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第13話

著者: てんてん蘭
last update 最終更新日: 2024-10-29 19:42:56
ただ彼女は長谷川優花ではない。

すでに完全に絶望しているのに、心の奥底ではやはりこの男に対して少しの期待を持っているのだ。

彼女自身、自分が救えない人間だと分かってはいたが、ただこの数年間の努力が水の泡として消えてしまうのがただ悔しかったのだ。これでは彼女の愛情は一体何だったというのか?

口角を引き締め、広瀬雫は近くで足元をわざとふらつかせてイケメン男性の懐に飛び込む長谷川優花を見て、深く息を吐き出し、立ち上がってその場を離れた。

クラブルミナスのロビーにて、横山太一はさっきクラブ駐車場のサービス員に車の鍵を渡したところだった。クラブのロビーに入ってすぐ、広瀬雫がぼうっとしながら外へ出て行くのを見かけ、彼は少し驚き、すぐにそそくさと中へと入っていった。

......

クラブルミナスのプライベートVIP個室ルームにて。

この個室はルミナスにある他の個室とは違っていて、神田裕介のプライベートな娯楽場であり普通の個室よりももっと落ち着いた雰囲気と豪華さがある部屋だ。

この時の個室内は、タバコの煙で霞んでいて、麻雀をしたり、歌を歌ったり、叫んだりする者もいて、あらゆる娯楽が揃っていた。

目利きがある者なら、この個室にいる人物はみんなB市でかなりの身分のある大物ばかりだと気づくだろう。もしこの中の誰か一人でも怒らせれば、今後B市に居続けられるとは思わないほうがいい。

横山太一はいつも通りの慣れた動きでドアをノックし、個室の中へと入っていくと、部屋の隅のほうへそのまま歩いていった。

隅のライトは薄暗く、スタイルの良い男性がそこに座っているだろうことだけが分かった。唇は少しオレンジよりの赤で、タバコの煙が柔らかい絹物のように上にあがっていた。

横山太一に気づき、その人物は体を少し前かがみにした。白シャツに黒スーツ姿のラインが美しいそのスラリとした姿と、その絶世の美形の顔がライトに照らされて、だんだんはっきりとしてきた。そして最後にあの冷たく感情のこもっていない瞳が現れてきた時、横山太一の目つきと所作は自然と厳粛なものへと変わった。

「風間社長、サニーヒルズプロジェクトで競い合う三つのデザイン会社が決まりました。有賀、浅野、足立グループの三つです」

男性は無表情のまま、襟元のネクタイを緩め、頷いた。

彼の横で、途中から風間湊斗に強制的に入れ替わりさせら
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    彼女の視線は広瀬雫の首にぶら下がったネームタグに注がれていた――有賀グループデザイン部Aグループチームリーダー、広瀬雫。確かに、今回のプロジェクトには有賀グループが広瀬という女性社員を風間グループへ行かせたらしい。浅野舞はきょとんとして何か言おうとすると、広瀬雫はカバンから2千円を取り出し、テーブルの上に置いた。「コーヒーは私の奢りで。浅野さん、もし他のことがないなら、私は先に失礼します」そう言い終わると、浅野舞の返事も待たず、まっすぐカフェのドアのほうへ歩き出した。彼女の思った通り、浅野舞の目的はやはりサニーヒルズプロジェクトだったのだ。それに、浅野グループ、足立グループと有賀グループが風間グループに選ばれたということも業界内では秘密ではないみたいだ。会社に戻る途中、有賀恭子から電話がかかってきた。「雫ちゃん、よくやったわね。舞は確かに姪だけど、息子の悠真と比べられないものよ。今回のサニーヒルズプロジェクトにずいぶん苦労していたのを知っているわ。自分が正しいと信じてやってください。お義母さんはいつでも力になってあげるからね」広瀬雫の声が優しくなった。「はい、ありがとう。お義母さん」と言い、少し考えてからまた口を開いた。「大宮さんから聞きましたよ。最近また腰が痛くなったそうですね。時間を見つけて一緒に病院に行きましょう。私がついて行きますから」有賀恭子は少しびっくりしたようだが、広瀬雫を気に入ったという顔つきになって言った。「いつも雫ちゃんに面倒をかけるわけにはいかないでしょう。大宮さんが私に付き合ってくれたらいいの。時間があったら、悠真ともっと一緒にいた方がいいわ。雫ちゃんがどれほど悠真を愛しているのかは知っているから。心配しないで、雫ちゃん、どこの馬の骨も分からない女なんて、絶対有賀家に入らせないんだから」広瀬雫はしばらく黙っていたが、やがて淡々と言った。「お義母さん、会社に着きましたから、もう電話切りますね」電話を切ると、ちょうど有賀悠真が遠くないところから会社に入ってくるのが見えた。彼の後ろに何人かの部下がついていて、仕事の報告でもしているようだ。彼は厳しい表情をして、手にした書類を見ながら、後ろにいる人たちに何かを聞いていて、中へ歩いて行った。歩くたびに、彼のスーツの襟が風に揺れ、スラリとした体のラインか

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    その言葉を聞いた広瀬雫は顔が急に青ざめた。「広瀬雫、俺がどうして君に全く興味がないのか知りたいか」有賀悠真は少し愉快そうで残忍な笑みを浮かべた。「君のその他人を不快にさせる態度は本当に気持ち悪い。たとえ性欲を持っていても、君が目に入ると、興ざめするぞ!」言い終わると、彼はスーツと携帯を手にして、広瀬雫には一目もくれず、振り返って去っていった。書斎で、広瀬雫はソファの上に残ったブランケットをじっと見つめていた。その目は失望のあまり、何も映っていなかった。......「広瀬さん、浅野グループの浅野さんがいらっしゃいました」昼、会社に着いたところ、広瀬雫は受付からの電話を受けた。彼女は少し疲れていたが「......彼女に電話をかわってください」と伝えた。少し物音がしてから、電話から甘く澄んだ声がした。「雫姉さん、私です。浅野舞です。今会社の下にいます」「どうしましたか」広瀬雫の態度はあまり親切ではなく、浅野家では義母の有賀恭子以外との付き合いはあまりないのだ。浅野舞は優しく微笑んだ。「今日は用事で来たんです。ちょうど悠真さんの会社の下を通りましたから、雫姉さんと一緒に食事をしようと思いましたの。雫姉さん、会社の隣のレストランで待っていますよ」広瀬雫は断ろうとしたが、何かを思いつき「分かりました。じゃあ、そこでちょっと待っててください。すぐ降りますから」と返事をした。電話を切ってから、手鏡を覗いてみた。鏡の中に映った女の顔色が良いとは言えない。広瀬雫は気を取り直した。レストランに着いた時、浅野舞はつまらなさそうに目の前のコーヒーをかき混ぜていた。広瀬雫に気づくと彼女は目を見開き、すぐ立ち上がって、親切に広瀬雫の腕をとり、テーブルのところへ連れていった。「雫姉さん、普段全然私に連絡してくれないじゃないですか。一緒に遊びに行きましょうよ。今朝恭子おばさんに電話したら、義姉さんはいつも一人で退屈そうだって言われましたよ。これからは時間があったら、時々遊びに来てもいいですか」彼女のあどけない顔を目の前にして、広瀬雫はさりげなく彼女の手から自分の手を引っ込め、向かいの席に腰を下ろした。「いつも忙しいです」彼女の冷たさを浅野舞は全く気にしていないようで、ニコニコ笑っていた。「雫姉さんは有賀グループのためにい

  • 恋の罠にかかったら社長の愛から逃れられません   第24話

    広瀬雫は身を起そうとしたが、手足を思うように動かせず、鉛のように重かった。「ブランケットを持っていってほしいと大宮さんが――」逃げることができず、仕方ないと思いながら、彼女は目の前の渋い顔をした男を見て、乾いた声で説明した。有賀悠真は眉をひそめ、無表情のままブランケットを横に払い、立ち上がって上から床に座り込んだ女を見つめた。彼女のきちんと着こなした服に視線を落とすと、わずかに目を開き、責めるように彼女の目を睨んだ。「昨夜どこへ行ってたんだ?」広瀬雫は目を開閉し、爪がてのひらに深く食い込んで痛くなるくらい手を握りしめて、ようやく力が戻ってきたようで、ゆっくりと立ち上がった。疲れは隠せなくてもこの美形な男を見ていると、心が冷えていった。「あなたに毎日の予定をわざわざお知らせする義務なんてないでしょ」有賀悠真はわけもなく心が苛立っていた。昨晩、春日部咲と一緒にいた時のような感情がまたこみ上げてきて、思わず言った。「俺はもう白石玲奈と別れた、春日部咲とも」広瀬雫はきょとんとしたが、口元にすぐ皮肉な笑みを浮かべた。「それがどうかしたの?」白石玲奈と春日部咲がいなくても、また別の女が現れる。このように際限もなく彼女の感情と尊厳が踏みにじられる生活には、もううんざりだ。彼女が目を伏せると、長いまつ毛が目の下にうっすらと影を落とした。広瀬雫は肌が白く、うっすらとピンク色も見える整った優しい顔立ちをしている。彼のスラリとした体が近づくと、彼女の小さな体が包み込まれるようだ。近くにいるせいか、彼女からわずかないい香りがした。ゴクリと唾を飲み込み、有賀悠真は急に自分を制御できないかのように一歩踏み込んで、広瀬雫を懐に抱いた。そして、ためらいなくその桜の花のような唇を貪った。彼の呼吸が少し速くなり、唇に触れると我慢できずに、すぐ彼女の唇を吸うように舐めた。まるで中毒になったかのように、今胸の中に抱きしめた人を、そのままずっと抱きしめようと思っていた!キスされた広瀬雫は呆気に取られて固まってしまった。彼の手は優しく彼女の体を包み込んでいるが、その薄い唇は力強く押さえつけてきた!ただ、彼のはだけた白いシャツに妖艶に咲いた赤い印は、皮肉にも嘲笑していた。彼が昨夜も他の女と一緒にいたのだと思うと、広瀬雫は吐き気がしそうだった。

  • 恋の罠にかかったら社長の愛から逃れられません   第23話

    別荘のドアを開けると、音に気付いた大宮さんが迎えに来た。「若奥様、ようやく帰られましたね。昨日奥様は電話をおかけになりましたが、電源が切れていると言っていました。若旦那様も一晩中ずっと探していらっしゃいましたので、ただ今帰ったところです。今は書斎にいらっしゃいます。みんなは若奥様を心配して、奥様なんて午前三時まで寝つけられないご様子でしたよ」広瀬雫は申し訳なさそうに「昨日の夜、私は......友達のところに泊まったんです。携帯の電池が切れていて、連絡が取れなくて」と説明した。風間湊斗のところで一晩過ごしたのは、もちろん口が裂けても言えない。大宮さんは頷き、薄いブランケットを渡し、広瀬雫に何かを暗示するようにわざと瞬いた。「さっき若旦那様が書斎で眠っているのを見ました。風邪を引かないように、ブランケットを掛けようと思いましたが、ちょうど若奥様が帰ってきたから、ブランケットをかけてあげてくれませんか」広瀬雫はブランケットを抱えたまま、しばらくその場で固まっていた。大宮さんが好意でそうしていることは知っている。この家で、大宮さんと有賀恭子はよくさりげなく彼女と有賀悠真を仲良くさせるためにいろいろやってくれたが、残念なことに、この二年くらい、広瀬雫はずっとその期待に応えられなかった。大宮さんは彼女に勇気を与えるように笑ってから、台所に入った。持っているブランケットを見て、広瀬雫は苦笑いしていた。もしただ薄いブランケット一枚で、あの男の心を自分のものにすることができるなら、彼女はこの二年間、こんなに苦しむ必要はなかっただろう。さっき大宮さんの話によると、有賀悠真は自分を一晩中ずっと探してくれたという。広瀬雫の心はぬくもりと僅かな痛みが同時に占め、思い切って心を鬼にしてしまうことができなかった。ブランケットを胸にきつく抱きしめて、一歩、また一歩、上の書斎に向かった。書斎のドアは鍵が掛かっておらず、軽く押すと開いた。中に入って見回すと、来客用のソファーに横になった人がいた。有賀悠真は疲れて寝ていたのだろう。面倒くさいと思ったのか、上着のスーツを左手で握ったままソファの上に置き、ワイシャツのボタン―を何個開けて、そのまま寝てしまったようだ。右手を目の上に当てていて、その目の奥にある鋭さも隠していた。彼が眠っている時だけ、こうや

  • 恋の罠にかかったら社長の愛から逃れられません   第22話

    風間湊斗は目の前の掌くらいに小さな顔に浮かんだ笑顔を見つめた。たったこれだけのことで、こんなに彼女を満足させることができるのか。彼は背もたれに身をあずけ、ふっと意味ありげに視線を向けた。「ただデザイン画を完成させるために、俺の好みを調べたのですか」彼の横顔のラインは完璧に近いほど整っており、少し猫目で細く伸びている。普段は厳格なようにしか見えないが、今はやや微笑んでおりどこか優しそうに見えた。いや、その目の弧度は彼にしては優しすぎる。広瀬雫はきょとんとし、慌ててその視線を避けた。「すべては風間グループが満足するようなデザインのためです。うちの会社にとっても、私にとっても、一番大事なことですから」風間湊斗は目の端で彼女が居心地悪そうに車の窓の外へ視線を向けたのを見て、口元に淡い微笑みを浮かべた。彼女の真面目な返事を聞いていないかのように、そのまま話を進めていった。「昨日の朝のニュースを見ましたか。俺のインタビュー」さっきまで舞い上がっていた心が次第に窮迫してきた。その質問が最初のほうに言っていた事業の発展をさしているのか、それとも最後の話を指しているのか......広瀬雫は風間湊斗の真意を全く理解できなかった。「昨日俺が話したこと、何か思うところがありますか?」さっきの言葉では足りなかったかのように、赤信号の手前でブレーキを踏みながら彼女のほうに向いて、何気なく一言を加えた。目の前の男はただでさえ他人より優れた見た目をしていたのに、きちんとした背広を着ているせいか、その厳しさがやや抑えられていた。長い時間と様々な経験で作り上げられた魅力の持ち主は、気怠い動作にミステリ―さも潜んでいる。その深淵の底のような黒い瞳に捉えられ、広瀬雫は掌に少し汗が滲んだ。今日一日に起こった一連の出来事自体、彼女はすでに奇妙な感じを受けていたが......予想したようなことにならないように彼女は密かに願った。少し強く手を握り、頭で必死に考えているのに反して、とぼけた表情を彼に見せた。「ええと......インタビューというのは?」風間湊斗の微笑みが顔から消えて、彼女の顔色から何かを探るように念入りに観察すると、口元を少し上げて言った。「まあいい、何も聞かなかったことにして」ちょうど青信号になり、彼は再びアクセルを踏んだ。彼からは見えない角

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