共有

第30話

広瀬雫は彼が春日部咲の言葉に隠した誘惑を見抜けていないと思っていた......

少し唇をすぼめ、今はついて行くしかない。

会社の下には運転手付きのベントレーが三台止まっていた。どうやら風間グループは彼らを直接ロイヤルガーデンまで送るつもりらしいのだ。

暫く会社の下で待っていると、風間湊斗がようやく降りてきた。広瀬雫は彼がスーツを着替えたことに気づいた。彼は彼女の前を通り過ぎるとき、少しためらいながら、先頭のベントレーミュルザンヌに乗っていった。

春日部咲はそれを見て、慌ててカバンを持ってその車に近づいたが、すぐに横山太一に止められた。彼は申し訳なさそうに笑いかけて「春日部さん、うちの社長は他人と同じ車に乗るのが好きではありませんので、後ろの車に乗っていただけませんか」と言いだした。

春日部咲はすこし悔しそうだったが、今はわがままを言っている場合じゃないと分かっていたので、しぶしぶと後の車に乗った。

広瀬雫はまだ階段に立っていた。それを見て、春日部咲の乗った車に向かおうとしたが、横山太一に止められてしまった。「広瀬さん、有賀グループのデザイン原稿について、まだ相談したいところがいくつかあると社長は言いました。広瀬さんは前の車に乗りましょうか」

あまりにもあからさまな差別に、広瀬雫はわずかに眉をひそめた。

遠くないところで、浅野舞とデザイナーは複雑な目でこちらを見つめていた。

広瀬雫は両手をきつく握りしめ、横山太一に淡々と言った。「また何か問題があったら、後でレストランで食べながら話し合いましょう。みんなもいますから、解決方法もみんなで考えたらいいかと」

横山太一の驚いた顔を見ないで、広瀬雫はそう言うと彼の横を通り過ぎ、まっすぐに春日部咲の乗った車に乗り込んだ。

横山太一は広瀬雫の後ろ姿を見つめ、仕方なくベントレーミュルザンヌに近づき、中にいた男に何かを言った。すると、車の窓がすぐ閉められ、車は走りだした。

浅野舞の傍にいたデザイナーは満面怒りを顕にし、不服そうに「どうして有賀グループのデザインがこんなに大袈裟に褒められたのか、ずっと不思議だと思ってたわ。そういうことなのね?有賀グループも大したことないから、このような女を二人来させて媚びを売るんだね」と言った。

浅野舞は広瀬雫から視線をそらすと、唇をすぼめ小声で叱った。「しい、風間グループの人
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status