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第8話

3年前の出来事は、たとえ晴子がしたことでなくても、彼女と千々に結びついていた。そして彼女には真犯人を明かすことができなかった。

晴子は目を閉じ、まるで屠殺場の羊のような覚悟を見せた。

深川が最も嫌うのは、晴子のこの生きるでもなく死ぬでもない態度だった。彼は晴子を乱暴につかみ上げた。

「命で償う?そう簡単にはいかないぞ。戻りたくないんだな?ならば、澄人がお前に与えたこの夢を味わい尽くす覚悟をしろ!」

深川の鋭い眼差しは刃物のように、晴子の心臓を直接刺し貫いた。

人々が去った後、晴子は長い間床に蹲っていた。胸の張り裂けるような痛みで息もできなかった。やっと我に返り、個室を出たとき、自分は「エンチャント」の最上階に連れて来られていたことを知った。

なぜ「エンチャント」なのか?

晴子の頭の中は混乱していた。3年前、彼女が「エンチャント」に来たとき、それはすでに浜江市で最も繁盛していたクラブだった。そのとき深川はすでに事故に遭っていたはずなのに、なぜ深川が「エンチャント」の最上階に出入りできるのか?

そして、自分を誘拐したあの女性は一体誰なのか?

深川の言った言葉は一体どういう意味なのか?

次々と湧き上がる謎は、晴子を霧のように包み込んだ。彼女は自分が動物園の猿のように、みんなに観察されているような気がした。

薄暗い廊下で、向こうから一人の人影が近づいてきた。その人は闇を抜けて一筋の光をもたらした。

瀬名澄人だった。

晴子は自分に向かって歩いてくる澄人を見て、突然鼻が詰まるような感覚になった。小走りで澄人の胸に飛び込んだ。「澄人さん......」

澄人は長い腕を伸ばして晴子をしっかりと抱きしめた。まるで次の瞬間にこの女性が消えてしまうかのように。「ごめん、ごめん。次は絶対にお前を置いていかない」

澄人の声は少し震えていて、本当に怖がっているようだった。

晴子の心に温かい感覚が広がり、彼をしっかりと抱き返し、鼻をすすった。

その瞬間、懐かしい香りが再び彼女を襲った。晴子は信じられないという様子で目を見開き、慎重に澄人の肩に顔を寄せてそっと嗅いだ。

やはり、あの香りだった。

なぜ澄人の体からあの女性の香りがするのか?

「澄人さん、どうして私がここにいるって分かったの?」晴子は澄人の腕から離れ、疑問を投げかけた。

「蓮子が知らせてくれたんだ
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