南区郊外にある別荘にて。黒いビロードのカーテンが開けられ、月明かりが窓ガラスに透けて床を照らした。窓から外を見下ろすと、遠くのB市の煌びやかな夜景が瞳に飛び込んできた。春日部咲はこの場所をとても気に入っていた。有賀悠真が一度ここへ連れてきてからというもの、彼らが密会する時は必ずここを選んでいた。有賀悠真は春日部咲の隣から身を起こし、ガウンを手に取り体にかけるとベッドの端に座った。そしてすぐにタバコの匂いが部屋に漂った。月はとても美しかった。彼の顔にはいかなる感情も現れていない。春日部咲はタバコの煙で少しむせて二回咳をした。水のように流れるしなやかな体を有賀悠真の肩に絡ませ、目の前のハンサムな男性をじっと見つめた。「悠真、何か悩みでもあるの?」部屋に入ってから、彼がベッドの上で話した言葉を除いて、まともな話を彼女としていない。冷ややかな顔はずっとこわばっていて、彼の機嫌の悪さがはっきりと見て取れた。有賀悠真は少し頭をかしげ、春日部咲と目を合わせた。月光の下、彼女の瞳は宝石ようで、笑った時にはキラキラと光輝いていた。それは記憶の中のあの瞳と特に似ていた......彼は少しぼんやりして、そして深くタバコの煙を吸い、横に置いてあった灰皿にタバコを押し付けて火を消した。「今後は、広瀬雫とトラブルを起こすなよ」彼がはっとした時、この言葉が口から出ていた。彼の声は低く、少し冷ややかだった。それを聞いて春日部咲は少し驚き、自分の聞き間違いじゃないかと思った。しかし、有賀悠真の冷たい表情を見て、彼女の瞳には嫉妬の色がちらつき、悲しそうにこう言った。「悠真......誤解しないで。今日は確かに広瀬雫がサニーヒルズプロジェクトの功績を独り占めしたもんだから、腹が立って彼女のところに行ったの。あなただってこのプロジェクトは私と彼女二人が責任者だって知ってるでしょ。まさか広瀬雫があんな人だったなんて、私――」「君と彼女が共同責任者だって言うが、デザイン原稿作成に君は関与したのか?」春日部咲がひたすら責任逃れする言葉を聞き、有賀悠真は眉間にしわを寄せ、そのまま立ち上がった。この時、心の中には言い表せない苛立ちが湧き上がり、彼は一秒でもこの場に居たくないと思った。春日部咲は驚き、彼が行ってしまうと思い慌てて走り寄り彼を抱きしめた。「悠真
大塚賢仁は目の前のこの光景、彼ら仲間内で最も女っ気のない稀有な存在が、今正に『優しく』懐の女性を抱きしめている姿を見つめていた。もし自らの目で見ていなかったら、彼はこれはおとぎ話かなにかかと思うところだった。「湊斗、この女性に注射を打ちたいんだが」大塚賢仁は唾を飲み込み、薬を入れた注射器を男の前にチラつかせて見せた。しかし、その男の顔は一気に沈んだ。「彼女は熱を出してるんだ。これが一番早い解熱方法だよ」大塚賢仁はそれ以上は注射器の針をチラつけせず鼻をさすって自分には罪はないと釈明していた。ただの注射だろ、別におおごとじゃないんだぞ!この四男坊の彼女を大事にしている様子からすると、彼の懐にいる女性を少しでも傷つけようなら、自分に明日は来ないような感じだ!風間湊斗は少しだけ女性を自分の懐から離し、大塚賢仁に早くしろと示した。注射針が刺さって、懐にいる女性の体が一瞬こわばったのを見て、風間湊斗は自分も痛みを感じたかのように薄い唇をきつく閉じた。彼の雰囲気で寝室も冷たい空気になった。大塚賢仁は冷や汗をかき背中を濡らしていた。注射をし終わると、注意事項を述べて彼は迅速に道具を片付けマンションから去っていった。マンションから出てすぐ、彼は携帯を取り出すと、さっきこっそりと撮った二人の写真を仲間内のLINEグループに送信した。やはり、写真が送信されると、鳴りを潜めていた奴らが湧き出てきた。神田裕介:「マジか、これって伝説の湊斗兄の片想いの相手!?」大塚賢仁:「見たところそうだろうな。滅茶苦茶大事そうにしてたし、彼女に注射する時の湊斗の目つきといったら、俺を死刑にでもしたいような目つきだったんだぜ!」神田裕介:「こえぇ!!!一体どこぞのお嬢様だよ。はやくはっきり映った写真を!」竹内晃:「こいつのどこに真正面から撮りに行く勇気があるんだよ。でも......なんだか広瀬さんというお嬢さんに似ている気がする......」......大塚賢仁もなんとなく見覚えがあると思った。ただすぐには思い出せなかったのだ。彼は携帯をなおし、また風間湊斗のマンションのゲートを見つめ、頭を振ってその場を後にした。寝室では、風間湊斗は下を向いて懐にいる女性を見つめ、彼女が起きていない時だけ積極的に近寄り、少しかすれた声で笑った。
「あ、それは私がやりました」酒井さんはとても親切そうに微笑んだ。「汗をとてもかいていらしたから、着替えないといけませんでしたからね。お腹がすいたでしょう。起きて朝食を召し上がってください。そうだ、洗面所に歯ブラシなど必要なものは揃えておきました。ピンク色のを使ってくださいね」広瀬雫はどうも奇妙な感覚だった。朝、知り合いとはいえ、そんなに親しくない男性の部屋で目を覚ましたのだから、どう考えても、おかしいだろう。でも、昨晩は熱を出してやっぱり記憶がなかった。彼女は少しためらって尋ねた。「風間社長は......今どちらにいらっしゃいますか?」「ジョギングに行かれましたよ。もう少ししたら戻って来られます」広瀬雫はそれを聞いてビクッとし、すぐに起き上がった。後で風間湊斗にどんな顔で会えば良いのか分からないので、彼が戻るまでにこの場を去ってしまいたかったのだ。彼女は頭も昨日のように目眩もせず、体調がかなり良くなったのを感じた。自分の服に着替え、洗面所に入ったところでまた呆気にとられた。洗面台の上には2つの歯ブラシセットが置かれていて、紺色とピンクが並んでいた。セットが2つあるのは別におかしいことではない。さっき酒井おばさんも言っていたことだし、ピンクのほうは彼女のために用意してあるものだからだ。それはいいのだが、問題はこのセット2つが置かれている位置である......うがい用のコップはぴったりとくっついて並び、歯ブラシは2つが寄り添う形で置かれている。2枚あるタオルは交差して置かれていた......ものすごくカップル用だ......それを見て広瀬雫の顔が火照った。そして急いでこのようなおかしな考えを振り払った。おそらく酒井おばさんがこのように置いていたほうが見た目が良いと思っただけだろう。タオルを使うのは気が引けたので、歯ブラシだけ使わせてもらい、その後適当に顔を洗って振り向いた時、そばにあった黒い下着に目が吸い込まれた。豪華で風格のある洗面所の真ん中に異様な姿の一本線が引かれてあった。そこには黒いブリーフが干してあったのだ......広瀬雫の顔は血よりも真っ赤に染まり、慌てて視線をそれから外すと、逃げるように風間湊斗の寝室に出て行った。酒井さんは彼女に朝食を食べるように勧めたが、彼女はそれをやんわりと断った。彼女は少し片付け
「......」広瀬雫は皿に取ってもらった青菜のおひたしを見て、少し胸が詰まったような感じがした。デザイン原稿の打ち合わせをするから食事を一緒にするだけだと言ったのは彼なのに。不満があっても、目の前の男を怒らせてはいけないと広瀬雫は知っていた。静かに朝食を進めると、彼女はどこかおかしいような感じがした。風間湊斗は彼女の向いに座り、食事内容はありきたりなものだったが、豪華なフルコースを味わっているような優雅なオーラを醸し出していた。広瀬雫は思わず、昨日の朝のインタビューを思い出した。この男が、上玉の中でも一番上品な物件だと認めざるを得ない。食事を済ませ、広瀬雫は風間湊斗が優雅に口を拭くのを見て、ちょうどサニーヒルズについて詳しく聞こうと思ったところに、風間湊斗は腰を上げ、ただ「後で家まで送ります。途中で話しましょう」と一言残して、そのまま上にあがって行った。一人でタクシーで帰れると伝えたかったが、彼はすでに寝室に入っていたので、言いたいことが喉のところに引っかかってしまった。なんだか、妙な感じでムズムズしてしまう。男がスーツに着替えてから、地下駐車場に行くため二人でエレベーターに乗った時、ある中年男性に鉢合わせした。その中年男性もスーツをしっかり着こなしており、さりげなく広瀬雫を何回もチラッと見ると、思わず風間湊斗に尋ねた。「湊斗君、このお嬢さんこそ、今付き合ってる噂の彼女か」彼は明らかに前のインタビュー動画を見たので、広瀬雫がその彼女だと誤解しているようだった。じろじろ見られて気まずそうにしていた広瀬雫は彼の言葉を聞くと、顔が急に熱くなった。慌てて説明しようとすると、風間湊斗は淡々と中年男性に頷きながら言った。「大塚おじさん、今日はこんなに早く会社へ行くんですか」中年男性はにっこり笑って、もう一度広瀬雫を見てから言った。「知っているだろう、賢仁は医学の道に進んだことを。うちには今、私の後継ぎになれる人間はいないんだ。湊斗君のお父さんのように早々仕事から解放されて、あちこち遊びまわる余裕なんてないな。羨ましいかぎりだぞ」二人の男が面と向かって意味ありげに笑い合っていた。広瀬雫は無性にイライラしてきた。車に乗ると、すぐに大通りの他の車の流れに入っていった。B市の道はいつも込んでいて、ずっと風間湊斗の隣に座ってい
風間湊斗は目の前の掌くらいに小さな顔に浮かんだ笑顔を見つめた。たったこれだけのことで、こんなに彼女を満足させることができるのか。彼は背もたれに身をあずけ、ふっと意味ありげに視線を向けた。「ただデザイン画を完成させるために、俺の好みを調べたのですか」彼の横顔のラインは完璧に近いほど整っており、少し猫目で細く伸びている。普段は厳格なようにしか見えないが、今はやや微笑んでおりどこか優しそうに見えた。いや、その目の弧度は彼にしては優しすぎる。広瀬雫はきょとんとし、慌ててその視線を避けた。「すべては風間グループが満足するようなデザインのためです。うちの会社にとっても、私にとっても、一番大事なことですから」風間湊斗は目の端で彼女が居心地悪そうに車の窓の外へ視線を向けたのを見て、口元に淡い微笑みを浮かべた。彼女の真面目な返事を聞いていないかのように、そのまま話を進めていった。「昨日の朝のニュースを見ましたか。俺のインタビュー」さっきまで舞い上がっていた心が次第に窮迫してきた。その質問が最初のほうに言っていた事業の発展をさしているのか、それとも最後の話を指しているのか......広瀬雫は風間湊斗の真意を全く理解できなかった。「昨日俺が話したこと、何か思うところがありますか?」さっきの言葉では足りなかったかのように、赤信号の手前でブレーキを踏みながら彼女のほうに向いて、何気なく一言を加えた。目の前の男はただでさえ他人より優れた見た目をしていたのに、きちんとした背広を着ているせいか、その厳しさがやや抑えられていた。長い時間と様々な経験で作り上げられた魅力の持ち主は、気怠い動作にミステリ―さも潜んでいる。その深淵の底のような黒い瞳に捉えられ、広瀬雫は掌に少し汗が滲んだ。今日一日に起こった一連の出来事自体、彼女はすでに奇妙な感じを受けていたが......予想したようなことにならないように彼女は密かに願った。少し強く手を握り、頭で必死に考えているのに反して、とぼけた表情を彼に見せた。「ええと......インタビューというのは?」風間湊斗の微笑みが顔から消えて、彼女の顔色から何かを探るように念入りに観察すると、口元を少し上げて言った。「まあいい、何も聞かなかったことにして」ちょうど青信号になり、彼は再びアクセルを踏んだ。彼からは見えない角
別荘のドアを開けると、音に気付いた大宮さんが迎えに来た。「若奥様、ようやく帰られましたね。昨日奥様は電話をおかけになりましたが、電源が切れていると言っていました。若旦那様も一晩中ずっと探していらっしゃいましたので、ただ今帰ったところです。今は書斎にいらっしゃいます。みんなは若奥様を心配して、奥様なんて午前三時まで寝つけられないご様子でしたよ」広瀬雫は申し訳なさそうに「昨日の夜、私は......友達のところに泊まったんです。携帯の電池が切れていて、連絡が取れなくて」と説明した。風間湊斗のところで一晩過ごしたのは、もちろん口が裂けても言えない。大宮さんは頷き、薄いブランケットを渡し、広瀬雫に何かを暗示するようにわざと瞬いた。「さっき若旦那様が書斎で眠っているのを見ました。風邪を引かないように、ブランケットを掛けようと思いましたが、ちょうど若奥様が帰ってきたから、ブランケットをかけてあげてくれませんか」広瀬雫はブランケットを抱えたまま、しばらくその場で固まっていた。大宮さんが好意でそうしていることは知っている。この家で、大宮さんと有賀恭子はよくさりげなく彼女と有賀悠真を仲良くさせるためにいろいろやってくれたが、残念なことに、この二年くらい、広瀬雫はずっとその期待に応えられなかった。大宮さんは彼女に勇気を与えるように笑ってから、台所に入った。持っているブランケットを見て、広瀬雫は苦笑いしていた。もしただ薄いブランケット一枚で、あの男の心を自分のものにすることができるなら、彼女はこの二年間、こんなに苦しむ必要はなかっただろう。さっき大宮さんの話によると、有賀悠真は自分を一晩中ずっと探してくれたという。広瀬雫の心はぬくもりと僅かな痛みが同時に占め、思い切って心を鬼にしてしまうことができなかった。ブランケットを胸にきつく抱きしめて、一歩、また一歩、上の書斎に向かった。書斎のドアは鍵が掛かっておらず、軽く押すと開いた。中に入って見回すと、来客用のソファーに横になった人がいた。有賀悠真は疲れて寝ていたのだろう。面倒くさいと思ったのか、上着のスーツを左手で握ったままソファの上に置き、ワイシャツのボタン―を何個開けて、そのまま寝てしまったようだ。右手を目の上に当てていて、その目の奥にある鋭さも隠していた。彼が眠っている時だけ、こうや
広瀬雫は身を起そうとしたが、手足を思うように動かせず、鉛のように重かった。「ブランケットを持っていってほしいと大宮さんが――」逃げることができず、仕方ないと思いながら、彼女は目の前の渋い顔をした男を見て、乾いた声で説明した。有賀悠真は眉をひそめ、無表情のままブランケットを横に払い、立ち上がって上から床に座り込んだ女を見つめた。彼女のきちんと着こなした服に視線を落とすと、わずかに目を開き、責めるように彼女の目を睨んだ。「昨夜どこへ行ってたんだ?」広瀬雫は目を開閉し、爪がてのひらに深く食い込んで痛くなるくらい手を握りしめて、ようやく力が戻ってきたようで、ゆっくりと立ち上がった。疲れは隠せなくてもこの美形な男を見ていると、心が冷えていった。「あなたに毎日の予定をわざわざお知らせする義務なんてないでしょ」有賀悠真はわけもなく心が苛立っていた。昨晩、春日部咲と一緒にいた時のような感情がまたこみ上げてきて、思わず言った。「俺はもう白石玲奈と別れた、春日部咲とも」広瀬雫はきょとんとしたが、口元にすぐ皮肉な笑みを浮かべた。「それがどうかしたの?」白石玲奈と春日部咲がいなくても、また別の女が現れる。このように際限もなく彼女の感情と尊厳が踏みにじられる生活には、もううんざりだ。彼女が目を伏せると、長いまつ毛が目の下にうっすらと影を落とした。広瀬雫は肌が白く、うっすらとピンク色も見える整った優しい顔立ちをしている。彼のスラリとした体が近づくと、彼女の小さな体が包み込まれるようだ。近くにいるせいか、彼女からわずかないい香りがした。ゴクリと唾を飲み込み、有賀悠真は急に自分を制御できないかのように一歩踏み込んで、広瀬雫を懐に抱いた。そして、ためらいなくその桜の花のような唇を貪った。彼の呼吸が少し速くなり、唇に触れると我慢できずに、すぐ彼女の唇を吸うように舐めた。まるで中毒になったかのように、今胸の中に抱きしめた人を、そのままずっと抱きしめようと思っていた!キスされた広瀬雫は呆気に取られて固まってしまった。彼の手は優しく彼女の体を包み込んでいるが、その薄い唇は力強く押さえつけてきた!ただ、彼のはだけた白いシャツに妖艶に咲いた赤い印は、皮肉にも嘲笑していた。彼が昨夜も他の女と一緒にいたのだと思うと、広瀬雫は吐き気がしそうだった。
その言葉を聞いた広瀬雫は顔が急に青ざめた。「広瀬雫、俺がどうして君に全く興味がないのか知りたいか」有賀悠真は少し愉快そうで残忍な笑みを浮かべた。「君のその他人を不快にさせる態度は本当に気持ち悪い。たとえ性欲を持っていても、君が目に入ると、興ざめするぞ!」言い終わると、彼はスーツと携帯を手にして、広瀬雫には一目もくれず、振り返って去っていった。書斎で、広瀬雫はソファの上に残ったブランケットをじっと見つめていた。その目は失望のあまり、何も映っていなかった。......「広瀬さん、浅野グループの浅野さんがいらっしゃいました」昼、会社に着いたところ、広瀬雫は受付からの電話を受けた。彼女は少し疲れていたが「......彼女に電話をかわってください」と伝えた。少し物音がしてから、電話から甘く澄んだ声がした。「雫姉さん、私です。浅野舞です。今会社の下にいます」「どうしましたか」広瀬雫の態度はあまり親切ではなく、浅野家では義母の有賀恭子以外との付き合いはあまりないのだ。浅野舞は優しく微笑んだ。「今日は用事で来たんです。ちょうど悠真さんの会社の下を通りましたから、雫姉さんと一緒に食事をしようと思いましたの。雫姉さん、会社の隣のレストランで待っていますよ」広瀬雫は断ろうとしたが、何かを思いつき「分かりました。じゃあ、そこでちょっと待っててください。すぐ降りますから」と返事をした。電話を切ってから、手鏡を覗いてみた。鏡の中に映った女の顔色が良いとは言えない。広瀬雫は気を取り直した。レストランに着いた時、浅野舞はつまらなさそうに目の前のコーヒーをかき混ぜていた。広瀬雫に気づくと彼女は目を見開き、すぐ立ち上がって、親切に広瀬雫の腕をとり、テーブルのところへ連れていった。「雫姉さん、普段全然私に連絡してくれないじゃないですか。一緒に遊びに行きましょうよ。今朝恭子おばさんに電話したら、義姉さんはいつも一人で退屈そうだって言われましたよ。これからは時間があったら、時々遊びに来てもいいですか」彼女のあどけない顔を目の前にして、広瀬雫はさりげなく彼女の手から自分の手を引っ込め、向かいの席に腰を下ろした。「いつも忙しいです」彼女の冷たさを浅野舞は全く気にしていないようで、ニコニコ笑っていた。「雫姉さんは有賀グループのためにい