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第073話

「ばかげている!」

理恵の涙を見て、佐藤夫人の怒りが急上昇した。彼女は茶碗をテーブルに叩きつけるように置き、「涼介があなたと婚約すると言い出した時、家族の誰一人賛成しなかったのよ。それでもあなたと婚約すると言って、桜井紗月の遺志を尊重するとまで言った」

「それから5年経って、やっと家族もあなたを佐藤家の嫁として受け入れたのに、今さら婚約を解消するですって?」

「結婚がそんなに軽いものだと思っているのかしら?」

そう言い終わると、佐藤夫人はテーブルの上に置かれた宝石を一瞥し、優しく理恵を見つめた。「理恵、心配しなくていいわ」

「あなたは本当に孝行だし、絶対に力になるから」

「涼介はきっとあのメイドに惑わされて、一時的に混乱しているだけで、婚約を解消するなんて言っているのよ」

「安心しなさい。おばあさんは絶対に婚約を解消させたりはしないわ」

理恵は唇を噛みしめ、その顔には悲しみが溢れていた。「おばあさまがそう言ってくれるなら、安心しました」

「本当にありがたいです......」

そう言って彼女は涙を拭い、「おばあさまがこんなに良くしてくださるのであれば、何かお返ししなければなりません」

「今日のこのプレゼントは孝行の印ですけれど、山本氏の手作りジュエリーセットはもう一つあると覚えています。それも買って、誕生日に差し上げますね。どうですか?」

その言葉を聞いた佐藤夫人の顔には瞬く間に笑顔が浮かび、何本ものしわができた。「いいわ、いいわ!」

「ぜひ探してみなさい。この件はしっかりと対処してあげるわ」

「ありがとうございます、おばあさま!」

理恵は嬉しそうに涙を拭き、丁寧に佐藤夫人にお辞儀をして立ち上がった。「それでは、おばあさま、失礼します」

「このジュエリーを大切にしてくださいね」

そう言って彼女は部屋を後にした。

「執事、理恵をお見送りしなさい」

「かしこまりました」

5分後、執事が理恵を送り出し、ゆっくりと佐藤夫人の元に戻った。

「夫人、以前はこの桜井さんのことをずっと嫌っていらっしゃいましたよね?」

「そうね」

佐藤夫人は目を閉じ、昔の桜井紗月の姿が浮かんできた。

桜井が佐藤家に嫁いだ当時、彼女に対してもあまり好意を持っていなかったので、よく涼介に離婚を勧めていた。

しかし、誰が予想しただろうか。涼介は離婚するどころ
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