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第16話

澄人が病室のドアを開けて入ってきた時、晴子はすでに起き上がって座っていた。

顔色は蒼白で、血の気がなく、まるで壊れた磁器の人形のようだった。

「目が覚めたんだね?」

澄人は喜んで彼女の手を握った。晴子はそれを見下ろした。

「私、頑張ったでしょう?」

澄人は彼女が目覚めて最初に言った言葉にやや戸惑った。

つい先ほど、薊野家が町北部の契約書に署名して届けてくれたところだった。これは彼が瀬名家の後継者の座を確実に手に入れたことを意味していた。

澄人は彼女の手をしっかりと握り、頷いた。

「澄人さん、季松晴子が戻ってきたの。そうでしょう?」

澄人は固まった。

晴子は彼の手から自分の手を引き抜いた。「前に私を誘拐した人も彼女だったのよね?知ってた?この数日間、あなたの体には他人の香水の匂いがしていたわ。でも彼女は賢いわ。今日はあの日あなたの体にしていた香りとは違う香水を使っていたわ」

澄人は無意識に袖口の匂いを嗅いだ。

「澄人さん、私はずっと自分があなたがお金で買った女に過ぎないことをはっきりと分かっていたわ。私は決して分不相応な望みを持ったことはなかった。私にはお金が必要で、あなたは最高の雇い主だった。3年よ。犬を飼えば愛情が芽生えるものだと思っていたのに、あなたは彼女が私の命を狙うのを許していたなんて」

「違う、そうじゃないんだ」

これは晴子が澄人の目に動揺を見た2度目だった。

「あなたはただお金で雇われた偽物よ。期限が来れば使い捨て。使い終わったものを捨てて何が惜しいというの?

あなたは誰とでも寝る酒場の女に過ぎないわ」

紗耶が戸口に立ち、高慢な態度で晴子をゴミを見るような目で見下ろした。

「紗耶!」

澄人の叱責の声が響いた。次の瞬間、紗耶が悲鳴を上げた。澄人が振り向くと、深川が紗耶の首を強く掴み、壁に押し付けているのが見えた。

紗耶の顔が急速に赤くなり、息ができなくなっていた。

彼女は必死に深川の腕を叩いていた。澄人は一瞬呆然としたが、反射的に立ち上がった。その動きで、晴子の手の留置針が抜けてしまった。

晴子は下唇を噛みながら、手の甲から滲み出る血を見つめ、そして澄人の背中を見上げた。

澄人に対してどんな感情があるのだろう?

愛とは言えないし、好きとも言えない。でも3年の間に何度も心を動かされたことがあった。彼女はかつて、
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