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第30話

吉沢凛子はすぐには体が動かず、突然腰を力強く抱きしめられ、大沢康介の胸の中に引き込まれた。

同時に、大沢康介は林佑樹の腕を掴んだ。手を捻られた林佑樹は痛くて叫び声を上げた。

そしてさらに、康介は膝裏に蹴りを入れ、林佑樹は土下座する形で額を床にぶつけた。

彼の流れるような動きは優雅で美しく、周りで見ていた観客たちは喝采を送った。

林佑樹の情けない姿に、榎本月香は怒りが爆発しそうだった。どうして吉沢凛子の周りにいる男たちはみんな優秀なのに、彼女が捕まえたのはこのようなクズなのか。

同じように怒りを爆発させていたのは群衆の中にいた相田紬だ。彼女は大沢康介が吉沢凛子を胸に抱きしめた瞬間、怒りが頂点に達していた。

彼女は長年大沢康介を追いかけていたのに、彼は指一本も彼女に触れたことはなかった。しかし、今他の女が彼の腕の中に抱かれているのだから、彼女は本当に狂ってしまいそうだった。

林佑樹は慌てて床から立ち上がると、榎本月香の姿はもうそこにはなかった。

大沢康介は吉沢凛子の手を引いてその場から離れ、オフィスに戻った。

大沢康介は彼女にコップ一杯の水を手渡した。

「またご迷惑をおかけしました」吉沢凛子は本当に申し訳なく思っていた。「さっきは本当に助かりました。ありがとうございます」

「あの男は彼氏なんですか?」大沢康介は尋ねた。

「元カレです」」吉沢凛子は林佑樹と別れて、篠崎暁斗とスピード結婚した経緯を話した。

「じゃあ、結婚したのは、その1000万の結納金のために?」大沢康介はどうしてそれよりも早く吉沢凛子に出会わなかったのかとても悔しく思った。

吉沢凛子は頷いた。

大沢孝介は吉沢凛子のおとなしい様子が亡くなった彼女の水野莉沙にとても似ていると思った。

彼はさらにドキドキしていた。

「もし私がもっと早くあなたと知り合っていれば、他の男なんかと結婚させたりしなかったのに」大沢康介はつぶやいた。

「今なんておっしゃいました?」吉沢凛子はさっきぼうっとしていて、よく聞いていなかった。

彼女はずっと林佑樹たちがどうして突然おばあさんのお見舞いに来たのかを考えていて、大沢康介の表情の変化に気づいていなかったのだ。

顔を上げた瞬間、大沢康介から送られてくる熱い目線とぶつかり、吉沢凛子は驚いて立ち上がった。

慌ててオフィスを出ると、おばあさんの病室か
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