そして、篠崎暁斗は口を開くとすぐ吉沢凛子を詰問し始めた。仕事が終わったのにどうして家に帰っていないんだ?おじいさんが彼女が帰ってくるまで晩ご飯を食べずに今もずっと待っているんだぞ等だ。吉沢凛子はそれを聞いてギクリとした。彼女はあまりの忙しさに、完全に自分が結婚していたことをきれいさっぱり忘れてしまっていたのだ。「すみません、ちょっと用事があって遅くなりました。もうちょっとしたら帰ります」「迎えに行きます」そう言うと、篠崎暁斗は電話を切った。迎えに来る?彼は私の居場所が分かるの?吉沢凛子は彼に電話をかけなおしたが、篠崎暁斗はそれに出なかった。おばあさんを落ち着かせ、家族の面会時間が過ぎ、吉沢凛子は医者から病室を追い出される形で出てきた。病院を出た時にはすでに10時過ぎだった。この時、篠崎暁斗は吉沢凛子のマンションの一階にいた。三階の部屋の明かりはついているので、彼は吉沢凛子が家にいると確信していた。しばらくして、カーテン越しに二人の人影が現れ親しそうに抱き合っていた。女の影は吉沢凛子とほぼ同じだ。結婚二日目にして他の男と密会しているとは。本気で彼をお飾りだとでも思っているのか?篠崎暁斗は怒りが心頭に発した。彼は力強く何回か車のクラクションを鳴らしたが、階上の二人はそれに気づかず逆に周りの住人から罵られてしまった。「こんな夜遅くにデタラメにクラクションを鳴らす奴があるか、頭おかしいんじゃないのか?」篠崎暁斗は怒りのあまりハンドルを力を込めて叩いた。現在の彼はまるで誤って蠅でも口に入ってしまったくらい気持ちが悪かった。吉沢凛子が篠崎家に帰って来た時、篠崎暁斗は家にはいなかった。相田おばさんは回りくどい言い方で「結婚したばかりだというのに、こんなに遅くに帰ってきて、篠崎さんは本当に嫁運が悪いですこと」と凛子に言った。「彼はどこに行ったんですか?」吉沢凛子は尋ねた。「私が知るわけないでしょう。おじいさんはあなたが帰ってくるまでずっと晩ご飯を待っていらしたんですよ。遅くなるならなるで電話の一本でもよこすのが筋ってものでしょうに」「次は必ず気をつけます」吉沢凛子も本当に気がとがめていた。でも、おじいさんがもう休んだと聞いて、彼女は自分の部屋に戻るしかなかった。腰掛けてすぐ、篠崎暁斗がド
「私の元カレが、その会社に面接に行ったんですけど、月収は100万らしいんです」吉沢凛子は腹を立てて語った。「彼は半年もニート生活をしていて、家でずっとゲームばかり、暇を持て余してたんです。アステルテクノロジーの社長さん、思考回路がショートしちゃったんじゃないですか。あんな向上心のない人間を採用しちゃうなんて、しかも毎月100万もあげるんですよ」「ごほ、ごほ、ごほ......」篠崎暁斗は麺が喉に引っかかってむせた。吉沢凛子は急いで彼に水を注いだ。「あなたも彼に100万だなんて多すぎると思ったんでしょう?あなたの給料でも60万なんですよ。あなたこそアステルテクノロジーに面接に行ってみたらどうです?」それを聞いて、篠崎暁斗はさらに咳き込んでしまった。彼の顔は息が詰まって赤くなってしまい、しばらくしてようやく顔色が戻ってきた。「君はさっき元カレとは連絡していないって言ってたじゃないですか。どうして彼がアステルテクノロジーに行くと知っているんですか?」「彼の今カノが言ってたんです。私たち三人は大学の同級生で、私とこの女は同じ会社なんです。以前は親友だったんですけどね」篠崎暁斗は少し驚いていた。どうやら今晩、あの階上にいた女は本当に吉沢凛子ではなかったようだ。「じゃあ、君と彼女が同じ会社で、気まずくないんですか?」「だから、今転職しようかと考えているんです」篠崎暁斗はそれ以降は何もしゃべらず、冷麺を食べるのに集中し、食べ終わると急いでシャワーを浴びに行った。彼が風呂から上がってきた時、吉沢凛子はまだメッセージを送っていた。彼は今晩書斎で寝ると伝え、ノートパソコンを持って隣の部屋に行った。どうやら遅くまで残業するようだ。吉沢凛子もあまり気にせず、彼女は着替えを持ってお風呂に行った。書斎に来ると、篠崎暁斗はパソコンを開き、しばらくの間一ページも動かさなかった。そして、電話を取り、人事部長にかけた。社長の電話を受けて、人事部長は戦々恐々としていた。彼が会社に入ってから、社長が彼に話す時はいつも5文を超えなかった。しかも今日の昼間はたったの3文でさらに短かった。「篠崎社長、こんなに遅くにまだお休みになられていないんですか?」「今日採用を決めたあの林佑樹だが、給料を外部に漏らしたのを理由に毎月20万に
「林佑樹!」吉沢凛子はその人物は絶対に林佑樹だと思った。でなければ、彼女を見てすぐに引っ込んでしまうわけがないからだ。彼女はエレベーターが一階に止まったのを見て急いで階段を降りていった。しかし、彼女が一階に着いた時には、もう林佑樹の姿は見えなかった。この時、病院からまた電話がかかってきて、おばあさんの手術は手術費用を全額支払うまで無期限で延期されると伝えられた。そして彼女は急いでまた病院へと向かった。彼女がアステルテクノロジーのオフィスビルから出て行くと、篠崎暁斗は電話をとり一階の受付に電話をかけ、吉沢凛子が林佑樹を探しに来たことを知ってすぐに一息ついた。ついでにその受付嬢は解雇すると通知を出した。続けて人事部に電話をかけ、林佑樹の毎月の給与を10万にし、監視カメラ室のネット管理役にすると通知を出した。林佑樹のほうはというと、ちょうど給料が20万になって憂鬱になっていたところだった。するとまた通知がきて、監視カメラ室勤務の給料で10万に降格されると聞き、彼はその瞬間に怒り出した。おもわず物に当たり散らしそうになった。しかし、榎本月香に大法螺を吹いてきてしまったものだから、また職を失ったなんて顔向けできないような話ができるものか。しばらく思い悩み、怒りを我慢して、監視カメラ室に行くしかなかった。吉沢凛子は病院に戻ってきて、大沢康介に電話をかけたが繋がらず、直接彼のオフィスへ探しに行った。ドアの外まで来ると、中から言い争っている声が聞こえてきた。「この患者さんはもう前金を払っているんだ。どうして手術室の予定が立てられないんだ?」大沢康介は激怒して言った。「彼女は全額支払っていないわ。だから彼女の手術を延期する権利が私にはあるの」相田紬は全く情けをかける気配はなかった。「相田先生、まさかあなたがこんなに人の心を持たない人間だとは思っていなかったよ」「私は医者よ、慈善家なんかじゃない。病院の規則に従って何が悪いの?もしかして、先生はあの患者の家族を気に入っているから、彼女にコネを使ってあげるつもり?」「相田紬、おまえ何をそんなデタラメを言っているんだ?本当に君は私を失望させてくれるよな」大沢康介はもうこれ以上彼女と言い争いたくなかったので、ドアを開けてその場を離れようとした。すると相田紬はドアを塞いだ。「大
篠崎暁斗が車に乗ると、吉沢凛子は我慢できずに尋ねた。「あの人たちと何を話したんですか?」「なにも、ちょっと知り合いの友人に状況を聞いてみたんだ」「あなたが警察に彼らを連れて来させたんですか?」吉沢凛子はさっき警察署に入っていった家族三人を指差して言った。「あの人たちは誰なんだ?」「私の家を占拠している一家です」「ああ、たぶんあの人たちが警察に通報したんだろう。だから連れてきて状況を聞いているんじゃないかな」吉沢凛子はそれを聞いて確かにそうだと思い、それ以上は聞かなかった。家に帰ると、吉沢凛子は警察から電話がかかってきた。あの一家は三日後にあの家から引っ越すことに同意したらしい。吉沢凛子は信じられなかった。警察の仕事はいつからこんなにも速くなったのか?吉沢凛子は喜んでこの良い知らせを篠崎暁斗に伝えた。この時、彼はソファに座って携帯をいじっていた。篠崎暁斗は顔も上げずに、ただ「そうか」と言って、続けて携帯を見ていた。吉沢凛子はこの機に乗じて篠崎暁斗に貸してくれると約束したあの1000万はいつもらえるのか尋ねた。今度は篠崎暁斗は携帯を下ろした。「君の家は購入してからまだ5年以下だろ、家を売って得られた利益の結構な割合を税金として支払わないといけないし、その他諸々の費用を差し引いたら、手元に残るのは1000万に満たないはずだ。君はどうやってそのお金を俺に返すと約束してくれる?」と尋ねた。 そうなのだ、あの家は諸費用を差し引いたら、手元に来るのは多くても800万くらいにしかならないのだ。今度は吉沢凛子が質問されて返事に困ってしまった。そして暫くしどろもどろになっていた。「今公認会計士の資格試験を受けているんです。一回で合格すれば、給料が高い仕事に変えようと思っています」篠崎暁斗は明らかに信じていない様子だった。ただ吉沢凛子が時間稼ぎをしているだけな気がしたのだ。しかし、それでも彼は彼女の要求に応えることにした。以前、約束していたことだからだ。「明日の午前中にカードに振り込むよ」でも、篠崎暁斗はまた新しい条件を出してきた。「俺たち二人が交わした婚前契約は他言無用だ。絶対におじいさんに知られないでくれ」吉沢凛子はもちろん何の疑いもなく同意した。次の日の午前。篠崎暁斗は会社に到着する
林佑樹がたぶん今、会社の一階にいるのだと予想し、吉沢凛子は急いで彼女の後を追っていった。吉沢凛子が下まで降りると、やっぱり林佑樹と榎本月香が激しく口論している声が聞こえてきた。「林佑樹!」吉沢凛子は彼のところへ向かっていった。林佑樹は吉沢凛子を見ると、榎本月香の手を引いて脱兎の如くぱっと駆け出していった。吉沢凛子は外に出て通りをいくつも探し回ったが、やはり見逃してしまった。この時、篠崎暁斗から電話がかかってきて、彼女にすぐに帰ってくるように言った。吉沢凛子はおじいさんに何かあったのかと思い、急いでタクシーを拾って篠崎家に帰った。しかし家に着くと、どうも様子がおかしかった。篠崎暁斗はソファに腰掛け、その表情は暗く沈みとても恐ろしかった。「どうしましたか?何があったんですか?」吉沢凛子は尋ねた。「吉沢凛子、君は俺と約束したよな?」篠崎暁斗の声は異常なまでに冷たかった。「どの約束です?」「婚前契約のことだよ。君はおじいさんには内緒にすると約束しただろう。でも、今おじいさんはそれは知っただけでなく、今後の治療まで拒否し出したんだ」篠崎暁斗は吉沢凛子の婚前契約書を彼女の前にバンッと叩きつけた。「どういうことか、説明してもらおうか」吉沢凛子は事態の深刻さを理解していたが、彼女は本当にどういうことなのか訳が分からない。「おじいさんがこの契約書を見つけたんですか?」「まだとぼける気か?」篠崎暁斗は立ち上がり、吉沢凛子を失望した眼差しで見つめた。「おじいさんが今朝新聞を読んでいる時に、その中にこの契約書が挟まっていたそうだ。それで相田さんに確認したところ、彼女は今朝、君がおじいさんにこの新聞を手渡したと教えてくれたぞ」「そうです、新聞は私が届けました。でも契約書なんて私、中に入れていませんよ?」吉沢凛子は全くの誤解だと思った。「どうして私がこんなことをする必要があるんですか。もしかして相田さんの仕業じゃ?」「もういい。俺たちの部屋は普段は鍵をかけているんだぞ、相田さんが入って来られるか?相田さんが入ったのだとしても彼女が君の分の契約書がどこにあるのか知ってる?それに彼女がこんなことするして何の得があるんだ?」「じゃあ、私がこんなことをして、どんな得があるって言うんですか?」吉沢凛子も腹を立てていた。「どう
この瞬間、大沢康介も彼女に気づいた。「なんで君が?」大沢康介は慌てて彼女の傷を調べた。幸いどれも表面のかすり傷ばかりだった。大沢康介は吉沢凛子を助け起こして言った。「こんなに遅くに、どうしてこんな所に?」「ちょっと用事があって」大沢康介は目の前にある警察署を見て、何か尋ねようとしたが、結局何も聞かなかった。「どこに住んでいるんですか?家まで送りましょう」「ご迷惑をおかけしますから、大丈夫です。タクシーで帰りますから」吉沢凛子は直感的に断った。「迷惑なんかじゃありませんよ。私も今は特に用事はないですし、代行業者とでも思ってくれればいいですから」大沢康介は言い終わると、車のドアを開けた。その厚意が断りづらく、吉沢凛子はおとなしく車に乗った。途中、二人はあまり多くは話さなかった。話は吉沢おばあさんの病状についてが大半だった。20分後、車は篠崎家の前に止まった。吉沢凛子が車を降りようとした時、大沢康介は彼女の腕に擦り傷があるのに気づき、急いで彼女の腕をつかんだ。そして、車に積んであった救急箱を取り出して、彼女の傷口を軽く処理した。さすが専門家だ。彼は慣れた手つきで、あっという間に薬を塗り終わった。「明日また病院に来たほうがいいです。もう一度薬を塗り直しますから。感染防止のため、8時間は水につけないようにしてくださいね」「......」篠崎暁斗はこの時、隣に止めてあった車の中にいた。助手席に座っている吉沢凛子は知らない男と車の中で一体何をしているのやら。その二人は長い間車から降りてこなかった。明日は篠崎暁斗の両親の命日だ。20年前彼の両親は交通事故で他界した。その時の犯人は未だ捕まっていない。だから、毎年この日になると、篠崎暁斗はとても不機嫌になるのだ。しかも彼はおじいさんのために、国際的にとても有名な医者に連絡し手術をする予定にしていたのに、あの婚前契約書がバレたせいで、どうしても治療を受けようとしないのだ。今夜、彼は冷静ではないと自分でも分かっていて、だからこそ彼女ともう一度ちゃんと話し合おうと思い、車の中で吉沢凛子が帰ってくるのを待っていたのだ。なのに、思いがけず、このシーンを目撃してしまった。夜遅くに飛び出していって、他の男を密会するとは。なるほど元カレが浮気するわけだ。それは
吉沢凛子の頬も涙で濡れていた。彼女は彼の傍に近寄り、両手で篠崎暁斗を包み込んだ。彼女はただ彼に温もりを伝えたかった。それが今の彼女に唯一できることだから。もしくは、互いの温もりを伝え合いたかったのだろう。実は、吉沢凛子は心の内で、どこか篠崎暁斗を羨ましいと思っていた。彼の両親は事故でいなくなったとはいえ、両親から愛されていたのだから。しかし、彼女は両親が誰なのかさえも知らない。小さい頃、彼女はお祝い事が一番嫌だった。他の子はみんな両親が傍にいて、新しい服やおもちゃを買ってもらい、誕生日パーティをしてもらっていたのに、彼女はただ家でおばあさんの手伝いをするしかなかったからだ。吉沢凛子は、この歳になるまで誕生日ケーキを一度も食べたことがなく、とても残念に思っていた。彼女が毎回ケーキ屋の前を通り過ぎる時、親が子供に誕生日ケーキを買ってあげているのを見て、その子供になりたいと切に願うくらいだった!もし来世があるというのなら、彼女は親から愛される子供に生まれ変わりたいと思った。誕生日にはケーキが食べられて、父親と母親が彼女のために誕生日の歌を歌ってくれる......その時、耳に台風警報が響き、吉沢凛子を現実に引き戻した。大きな波が次々と襲ってきて、船は一瞬で傾き、二人は船の中へと急いで戻った。慌てていたので吉沢凛子はうっかり躓いてしまい、傾いていたワインセラーに突っ込み、それが凛子のほうに倒れ掛かってきた。彼女の後ろにいた篠崎暁斗はそれを見ると、急いで走って行き、自分の体でワインセラーを支え、吉沢凛子を抱きかかえ横へ倒れ込んだ。ワインセラーは大きな音を立てて床に倒れた。彼のおかげで吉沢凛子はかすり傷一つできていなかった。船の揺れは少し穏やかになってきた。吉沢凛子は篠崎暁斗の懐の中から這い出してくると、暁斗が顔を青白くさせて目をきつく閉じ床に倒れているのに気がついた。唇の色も紫色になっていた。「篠崎さん、大丈夫ですか?びっくりさせないでください!」吉沢凛子は篠崎暁斗の頬を叩いたり、まぶたを引っ張ってみたり、鼻の下に手を当て呼吸を確認したりしてみた......しかし、何をしても反応はなかった。吉沢凛子は急いで人工呼吸を施した。篠崎暁斗は鼻をつままれて、口の中に甘さを帯びた新鮮な空気が入ってくるのを感じた。
この民宿は残り一部屋しかなく、二人が夫婦だと分かると、オーナーは親切に彼らを迎えた。部屋は少し質素で、篠崎暁斗はどうも落ち着かなかった。彼は今までこのような安っぽい部屋に泊まったことがなかったからだ。吉沢凛子は彼が嫌そうなのが分かり、オーナーにきれいなシーツと掛け布団カバーを借りてきた。全部、吉沢凛子一人で忙しくしていて、篠崎暁斗は傍らでそれを見ていた。決して彼が手伝わないのではなく、本当にこのような事をしたことがなく、どうすればいいのか分からなかっただけだ。吉沢凛子も特に気にしていなかった。おそらく今まで誰かの世話をするのに慣れてきていたからだろう。弟の吉沢蒼真にしろ林佑樹にしろ、至れり尽せりの世話をされてきて『自分で身の回りのことができない』ような人間になってしまった。部屋を片付け終わると、オーナーがカップラーメン二つと漬物を持ってやってきた。篠崎暁斗はこのジャンクフードを見て、一瞬で食欲がなくなってしまった。彼はソファの上に倒れこみ、携帯を取り出すと突然メールボックスにアメリカから誕生日のお祝いメッセージが届いた。彼の手がピクリと動いた。彼がメールボックスを開くと、見慣れた名前が目に飛び込んできた。藤井杏奈。「何を見ているんですか?」吉沢凛子は篠崎暁斗がぼうっとしているのを見て、お湯を入れたカップラーメンを持ってやってきた。篠崎暁斗はすぐにメールボックスを閉じた。そして「友達から誕生日メッセージが届いたんだ」と言った。「今日が誕生日なんです?」吉沢凛子はとても驚いた。彼女はそれから持っているカップラーメンを見て、誕生日にこんなものを食べるのは篠崎暁斗に申し訳ないと思った。突然彼女は何かを思いついたように、カップラーメンを置いて部屋を出て行った。外は暴雨となり、海風が轟々と呻き声をあげ、雷が鳴り稲妻が走った。雨はザーザーと窓ガラスを打ち付けていて、肝をつぶすほど恐ろしい光景だった。この時、雷が落ち、漁村の電線が雷に直撃して一瞬で辺りは漆黒の闇に包まれた。眠りに就いていた篠崎暁斗は、驚きのあまりぶるっと身震いしてソファから起き上がった。「吉沢さん、どこにいるんだ?」しばらく彼女を呼んでも返事はなく、篠崎暁斗は立ち上がって探しに行こうとした。この時、ドアが開いた。吉沢凛子は手作り