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第16話

政略結婚でありながら、拓真はずっと葉山家の前で冷静さを保ってきた。感情を表に出さず、徹底的に距離を取っていた。しかし、今日の彼は違っていた。

何かが確実に変わり始めている。彼の本性が見え始め、そこには激しい不安が広がっていた。

由美子と千代子、二人とも思いにふけっていたため、いつの間にか部屋に入ってきた大和に気づかなかった。

「もう、彼を諦めなさい」と病室のベッドに近づき、大和は突然口を開いた。

由美子が驚いて彼を見つめると、彼は辛抱強く続けた。「拓真という男は、深い闇を抱えた野心家だ。常に冷静で、誰にも自分の本心を見せない。

彼が何を考えているか、誰にも分からないんだ。

由美子、お前では彼に勝てない」

「いやよ!」由美子の目から涙が一気に溢れ出した。彼女は完全に恋愛依存症の末期状態だった。拓真から離れるという考えは、彼女にとって肉を切られるほどの痛みだった。

「すべてはあの雪村鈴というクソ女の悪いんだ!兄さん、あの女のせいで全てが狂ったんだ!」由美子は歯を食いしばり、叫ぶように頼んだ。「あの女を消してくれさえすれば、拓真の心は私に戻ってくるわ。

兄さん、お願い、私を助けて!」

「そうよ、大和!」千代子も娘の痛みに耐えられず、心の中の不安を押し殺し、息子の腕を掴んだ。

大和は眉をひそめたが、最終的にはため息をつき、心を決めたようだった。

「雪村鈴......」彼は冷たく微笑み、名前を口にすると、その言葉には鋭い冷気が込められていた。

......

私は病院の外で拓真を待っていた。

その時、背後から突然足音が聞こえた。拓真かと思い振り返ろうとした瞬間、袋が頭に被せられ、私は強引に連れ去られた。

連れて行かれた先は榊家の本家、そこには拓真の母親、弓絃葉が待っていた。

弓絃葉は黒いオーダーメイドのチャイナドレスを着ていて、優雅な姿をしていたが、葉山千代子とは違い、彼女の目には冷たい鋭さが宿っていた。

特に、私に向けられたその視線には、はっきりとした殺意が込められていた。

「あんたが雪村鈴?」弓絃葉は冷たく言い放った。

「はい」と私は静かに頷いた。

榊家と葉山家の結婚は、商業的な利益を背景にしていた。だから、今回の事態が大きくなり、両家を巻き込むことになったのも当然のことだった。

「色仕掛けで男を惑わせる女め」弓絃葉は嘲笑するよう
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