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第15話

私は驚いて目を見開いた。

だが、澄んだ音が響いた瞬間、ビンタは私の頬に落ちることはなく、代わりに拓真の顔に直撃した。

一瞬のうちに、彼は私をかばうように飛び出し、母の一撃を受けたのだ。

千代子は娘への愛が強く、その一撃には激しい怒りが込められていた。拓真の顔は横に弾かれ、顔が明らかに歪んでいた。

私は一瞬、呆然と彼の背中を見つめた。

彼が私を守ってくれたのは、これで二度目だった。

千代子もまた、拓真が自分の娘を守るのではなく、私をかばったことに驚いていた。

彼女が私に向けた冷酷で毒々しい視線は、まるで鋭い刃物のようだった。

その視線には背筋が凍るような恐怖が漂っていた。

拓真は私に目を向け、「鈴、外で待っていてくれ」と冷静に言った。

私は何も言わず、静かにその場を後にした。

千代子には一人の息子と一人の娘がいて、夫は早くに亡くなっていた。葉山家の財産を狙う親族も多く、特に彼女の息子、葉山大和が葉山グループを引き継いでいた。

大和は極めて有能で冷酷な性格で、たった一年で葉山家の経営を立て直し、彼を中心にして一大勢力を築き上げた。今や葉山家は榊家を凌ぐほどの力を持っていた。

それが、拓真が由美子との結婚を受け入れた理由でもあった。彼は葉山家とのビジネス上の利益を優先したのだ。

先ほどの千代子の恐ろしい表情を思い出すと、私は身震いした。

これからは、もっと慎重に行動する必要があるのだ。

考え事に没頭しているうちに、私は一人の背の高い、陰鬱な顔をした男とすれ違った。

......

病室の中では、手術を終えたばかりの由美子が千代子の手を握り、泣いていた。

「お母さん、拓真があの女と浮気してるの......!しかも、私はもう母親になれない......

うぅぅ......」

千代子は優雅に髪をまとめ、貴婦人然とした装いだったが、娘を思いやる表情には苦しみが滲んでいた。そして、怒りの視線を拓真に向けた。

「拓真、この件についてどう説明するつもり?」と厳しい声で問いただした。

拓真は冷淡に答えた。「説明も何も、すでに見た通りだ。鈴は俺の女だ」

「あなた......」

由美子と千代子は、その言葉に一瞬で怒りの色を浮かべた。

しかし、拓真は全く動じることなく、冷ややかな表情で由美子を見下ろした。「お前も分かっているだろう。この結婚がどう
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