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第035話

涼介は少し驚いていた。

記憶が正しければ、この女性があかりのそばにいるのは、まだ1週間も経っていないはずだ。

それなのに、あかりのことをここまでわかっているのか?

涼介はソファに座り、子供服コーナーで忙しそうに動き回る桜井紗月の姿を見つめた。ふと、目の前に浮かんだのはかつての妻、理恵の顔だった。

もし彼女がまだ生きていて、ここにいたなら、紗月と同じように、まるで働き蜂のように娘のために尽くしていたに違いなかった。

言い換えれば、紗月があかりに対して見せる気遣いや優しさは、単なるメイドとしてのそれを超えているように思えた。

昨日、観覧車の中で命を懸けてあかりを守ろうとした紗月の姿を思い出した。

その瞬間、たとえ紗月が何かを企んでいたとしても、そんなことは大した問題ではないと感じた。

少なくとも、あかりのために心から尽くしていた。

あかりはとても良い目を持っていた。戻ってきたばかりで、最適なメイドを見つけたのだから。

「お客様」

ソファで長く座っている涼介を見て、店員が恐る恐る近づいてきた。「そちらは奥様ですよね?

とても娘さんのことを大事にしていらっしゃるようですね。

奥様のために何かプレゼントを選ばれてはいかがですか?」

涼介は眉をひそめ、視線を少しそらした。

彼の冷たい眼差しに、店員は少し怯んだ。

しかし、それでも店員は笑顔を崩さず、背後の婦人服コーナーを指さして提案した。「奥様は素晴らしい体型をお持ちですから、こちらの服はどれでもお似合いになると思いますよ」

なぜか、涼介は立ち上がり、店員に導かれるまま婦人服コーナーに向かった。

いくつか紹介を受け、彼は紗月のために高級な洋服を2着購入した。

ソファに戻った頃には、紗月もあかりのための服をすべて選び終わっていた。

「これをお前に」

帰り道、涼介は無表情のまま、買った洋服を紗月に差し出した。

紗月はそれを受け取り、ちらっと中を見た。「佐藤さん、どうして急に服なんて買ってくれたのか?」

「一つは昨日、あかりを救ってくれたお礼だ。

「もう一つは、俺に料理を教えてくれることへの感謝だ」

涼介は窓の外を見つめながら冷たく言った。「お前があかりに尽くしているのは分かっている。でも、お前に与えられるものは限られていた。これはその見返りだ」

紗月は一瞬驚き、すぐに涼介の意図を悟
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