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第6話

弟は今、自分でお箸やフォークを使って食べる練習をしている時期だった。私が洗面所で手を洗っていると、突然リビングから悲鳴が聞こえた。

慌てて駆けつけると、おばあちゃんが床にうずくまり、手で目を覆っていた。指の隙間からは真っ赤な血が溢れ出していた。

弟は赤ちゃん用の椅子に座り、大喜びしていた。まるで、とても面白いものを見つけたかのように、楽しそうに笑っていた。

ぼんやりと見ていると、彼の笑顔が前世で私を階段から突き落としたときの、あの歪んだ笑みと重なった。

私はすぐに前に飛び出し、彼に思い切りビンタを食らわせた。

怒りが込められたそのビンタは強烈で、彼の体がぐらつき、次の瞬間には耳を裂くような泣き声が響き渡った。

すぐに異変に気づいた。彼の耳のあたりから、少しずつ血が流れ出していたのだ。

突然、強い力で私は押し飛ばされ、頭をコーヒーテーブルに激しくぶつけた。

頬の痛みには気づかないままだった。

父が大声で泣き叫ぶ弟を抱き上げ、私に向かって殺気立った目を向けた。

「美奈、死にたいのか!」

父の怒りは、私を燃え尽きさせるほど強烈だった。

恐怖で体が震え、私は腕で自分を抱きしめ、言葉を発せずただ首を振るばかりだった。

母の焦った声が聞こえたとき、ようやく私はそっと顔を上げた。

しかし、その光景は私を殺すよりも辛かった。

母は慌てて弟を抱きしめ、「大丈夫、どこが痛いの?」と何度も繰り返し、涙が次々と床に落ち、それが私の心にも重くのしかかった。

母は一度も振り返って私を見てはくれなかった。

冷たい。なぜこんなに冷たいのか。もう冬になったのだろうか。

耳元には父がおばあちゃんを支え、母が弟を抱きしめる音が聞こえ、しばらくして部屋は静かになった。

私は頭を上げ、空っぽの部屋を見つめた。瞬間的に、この世に私しかいないように感じた。
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