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第17話

病室に静けさが戻った。

深川は黙り込んだ晴子を見て、少しいらだっていた。

しかし、どうあれ、最初に江口紗耶を見つけて澄人と夢夜を引き離すという目的は達成された。今の夢夜は、彼だけのものになる。

彼女には逃げ場がない。

「これで俺のもとに戻れるだろう?」

晴子は口角を引き、少し諦めたように、そして滑稽に思えた。自分は何か、乗り換えバスでもあるのか?一人降りたら次の人が乗る。

「律、あなたは私を愛したことがあるの?」

答えはなかった。

晴子は深川が答えられないことを知っていた。以前、浜江市で彼の側にいた時でさえ、深川は彼女を愛していなかった。

今はまるでゲームのようだった。彼女が逃げ、彼が追う。

深川律はただ悔しがっているだけだ。彼を裏切った女が他の男の腕に飛び込んだことに。

まるで幼児がおもちゃの取り合いをしているかのようだった。

「夢夜、俺たちの間で愛について語るのは少し滑稽じゃないか」

晴子の唇が微かに震えた。彼女は自分が彼らの目には単なる見栄えの良い玩具に過ぎないことを知っていた。

やがて深川も去り、看護人が一人晴子の世話をするために残された。晴子は夜の闇に紛れて、こっそりと病院を抜け出した。

彼女は疲れ果てていた。本当に疲れ切っていた。好きでも愛でもなくても、ただ普通に誰かと暮らしたいと思った。

誰も自分を知らない場所で、人生をやり直したかった。

しかし、天はまるで冗談好きな老人のようだった。

家に戻るとすぐに、晴子は鋭い目つきでドアノブが壊された形跡に気づいた。彼女の胸が締め付けられ、足音を忍ばせてゆっくりと近づいた。

誰だろう?

晴子がドアを開けると同時に、中の電気がついた。

ソファには50歳近い、白髪交じりの髭を生やした老紳士が座っていた。一見優しそうな顔つきだったが、晴子の両脚は彼を見た瞬間に震え始めた。

彼は梁井信田だった。

浜江市の裏社会で最も古株で最強の人物。かつて深川の才能を見抜き、共に不動産ビジネスを始めた。梁井信田は最初から二つの計画を立てていた。緩利依織と晴子を深川の側に潜入させ、必要なら深川を排除する計画だった。

当時、浜江市新区の土地を巡る争いで、彼は晴子と依織に契約書を盗ませ、深川の底値を探り、その土地を手に入れた。

「今はね、季松晴子って名乗ってるそうだな?」梁井信田はソファに半ば
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