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第4話 森吉紅葉出入り禁止

「おばあちゃん!」

紅葉は叫び声を上げ、すぐに外へ飛び出し、医者を呼びに行った。

医者が彼女の祖母を救急室に運び込むのを見て、紅葉は不安で涙を流しながら、廊下を行ったり来たりして焦り続けていた。

もしおばあちゃんに何かあったら、彼女は自分を絶対に許せないだろう。

やがて祖母が酸素マスクをつけられたまま運ばれてきた。

医者は紅葉に説明した。

「心拍数は安定しましたが、薬物治療が必要です。その薬は特級で、非常に稀少ですが、支払いを済ませれば使用できます」

「ありがとうございます」

祖母が無事だったことにほっとし、紅葉は急いで階下へ支払いに向かった。

しかし、カードを使おうとしたとき、すべてのカードが凍結されていることに気づいた。

紅葉は萌美に電話をかけ、焦った声で言った。

「萌美、時久さんに聞いてもらえない?なんで私のカードが全部凍結されているのか。祖母の薬が…」

「紅葉、忘れたの?」

萌美は彼女の話を遮り、冷淡な口調で答えた。

「共有財産を何も持たずに家を出るって、契約書に書いてあったよ」

何か言う前に、電話は切られてしまった。

紅葉は喉を詰まらせ、祖母の薬代が必要なことを思い出して、すぐにタクシーで森吉グループに向かった。

時久に会い、なぜグループを奪い取ったのか問いただしたかった。

何故そんなに非情なのか、彼女が間違いを犯したからと言って、離婚して一銭も残さないのは。

タクシーが森吉グループに到着した頃、外は激しい雨が降り始めていた。

紅葉は雨の中に飛び出し、急いでビルの前に向かい、中に入ろうとしたが、入り口の警備員に激しく地面に突き飛ばされた。

「入れてください。時久さんに会わないと…」

紅葉は地面から這い上がり、警備員の腕を掴んで懇願した。雨に打たれた彼女の顔は、ますます青ざめていた。

「お金が必要なの、薬を買わなければ、祖母が死んでしまうわ…」

警備員は再び彼女を押しのけ、脇にある看板を彼女の前に突き出した。

「森吉さん、よく看板を見てくださいよ」

紅葉は顔の雨水を拭い、看板を見上げた。

そこには大きな文字でこう書かれていた——「森吉紅葉 出入り禁止」

「時久さん、私は何をしたというの?」

紅葉の涙は雨水と混じり合い、流れ落ちた。

彼女が3歳のとき、父親は一人の男の子を家に連れてきた。

「紅葉、彼の両親は事故で亡くなった。これから彼はうちに住む。この子は紅葉のお兄さんになるよ」

そのとき、6歳の時久は彼女に敬礼をし、暖かく、優雅な笑顔で言った。

「初めまして、姫様。これからは僕が姫様を守るよ!」

3歳から今まで、時久はずっと彼女を守り続け、森吉家を守り続けてきた。

彼女の心の中で、時久は家族の一員であり、彼女だけの王子様だった。

時久の甘やかしの中で、彼女は何も学ばずに、ただ洋服やバッグを買って、良い妻の役を担っていた。

どうして今、その男はこんなにも非情になったのだろう。

すべてを奪い、彼女を無一文にし、さらには彼女を侮辱するなんて。

ただ彼女が「汚れている」から?

大楼に出入りする人々は、雨の中で座り込む紅葉を見て、すぐに彼女が誰だか判明し、指を差しながら話し始めた。

「節操がないよね。結婚してるのに、男とホテルで…」

「社長が離婚して正解だよ」

「森吉グループは磯輪さんがいなければ、あの無能だけじゃ、とうに潰れていたよ」

「……」

森吉グループの社長室で、時久は大楼の入り口のリアルタイム監視映像を見ていた。そこに映る雨の中で惨めに座り込む彼女の姿に、一瞬複雑な感情が浮かんだ。

しかしすぐに、彼の表情は冷酷なものに変わり、机の上にあった、笑顔を見せる少年少女の写真をゴミ箱に投げ捨てた。

「紅葉、これが報いだ」

紅葉がどれだけ警備員に懇願しても、森吉グループのマネージャーに助けを求めても、誰も彼女に手を貸そうとはしなかった。

警備員は彼女が邪魔だと感じ、暴徒鎮圧用のフォークで彼女を路肩に押し出した。

紅葉の脚は柵にぶつかり、鉄線で長い傷がついた。痛みに耐えきれず、彼女はその場に崩れ落ち、立ち上がることができなかった。

紅葉は耐えきれずに泣き崩れた。

ほんの一日で、彼女はすべてを失った…

どれくらい時間が経ったのか分からないが、空が徐々に暗くなり、雨は依然として激しく降り続けていた。

そのとき、彼女の傍にゆっくりと停まったのは一台のマイバッハだった。すぐに副運転席から降りてきた運転手が傘を差し、紅葉の前に立った。

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