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第18話

「この人は、救いません」

晴子は断固として答え、父親を見る目は冷淡そのものだった。

「勝谷結菜!この忘恩負義の畜生め、誰がお前を育てたと思ってる!」勝谷文武は手足をばたつかせながら罵声を浴びせたが、そばにいた二人のごつい警護に押さえつけられた。

勝谷結菜。

この名前を聞くのは随分久しぶりだった。17歳で梁井信田に売られて以来、もう聞いたことがないような気がした。

みんなは彼女を夢夜と呼び、そして後に季松晴子と呼んだ。

晴子は涙ながらに笑った。女の子は大きくなるとタンポポのようだと言われる。肥沃な土地に落ちれば風に乗って成長し、痩せた土地に落ちれば一生苦労する。

彼女のこの人生で、自分の名前さえ忘れかけていた。

梁井信田は大声で笑い、まるで予想通りだといった様子だった。「こうなると思っていたよ。だが、俺の切り札は彼じゃない。こっちだ」

「パン」という音とともに、一束の写真が晴子の前に投げつけられた。

「毎月大金をかけて養っている弟が、突然人工呼吸器を外されたら、死ぬと思うかい?」

梁井信田の冷酷な口調に晴子は震えた。彼女が反応する間もなく、男たちは立ち去った。晴子は床に散らばった写真を見つめ、涙で視界がぼやけていった。

病床に横たわる勝谷君弥は顔色が青ざめ、180センチの体が小さな病床に窮屈そうに収まっていた。

彼は本来健康な子供だった。もし晴子が北原市から逃げ出すために梁井信田に車で轢かせて植物状態にしなければ、こんなことにはならなかった。

浜江市で瀬名澄人と関係を持った最初の年、晴子は澄人に頼んで君弥を浜江市に移した。

すべてが誰にも気づかれずに進んでいると思っていた。君弥を匿っていた場所も瀬名家の私立病院だったのに、梁井信田にどうやって見つかったのか、晴子には想像もつかなかった。

「娘よ、金をくれないか」

背後から勝谷文武の弱々しい声が聞こえた。晴子は振り向き、隅に縮こまるその廃人を見た。

憎しみが彼女の心に這い上がってきた。彼女は立ち上がり、テーブルの上にあった果物皿を掴むと、男めがけて投げつけた。

ガシャンという音。

すべてが静寂に包まれた。

時間がどれほど経ったのかわからない。晴子は床に広がる血痕を呆然と見つめていた。

梁井信田が浜江市に現れた。もし彼が欲しがるものを手に入れられなければ、自分と弟の身に危険が及ぶ
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