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第40話 やはりあの男は輝和ではなかった

紅葉は萌美が新しい番号で連絡してきたのかと思い、すぐに電話を取った。

「もしもし?」

「森吉さんでしょうか?」

相手は丁寧に尋ねた。

萌美ではないと分かり、紅葉の心はまた沈んだが、軽く「そうですけど、何かご用ですか?」と返した。

「吹石グループの人事部です」

相手は礼儀正しく言った。

「森吉さんの履歴書に非常に興味を持ちまして、木曜日の朝9時に面接にお越しいただけますか?」

履歴書を紘に送ったことは覚えてるけど、こんなに早く電話してくるとは思えなかった。

「わかりました。何か持って行くべき書類はありますか?」

紅葉はD国での学業を終えて帰国した後、ほとんど働いたことがなく、たまに時久を手伝う程度で、他の会社に面接に行ったことはなかった。

面接に必要な書類をメモし、数言交わして電話を切った時には、ちょうど自宅に着いたところだった。

家に入ると、紅葉はコートを脱いでハンガーにかけたが、黒い薄手のコートがすでにかかっているのに気づいた。近づいてみると、かすかに香りが漂っていた。

それは……香水の匂い?

「菫さん」

紅葉はコートをかけながら尋ねた。

「輝和さんはもう帰ってきましたか?」

菫さんは頷き、

「旦那様は二時間前にお帰りになりましたが、お戻りになるとすぐ紘さんと書斎にこもられ、紅茶をお持ちした時も、お二人は忙しそうに仕事をされていました」

紅葉はもう一度コートを見たが、香水の匂いは特に気に留めなかった。

昼間、カフェで見かけた男が着ていたのはコートではなかった。

やはりあの男は輝和ではなかった。

輝和が仕事をしているのを知って、紅葉は邪魔をせず、リビングで純平とゲームをしていた。夕食の時間になると、ようやく二人はゲームをやめた。

使用人が夕食を並べ終えると、輝和と紘も下りてきた。

彼は白いシャツにスラックス姿で、背筋がスラリと伸び、シャツの袖を少し折り返して、滑らかな腕のラインが見えた。

仕事が長引いたせいか、眉間には少し疲れが見えたが、冷淡な顔つきはいつもと変わらなかった。

紅葉は彼がそんな大けがを負っていながら、今日も仕事をしているのを見て心配になった。

「輝和さん、怪我はもう大丈夫ですか?」

「ただの軽傷だ、心配するまでもない」

輝和は彼女の正面の椅子を引いて座り、少し苛立った口調で言った。

「自分の
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