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第21話

「......」広瀬雫は皿に取ってもらった青菜のおひたしを見て、少し胸が詰まったような感じがした。デザイン原稿の打ち合わせをするから食事を一緒にするだけだと言ったのは彼なのに。

不満があっても、目の前の男を怒らせてはいけないと広瀬雫は知っていた。

静かに朝食を進めると、彼女はどこかおかしいような感じがした。風間湊斗は彼女の向いに座り、食事内容はありきたりなものだったが、豪華なフルコースを味わっているような優雅なオーラを醸し出していた。

広瀬雫は思わず、昨日の朝のインタビューを思い出した。この男が、上玉の中でも一番上品な物件だと認めざるを得ない。

食事を済ませ、広瀬雫は風間湊斗が優雅に口を拭くのを見て、ちょうどサニーヒルズについて詳しく聞こうと思ったところに、風間湊斗は腰を上げ、ただ「後で家まで送ります。途中で話しましょう」と一言残して、そのまま上にあがって行った。

一人でタクシーで帰れると伝えたかったが、彼はすでに寝室に入っていたので、言いたいことが喉のところに引っかかってしまった。

なんだか、妙な感じでムズムズしてしまう。

男がスーツに着替えてから、地下駐車場に行くため二人でエレベーターに乗った時、ある中年男性に鉢合わせした。

その中年男性もスーツをしっかり着こなしており、さりげなく広瀬雫を何回もチラッと見ると、思わず風間湊斗に尋ねた。「湊斗君、このお嬢さんこそ、今付き合ってる噂の彼女か」

彼は明らかに前のインタビュー動画を見たので、広瀬雫がその彼女だと誤解しているようだった。

じろじろ見られて気まずそうにしていた広瀬雫は彼の言葉を聞くと、顔が急に熱くなった。慌てて説明しようとすると、風間湊斗は淡々と中年男性に頷きながら言った。「大塚おじさん、今日はこんなに早く会社へ行くんですか」

中年男性はにっこり笑って、もう一度広瀬雫を見てから言った。「知っているだろう、賢仁は医学の道に進んだことを。うちには今、私の後継ぎになれる人間はいないんだ。湊斗君のお父さんのように早々仕事から解放されて、あちこち遊びまわる余裕なんてないな。羨ましいかぎりだぞ」

二人の男が面と向かって意味ありげに笑い合っていた。

広瀬雫は無性にイライラしてきた。

車に乗ると、すぐに大通りの他の車の流れに入っていった。

B市の道はいつも込んでいて、ずっと風間湊斗の隣に座ってい
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