前はお姉さんなんだから、小さい子を優先するのが当然だ。先生も教えてくれたはずだろう、年長者を敬い、年少者を大切にすることを」その時、何かが違うと感じたが、反論することはできなかった。「おばあちゃん、ヤコブ症候群のこと言ってなかった?」「そうだよ、お前みたいな小さい子にしては、知識が豊富だね。友達が言うには、その子はXYなんとかが他の子より多いらしい」「XY染色体のこと?XYY、Y染色体が1本多いってことだね」「そうだ、それそれ」私はほっと息をついた。調べてもらったなら良かった。だが次の瞬間、心が締め付けられた。「ヤコブ症候群ってすごく強そうじゃない?他の人より染色体が多いなんて、きっと賢いんだわ」私は焦り足を踏み鳴らしながら、前世で調べたヤコブ症候群に関する資料をすべて口にした。「この小娘、そんなに小さいのに、ずる賢いわね。嫉妬してるんじゃないの、弟に?」母は優しくしゃがみ込み、私を慰めた。「弟が生まれても、パパとママは変わらずに美奈を愛するから、心配しなくていいのよ」父もついでに同調した。私の心は少しずつ沈んでいった。今の母の優しい声は、私を溺れさせるには十分だった。もう両親にこの子を諦めさせることはできないと悟った。もう、自分で動くしかない。
「美奈、早くこっちに来なさい。もうすぐ雨が降るよ」スーパーの入り口に立っている母を見つめながら、私はゆっくりと歩いていった。目の前にはスーパーの階段がある。高くはなく、たった四段だけ。この高さがちょうどいい。母に大きな怪我をさせずに、お腹の中の悪魔を取り除くことができる。完璧な計画だ。でも、私の手は思うように動かない。母の横顔はとても優しい。手は震え続け、まるで重い石を抱えているかのように、腕を持ち上げることができない。タクシーがゆっくりと近づいてくる。ぼんやりと見ていると、それが弟の運転するおもちゃの車に見えてきた。彼の顔には陰険な笑みが浮かんでいて、母にまっすぐぶつかっていく。母が足を押さえて倒れ、苦しむ様子を見ると、弟はさらに嬉しそうに笑った。私は迷うことなく手を押し出した。驚きの声が響き、母は見事に地面に倒れた。彼女のスカートの裾はすぐに血に染まっていく。だから、この悪魔は死ぬのだろうか。母の痛みに満ちた叫び声が、私を現実に引き戻した。「美奈......あなた......」 母の顔は恐怖で歪んでいた。その時初めて、自分が口元に微笑みを浮かべていることに気づいた。私は慌てて笑みを抑え、口では慌てて助けを求めた。
まさか、あの子の生命力がこんなに強いとは思わなかった。医者から「赤ちゃんは無事です。あとは安静にしていれば大丈夫でしょう」と言われた。心の中で失望感が止まらなかった。おばあちゃんは嫌味たっぷりに母を責めた。しかし、母はただ黙ってすべての責任を背負い込んでいた。私は母の体から生気が抜けていくのを感じた。まるで今にも私の前からいなくなってしまいそうだった。罪悪感、自己嫌悪、そして不安――言葉では表現できない感情が押し寄せてきた。私は耐えきれず、母の手をそっと握り、小さな声で「お母さん」と呼んだ。母はぼんやりしていたが、私に気づき、優しく微笑んでくれた。その瞬間、私はほっとして、母の手の甲に顔をそっと寄せた。
次の「悪魔を除く」計画を立てる暇もなく、私は祖母の家に送られた。「行きたくないよ!お父さんとお母さんと一緒にいたいの!嫌だ、嫌だ......」「美奈、いい子だから。今はお母さんが君の面倒を見れないの。もう少し経ったら、迎えに行くからね」「嫌だ!お母さんに会いたくなったら、どうするの......うぅ......」母は迷いを見せたが、私がさらに訴える前に、大きな手に抱き上げられてしまった。「いい子にして、母さんを困らせるな。少ししたら、お父さんが迎えに来るよ」でも、彼らが言っていた「少し」は半年以上も経ってしまった。迎えに来たのは、弟の初めてのお祝いの日だった。母は弟を抱え、父はその隣に立っている。周りの人たちは、みんな順番にお祝いの言葉をかけていた。二人とも満面の笑みを浮かべ、弟を囲んで幸せそうな家族に見えた。祖母は私の背中をそっと押した。「あら、私の可愛い孫娘じゃないの。おいで、たっぷり可愛がってあげるわよ」私はよく分かっていた。おばあちゃんに「可愛い孫」と呼ばれるのも、すべて弟のおかげだということを。「美奈、お腹すいてないか?パパが美味しいものを取ってくるよ」「美奈、欲しいプレゼントはある?ママが買ってあげるよ」父と母の言葉はぎこちなく、それでも熱心だった。私は口を開けたが、突然何も言うことがないように感じた。ふと、祖母の家に戻りたくなった。宴会が終わり、私は祖母の手を引いて一緒に帰りたいと言った。「美奈、祖母はもう年を取っていて、この間、君の世話でかなり疲れているんだ。少し大人になって、私たちと一緒に帰ってくれないか?祖母には休んでもらおうよ」そうして、私はまたあの家に戻ることになった。母は私に対して警戒しているようだった。私が少しでも弟に近づくと、すぐに私を遠ざけた。正直、この頃、弟を「除く」ことを諦めようかと思うこともあった。だって、まだ小さい彼は白くてぷくぷくしていて、香りも良くて柔らかく、とても可愛かったから。でも、あの日、彼がフォークを持って、おばあちゃんの目に突き刺したあの日までは。