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第029話

「どうしたの」

透也の驚いた表情を見て、涼介は薄く微笑んだ。「俺に会って驚いたか?」

透也は唾を飲み込み、正直に頷いた。「そりゃ、かなり驚いたよ......」

どうやってここを見つけたんだ?

「自己紹介は不要だな」

涼介は綺麗なグラスを手に取り、優雅な動作でビールを注ぎながら言った。「俺の娘を助けたのに、なぜ避けるの?」

「いや、別に避けてないし」

透也は視線をそらし、正面から見られずに答えた。

いつも口では涼介を「クズ男」と呼んでいたが、彼が目の前に現れると、透也は妙に居心地が悪かった。

涼介は笑みを浮かべた。「本当に避けてないのか?」

透也は軽く咳払いをして答えた。「ただの善行さ、名前を残さないだけ」

「善行をしたのに名前だけでなく、一切の痕跡も残さないとはな?」

涼介の部下は今日、遊園地をくまなく捜索し、出入りする全ての人物を確認したが、透也の姿はどこにもなかった。

透也は無言でオレンジジュースを飲んだ。

涼介はそれ以上詮索せず、オレンジジュースのボトルを手に取り、透也の空いたグラスに再び注いだ。「何歳だ?」

「6歳」

あかりと同じ年か。

涼介は目の前の少年を見つめ、目にほんのりと感心の色を浮かべた。「どうして観覧車の操作ができたんだ?」

透也はちらりと涼介を見て、「それは内緒だよ」

涼介は微笑んだ。「どうしても知りたいと言ったら?」

彼は監視カメラの映像を確認していた。この少年は、あかりが事故に遭った後、直接総合制御室に向かっていた。

そして、扉が開かないとわかるや否や、ためらうことなく、階段の踊り場にいた二人の警備員を利用したのだ。

その機転と判断力は、多くの大人でもできないことだ。

「どうしてそんなに聞きたいんだよ?」

透也はオレンジジュースを飲みながら、気まずさを隠すように言った。「もしかして、僕から技を盗んで、善行をして名前を隠すつもり?」

その真剣な調子が涼介の笑いを誘った。

「お前、なんてしっかりしてるんだ?」

彼の成熟した態度は、6歳の子供には見えなかった。

透也は考え込むように涼介を見つめ、眉をしかめながら言った。「たぶん父が早死にしたからだろう。だから早く大人になったんだ」

少年は微笑んでそう言った。

だが、涼介にはどうしても違和感があった。

だが、どこが引っかかるのか、はっきり
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