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第5話

「きゃっ!」

私は慌てて拓真の背後に隠れ、怯えた子鹿のように彼を見上げた。

「お前、何しに来た?」

拓真の顔から先ほどの情欲が消え、冷たい表情で由美子を睨んだ。

彼は私をしっかりと守るように後ろに隠してくれた。

その光景を見た由美子は、怒りに燃え、拳をぎゅっと握りしめた。

「雪村鈴!この泥棒猫め......!」

怒りが収まらない様子だ。

それを聞いた瞬間、拓真の顔色がさらに険しくなり、その声は氷のように冷たかった。

「由美子、すぐに雪村さんに謝れ」

彼が一切の情けを見せないのを感じ、由美子の顔は青ざめ、声は尖って響いた。

「なんで私がこんな女に謝らないといけないの?彼女があなたを誘惑してるんじゃないの!」

「黙れ!」

拓真は鋭く言い放った。「葉山家のしつけはそんなものか?すぐに謝れ、聞こえなかったか?」

彼の背中越しに私は由美子の怒りに満ちた顔を冷たく見つめていた。

その目は挑発的な光を宿しながらも、口からは怯えたような声が漏れた。

「榊さん、ごめんなさい。私が悪いんです、奥さんを怒らせてしまいました。

私のせいで夫婦喧嘩をさせてしまうなんて、心が痛いです」

その言葉を聞いた由美子はさらに怒りが沸騰し、「雪村、黙りなさい!」と怒鳴った。

拓真の眉間にはさらに冷たさが滲み出ていた。

「由美子、三度も言わせないでくれ。謝れ!」

由美子は怒りに震え、ついに諦めたように頭を垂れた。

「雪村さん、ごめんなさい」

私は申し訳なさそうに顔を覗かせ、「いいえ、奥さん、悪いのは私です」

「......」

彼女の目は私を今にも引き裂きそうなほどの憎しみを帯びていた。

「もう行け!」

拓真は振り返ることなく冷たく言い放った。

由美子の顔色は変わり、何かを思い出したかのように眉を潜めた。

「明日、市でチャリティーオークションがある。各名家が参加する予定だ。

私たちも招待されている」

彼女は虚栄心の強い女であり、たとえ冷え切った夫婦関係でも、外では幸せそうなふりを続けていた。

だから、明日のオークションに拓真と一緒に出席することが、彼女にとっては非常に重要だった。

「分かった」

数秒の沈黙の後、拓真は淡々と答えた。

社交の場で名声を得る機会には彼も協力する価値があると感じたのだろう。

由美子はその言葉を聞いて安堵した様子だった。

しかし、出て行く前に彼女は私を鋭く睨みつけた。

その目には冷たい殺意が宿っていた。

私はにっこりと微笑んで、無邪気にその視線を受け止めた。

何もせずとも、また彼女を怒らせたようだった。

由美子が部屋を出て行った後、拓真の私への感情も、あの出来事で消えてしまったようだ。

私は事故で少し擦り傷を負っただけだったので、二時間ほどの観察の後、無事に退院した。

彼は私を社員寮に戻さず、ドライバーに命じて彼の別邸に送るように指示した。

どうやら、私をそこに隠しておきたいようだった。

夜になって、拓真が別邸にやってきた。

私はちょうどお風呂から出たところで、黒い長髪はまだ少し濡れており、白い肌はまるで剥きたての卵のように滑らかだった。

シルクのスリップドレスの肩紐は片方外れ、肩に垂れかかっていた。

セクシーな鎖骨がちらりと覗き、憂いを帯びた表情がその美しさを際立たせていた。

見事なまでに、男にとって魅力的な姿だった。

拓真は喉を鳴らし、私の隣に座ると、優しく肩を抱き寄せた。

「何を考えているんだ?元気がないように見える」

私は彼を見つめ、黒と白がはっきりとした瞳で純粋な表情を浮かべた。「榊さん、私......怖いんです......」

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