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第034話

「中川さん」

紗月は杏奈に向かってわざとらしく目をぱちぱちさせながら、よそよそしい口調で話しかけた。「お買い物ですか?」

杏奈は眉をひそめ、何か言おうとしたが、反対側にいた涼介が透也を一瞥して「また会ったな」と淡々と言った。

紗月の前では、透也は何も言えず、気まずそうに笑みを浮かべた。「ま、また会ったね......」

杏奈はあまりの驚きに言葉を失った。

どういうことだ?

紗月がこんな大物、佐藤涼介と知り合い?

しかも透也まで彼を知っているなんて?

杏奈はぎこちなく笑いながら、「あら、皆さんご存知なんですね......」

「こんにちは」

この時、涼介はやっと透也を押している女性に気づき、「あなた、この子の母親ですか?」と尋ねた。

杏奈は頭の中が混乱した。

この子の母親は涼介のすぐそばにいるじゃないの?

「僕の母じゃなくて、お義母さんよ」

透也が率先して発言し、涼介の言葉を遮った。「母は仕事で忙しいから、最近、お養母さんと一緒に住んでるんだ」

透也の説明に、杏奈が言おうとしていた言葉は飲み込まれた。

杏奈は咳払いをしてから、紗月と軽く会話を交わし、その場を早々に立ち去った。

涼介は杏奈と透也の姿が完全に見えなくなるまで見送り、それから振り返った。

「どうして佐藤さんがあんな小さな子と知り合いなの?」

紗月はショッピングカートを押しながら、無関心を装って尋ねた。

「昨日、その少年がお前とあかりを助けたんだ」

涼介は少し溜息をつきながら答えた。「本当に頭が良くて、正義感のある子だった」

「そうなんだ......」

紗月は密かに胸を撫で下ろした。

透也がまた何か余計なことをしなくてよかった。

透也の勝手な行動であかりと涼介を引き合わせ、紗月の計画はすっかり狂ってしまっているのだから。

もう一度こんなことが起きたら、彼女は心臓が止まりそうだった。

「その子はかわいそうな境遇なんだ」

紗月がその子に興味を持っているように見えたので、涼介は続けて言った。「彼が言うには、生まれた時に父親が亡くなっていて、ずっと母親と二人で暮らしていたらしいんだ」

「そして、母親が仕事で忙しく、友人に預けられているとも言っていた」

どういうわけか、その少年を思い出すと、あかりのことを思い浮かべてしまった。

もしあかりが自分と再会していなかっ
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