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第31話

拓真は私の目をじっと見つめながら、言った。

「俺は由美子と離婚する。鈴、俺と結婚してくれ。俺の妻になってくれ」

鼻の奥がツンとし、目に涙が浮かんだ。

正確に言えば、拓真こそ私の初めての男だった。

彼を利用していたとき、彼は私に温もりと寄り添う場所を与えてくれた。

私の心だって石でできているわけじゃない。彼に惹かれてしまうのも無理はない。

私は確かに彼を愛していた。

涙を浮かべながら、私は彼を抱きしめ、口を開こうとした。

「私、あなたと一緒に......」

そう告げようとした瞬間、拓真はさらに言葉を続けた。

「だが鈴、俺たちにはまだ一つ障害がある。それは大和だ。

由美子のために、彼は絶対に俺たちを許さない。それに、君だって復讐を望んでいるだろう?葉山家を潰さなければ、俺たちは自由になれない」

拓真は小さなUSBを私の手に押し付けた。

「奴は君を手に入れようとしているだろ?丁度いい、彼のそばに行って、個人のパソコンからあの機密をコピーして俺に渡せ」

体が硬直した。

見慣れたその顔を見つめ、頭が真っ白になった。

一秒前には私を娶ると言っていた男が、次の瞬間には他の男の懐に私を送り込もうとしている。

胸の奥に何かが詰まり、さっきまで喉元まで出かけていた愛の言葉が引っかかったまま出てこない。

喜びも感動も一瞬で消え去った。

私は気づいた。榊拓真という男を、私は本当に理解していなかったんだと。

彼の腕から離れ、起き上がった。

「榊さん、私が葉山さんに行ったら何が起こるか、分かってるの?」

拓真の顔が一瞬こわばった。

だがすぐに、彼は私を背後から抱きしめ、私の髪に貪るようにキスをした。

しかし、口から出た言葉は傲慢で自己中心的だった。

「だからこそ、俺の鈴は身体も心も守ってくれるだろ?奴に触れさせないよな?

......そうだろ?」

「ふん!」

私は思わず笑ってしまった。

葉山家の企業機密を盗む......本当にそれだけで私のため?そして一緒になれるって?

全てを得ようとして、しかもその上、私の身体と心まで守らせようだなんて、呆れてものも言えない。

拓真は私の異変に気づかず、ただ俯いている私が何かを考え込んでいると思ったのか、再び私を抱きしめた。

「鈴、俺は本当に君が好きだ。だから大和を倒して葉山家を潰したら、必ず君
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