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第9話 彼女を刑務所へ送れ

作業員たちが荷物を運び終え去っていくと、かつての輝かしい別荘は今や荒れ果て、ニオイシタン制の扉さえも取り外されてしまった。

年配の使用人が箱を引きずって足を引きずりながら入ってきた。箱の中にはいくつかの服や高価なアクセサリーが入っていた。

「彼らが来たときに、お嬢様が好きなものは全部片付けました」

使用人の足を見て、紅葉は彼らが彼女にも手を出したことを察し、目が赤くなった。

「菫さん……」

菫は母親が連れてきた使用人で、紅葉の成長を見守ってきた。

菫は再び彼らが戻ってくることを恐れ、紅葉に車を運転させ、自分の住処に連れて行った。そこは二部屋一リビングの部屋で、紅葉のためにきれいに掃除された部屋を一つ残してくれた。

「この家は、私が奥様と一緒にいたときに、彼女が頭金を出してくれて買ったものです。でも、奥様はもう……」

その言葉を聞いて、紅葉は苦笑いを浮かべた。

見てみろ、使用人ですら恩を忘れないのに、彼女があれほど助けてきた萌美は、逆に自分を裏切ったのだ!

紅葉は父母の位牌を大切に安置した。

宝石箱の中には、母が亡くなったときに残したいくつかの宝石があり、それ以外のものは全て菫おばさんに渡した。

「菫さん、父と母の位牌はしばらくここに置いてもいい?私にはまだやることがある」

菫は言った。

「おばあさんの体調が良くないと聞きました。私が病院に行ってお世話しましょうか?」

「祖母には看護師がついているので、菫さんは休んで」

菫に別れを告げ、紅葉は車を走らせ病院に向かった。

車を運転しながら、彼女は少しぼんやりしていた。

今の彼女は全てを失っており、どうやって復讐を果たし、また森吉グループを取り戻すというのか?

その瞬間、頭の中にある男の冷たい輪郭が浮かび上がった。

紅葉はすぐに頭を振ってその男の姿を消し、祖母を見舞いに行ってから他の方法を考えようと思った。

その時、1台のベントレーが横を通り過ぎた。

後部窓が少しだけ下がり、車内の人物が紅葉の視界に一瞬映った。

あれは時久だ!

紅葉はアクセルを踏み込み、前のベントレーを追いかけた。時久の非情な行為や、父母の位牌が地面に叩きつけられる様子が頭に浮かび、彼女の目には憎しみが溢れていた。

今が攻撃する絶好の機会だった。

もし時久を轢き殺せば、彼女は両親の復讐を果たし、あの男に頼る必要もなく、自分のわずかなプライドも守れるはずだ。

前のベントレーは何度も車線を変え、紅葉は何度か追い切れなくなりそうになった。

再びベントレーに追いついた時、紅葉は口元に冷笑を浮かべ、アクセルを一気に踏み込み、直接ぶつけた!

黒いベントレーはそのまま飛ばされ、何度も回転しながら、車の屋根を下にして地面に落ちた。

一方、紅葉も衝撃でハンドルを操作できず、車はガードレールを突き破り、横転し、運転席の紅葉は頭から血を流し、ガラスの破片が体中に刺さっていた。

息を切らしながら、燃え上がる遠くのベントレーを見つめ、紅葉は安堵の笑みを浮かべた。

これでついに両親の復讐を果たしたのだ!

しかし、彼女がほっとしたのも束の間、時久が運転席の前に歩み寄ってきた。彼のスーツには一つのシワもなく、それを見て紅葉は目を見開いた。

「俺達は20年間一緒に暮らしてきた。だから紅葉の性格は誰よりもよくわかっていた。追ってくるのは最初から予想していたから、別の車を呼び、信号で車を乗り換えたんだ」

「時久……」

紅葉は歯を食いしばって憎しみをあらわにし、言葉を続ける前に、ハンドルに顔を伏せて気を失った。

時久は、車内で血まみれになった女性の青白い顔を見て、かつて彼に「お兄ちゃん」と甘えていた彼女の姿を思い出し、冷たい目が少しだけ和らいだ。

彼が手を伸ばそうとした時、遠くから救急車のサイレンが響き、医師と看護師が車から降りてきた。

救急車が来たのが早すぎる。

医療スタッフが近づいてくるのを見て、時久はそれ以上考えるのをやめ、道路脇に停まっていたベントレーに乗り込み、冷たく指示を出した。

「通報しろ、紅葉を殺人未遂で告発し、刑務所に送れ!」

すぐに、家で息子と一緒にいた萌美は、紅葉が車で時久を轢き殺そうとして、逆に病院に運ばれたという部下からの電話を受け取った。

その知らせを聞いた萌美の心は快感で満たされた。

前回、紅葉が別荘に来て騒ぎを起こした時、彼女が抱いていた息子が誤って落ちてしまい、一日中昏睡していたことが、彼女に大きな恐怖を与えていたのだ。

萌美は憎しみのこもった声で言った。

「二人を手配して、しっかり彼女を『世話』してあげて」

大学時代、紅葉が自ら声をかけてきて、旅行に誘い、様々な服やバッグを買ってくれたことで、人と人の世界が元々不平等であることを教えてくれた。

愚かなのは紅葉だ。人を見る目がなかったのが悪い。

彼女は紅葉を許すつもりだったが、紅葉が彼女の息子を殺しかけたからには、もう絶対に許せない!

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