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第032話

あかりは一瞬固まり、間違ったことを言っちゃったことに気づいた。

彼女は顔をそらし、涼介を見る勇気がなく、「ママは今......」と話しかけた。

しかし、途中でふと書斎のドアに立っている紗月を見つけていた。

言葉を飲み込んだ。

涼介はあかりの視線を追い、ドアに立っている女性を見て、不機嫌そうに声を出した。「何か用か?」

「はい」

紗月は無表情で、「さっき下で朝食ができたと言っていました。あかりがいつ食べるのかと」

「お前が腹減ってるなら先に食え」

涼介は紗月をちらりと見て冷たく言った。「俺とあかりは、用が済んだら降りて食う」

「わかったわ」

紗月は微笑んでうなずき、ためらうことなくその場を離れた。

紗月が去った後、涼介はドアを閉め、再び問いかけた。「さっき、ママが今どんな姿だって言おうとしたんだ?」

あかりはしばらく黙ってから涼介の顔を見上げ、「ママは......今、全然きれいじゃないよ」

彼女は記憶の中の紗月の姿を必死に思い出しながら続けた。「ママの顔には傷がいっぱいあって、いつも包帯を巻いてるの。目しか見えなかったよ」

「包帯を外すと、顔にたくさんの傷跡があって......」

あかりは震えながら話を続けた。「とにかく、怖い顔をしてるよ......」

彼女が幼かった頃、まだ紗月の顔は今ほど完璧ではなかった。

包帯の下にある顔を見るたびに、それに怖くて夜も眠れなくなっちゃった。

そのたび、響也兄ちゃんが彼女を抱きしめて、「あかり、これは僕たちのママなんだよ。この世で、一番僕たちを大切に思ってくれている人なんだ」

「どんな姿になっても、絶対にママを嫌いになったり、怖がったりしちゃいけないんだ」

当時、幼いあかりは兄の言葉の意味がよくわからなかった。

その後、透也兄ちゃんがママの過去を詳しく話してくれた時、ようやく理解した。

あの頃のパパは、ママにとって一番大切な存在だった。あかりにとってのママのように。

しかし、パパはママをあんな姿に追い込んでしちゃった......

そのことを思い出したあかりは、冷たい目で涼介を見上げた。「ママがもし醜くなったら、それでも探しに行くの?」

その質問に、涼介は思わずため息をついた。「どんな姿になっても、俺の妻だよ」

そう言って、彼はあかりの髪を優しく撫でた。「ママは、見た目が原因でお前だ
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