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第10話

「江口さんは北原市の方ですか?」

皆、深川が以前北原市で活動していたことを知っていた。突然現れたこの婚約者も、おそらく北原市時代に知り合ったのだろう。

「私たちは海外留学中に出会いました。一目惚れでした」江口紗耶は顔を上げ、清楚で美しい顔に自信が溢れていた。

それは晴子にはない自信だった。

深川は目を伏せてカードに手を伸ばし、口元にかすかな笑みを浮かべていた。

紗耶は椅子を引いて深川の隣、つまり澄人の隣に座った。晴子は澄人のもう片側に座っていた。

「嫉妬しないでしょうね?」紗耶は眉を上げて晴子を一瞥した。

「もちろんです」晴子は笑顔で返した。

カードゲームの参加者が何度も入れ替わり、晴子はすっかり疲れてしまった。澄人に一言告げてソファで少し休むことにした。

「んん、動かないで」

うとうとしている間に、誰かが彼女を蹴っているのを感じた。目を開けると、ハンサムな顔が目の前に大きく広がっていた。

鼻先と鼻先がほとんど触れそうな、極めて親密な距離だった。

晴子は慌てて相手を押しのけ、周りを見回して誰も見ていないことを確認してから、歯を食いしばって言った。「深川さん、頭がおかしいんじゃないの?」

こんなに人がいる中で、二人の親密な接触を誰かに見られたら、大変なことになる。

深川は体を起こし、腕を組んで頭上の光を遮り、上から見下ろすように晴子を見た。

「婚約者がいなくなったのに、ここで大の字で寝てるのか?」

晴子は眉をひそめ、反射的に立ち上がって周りを見回した。確かに澄人の姿が見当たらなかった。

同時に姿を消していたのは、江口紗耶だった。

心臓が一瞬止まったかのように、晴子の顔色が一変した。

深川は嘲笑うような表情で晴子を見て、口を開いた。「ついて来い」

晴子が言うことを聞かないことを予想していたかのように、深川は声を低くして脅した。「力づくでやらせるなよ」

人が多すぎて、晴子は大きな騒ぎを起こすわけにはいかなかった。仕方なく言うことを聞いて後について行った。

ここは深川の別荘だった。彼は慣れた様子で晴子を連れて何か所かを回り、人混みを避けて空っぽの部屋に入った。そこにはクラシックブラックの革製ソファが一つだけ置かれ、ソファの向かいには灰色のカーテンが一面に広がっていた。

晴子は何が起こるのか見当もつかなかった。

深川はかがんでソ
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