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第19話

大塚賢仁は目の前のこの光景、彼ら仲間内で最も女っ気のない稀有な存在が、今正に『優しく』懐の女性を抱きしめている姿を見つめていた。

もし自らの目で見ていなかったら、彼はこれはおとぎ話かなにかかと思うところだった。

「湊斗、この女性に注射を打ちたいんだが」

大塚賢仁は唾を飲み込み、薬を入れた注射器を男の前にチラつかせて見せた。しかし、その男の顔は一気に沈んだ。

「彼女は熱を出してるんだ。これが一番早い解熱方法だよ」

大塚賢仁はそれ以上は注射器の針をチラつけせず鼻をさすって自分には罪はないと釈明していた。

ただの注射だろ、別におおごとじゃないんだぞ!

この四男坊の彼女を大事にしている様子からすると、彼の懐にいる女性を少しでも傷つけようなら、自分に明日は来ないような感じだ!

風間湊斗は少しだけ女性を自分の懐から離し、大塚賢仁に早くしろと示した。

注射針が刺さって、懐にいる女性の体が一瞬こわばったのを見て、風間湊斗は自分も痛みを感じたかのように薄い唇をきつく閉じた。

彼の雰囲気で寝室も冷たい空気になった。

大塚賢仁は冷や汗をかき背中を濡らしていた。注射をし終わると、注意事項を述べて彼は迅速に道具を片付けマンションから去っていった。

マンションから出てすぐ、彼は携帯を取り出すと、さっきこっそりと撮った二人の写真を仲間内のLINEグループに送信した。

やはり、写真が送信されると、鳴りを潜めていた奴らが湧き出てきた。

神田裕介:「マジか、これって伝説の湊斗兄の片想いの相手!?」

大塚賢仁:「見たところそうだろうな。滅茶苦茶大事そうにしてたし、彼女に注射する時の湊斗の目つきといったら、俺を死刑にでもしたいような目つきだったんだぜ!」

神田裕介:「こえぇ!!!一体どこぞのお嬢様だよ。はやくはっきり映った写真を!」

竹内晃:「こいつのどこに真正面から撮りに行く勇気があるんだよ。でも......なんだか広瀬さんというお嬢さんに似ている気がする......」

......

大塚賢仁もなんとなく見覚えがあると思った。ただすぐには思い出せなかったのだ。彼は携帯をなおし、また風間湊斗のマンションのゲートを見つめ、頭を振ってその場を後にした。

寝室では、風間湊斗は下を向いて懐にいる女性を見つめ、彼女が起きていない時だけ積極的に近寄り、少しかすれた声で笑った。

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