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第4話

外の様子に気付いたらしく、部屋の中にいたおじいさんが話しかけてきた。「暁斗、帰ってきたのか?」

「はい、おじいさん、もう休みますか?」篠崎暁斗の態度はとても礼儀正しかった。

「まだだ、君達入って来なさい」

篠崎暁斗は部屋のドアを開け、二人で中に入っていった。

篠崎誠はソファに姿勢良く座っていて、篠崎暁斗と吉沢凛子が手を繋いで入って来たのを見ると、安心して満面の笑みになった。

篠崎暁斗に結婚相手を探させたのは、実際仕方のないことだったのだ。篠崎誠が腎臓癌の末期で、余命半年と宣告されたからだ。

彼はたった一人の孫息子が結婚して、彼に子供ができるのを生きているうちに見ておきたかった。これが彼のずっと思い続けてきた願いなのだ。

時間があまりにも切羽詰っていて、自分の孫に辛い思いをさせたのではないかと心配していたが、この時吉沢凛子本人に会って、写真で見るよりもずっと綺麗で、優しく、善良そうな人だと思い安心した。家庭円満、夫婦仲も良いものになるだろう。孫と一緒に立っているとまさに美男美女カップルだ。

しかし、篠崎誠は篠崎暁斗の元カノである藤井杏奈を思い出し、また心配になってきた。

彼が知る限り、篠崎暁斗は吉沢凛子のような大人しく内向的で、優しく控えめな女性は好みではないだろう。

篠崎暁斗は落ち着いた性格で、規則正しい人間だ。だから、彼は元カノの藤井杏奈のような活発な女の子が好みだった。彼女はポジティブで彼の生活に活力と喜びをもたらしてくれる。

篠崎暁斗が藤井杏奈とは正反対の吉沢凛子と結婚するのを承諾したのは、彼が自分の気持ちに全く興味を失い、自暴自棄になったからではないかと篠崎誠は思っていた。

これこそ篠崎誠が一番気がかりなことだった。

「あなたが吉沢お嬢さんですね?」篠崎誠はこちらに来るよう手招きをしていた。

吉沢凛子はおじいさんのところに行くと、礼儀正しく挨拶をした。「おじいさん、初めまして」

篠崎誠は1000万の小切手を取り出して吉沢凛子に渡した。「お嬢さん、これはおじいさんの気持ちです。あなた達がこれから先、お互いに尊重し愛し合って、末永く仲良く過ごすことを願っています」

吉沢凛子はおばあさんの命を繋ぐ小切手を受け取り、突然罪悪感を感じてしまった。

「ありがとうございます。おじいさん」篠崎暁斗は吉沢凛子に代わって感謝を述べた。

吉沢凛子はそれでさらに気まずくなり、急いで付け加えて言った。「どうもありがとうございます。おじいさん、私は暁斗さんと仲良くやっていきますから、安心してください」

篠崎誠は満足げに頷き、篠崎暁斗のほうを見た。

篠崎暁斗はおじいさんが彼女と同じように誓いを述べるのを期待していることが分かった。

でも、篠崎暁斗はもたもたして、なかなか口を開かなかった。

吉沢凛子が彼を見ると、ちょうど彼は葛藤し、必死にあがいているようだった。

しばらくして、篠崎暁斗はようやく口を開いた。「おじいさん、安心してください。私は吉沢さんに対してきちんと責任を持ちますから」

篠崎暁斗は『責任を持つ』という言葉を使い、それ以外の聞こえの良い言葉は吐き出さなかった。聞いていると、とても無理をして搾り出したような、何かに迫られて出したような言葉だった。しかし、どうであれ、篠崎暁斗から誓いの言葉をもらった篠崎誠は少し安心できたようだ。

それから、二人は彼らの部屋に戻った。

部屋の内装はシンプルなものだったが、上品だった。木材のキングサイズベッドに、バルコニーは明るく清潔で、主寝室にはウォークインクローゼットまである。

ベッドの布団は新しく、二人用の布団を新しく買い直してきたようで、包装はまだ開けられていない。

吉沢凛子は家具屋巡りをするのが好きだから、このブランドが安いものではないことを知っていた。セットで何万円もするものだ。

篠崎暁斗が普段使っているものは、こんなに贅沢なものばかりなのかな?

そう考えている時、篠崎暁斗が一枚の紙を手渡してきた。その上には『婚前契約書』と書かれてあった。

吉沢凛子はちょっと驚き、その契約書を受け取った。篠崎暁斗の意図がよく理解できない。

篠崎暁斗は吉沢凛子をベッドの上に座らせると、彼女に契約書に書かれた注意事項を指差して言った。

「今日、おじいさんが君に1000万の小切手を渡したでしょう。それとは別に君に貸す1000万を今週末前にカードに振込みます。

それと、もう一つ君に言っておきたいことがあるんですが、私の祖父は癌で余命半年なんです。この半年間おじいさんには楽しく過ごしてもらいたい。だからあなたには私に合わせてもらいたいんです」

吉沢凛子は篠崎暁斗が指差した項目を見た。そこにはこう書かれてあった。『二人は結婚期間中、関係を持たないこと。他人の前で、二人が夫婦として愛し合うふりをしている場合、体の接触は許される』

「それから、ここも」篠崎暁斗は最後の項目を指差した。『半年後、二人は離婚協議し、1000万の結納金は女性方への経済的補償として当てられる』

これは1000万で彼女を半年間買ったということ?

吉沢凛子は驚いた。

つまり、半年後、彼女はまた自由になれるということじゃないか。

吉沢凛子の隠しきれない喜びの顔を見て、篠崎暁斗は突然怒りが湧いてきた。

そして、彼は契約書にまた一文書き加えた。『離婚手続きの前に、女性方は必ず男性方に1000万の借金を返済すること。さもなければ、結婚は借金返済まで継続されることとする』

この人は彼女が借金を踏み倒すとでも思っているのか?

やることが本当に厳格だよね、なるほど、さすがはIT系男子ですこと。

「よく契約書を読んで、問題がなければサインしてください」篠崎暁斗は彼女にペンを渡した。

吉沢凛子は契約書に目を通した。重要な箇所はさっき篠崎暁斗から説明済だ。ざっと言ってみれば、結婚前と後の財産はそれぞれお互いに自分で所有する。

もともと出費は割り勘にするつもりだったが、契約書の中には結婚後の出費は全て男性が出し、女性の経済的な負担は必要はないと書いてあった。

吉沢凛子は快くサインした。

篠崎暁斗は明らかにホッと一息つき、契約書をしまった。

この時、相田おばさんが吉沢凛子のスーツケースを持って部屋に入ってきた。そして、おじいさんがさっき起き上がる時に、腰をひねってしまったので篠崎暁斗に見に行ってほしいと伝えた。

篠崎暁斗と吉沢凛子は急いでおじいさんの部屋へと向かった。

すると、篠崎誠は体の半分をソファに寄りかけて、動くにも動けない様子だった。

「おじいさん、どうしました?救急車を呼びましょうか」と篠崎暁斗は緊迫した様子で言った。

「ちょっと待ってください」吉沢凛子は、軽くおじいさんの腰のツボを数箇所押し、彼が少しだけ腰をひねって痛めているだけだと分かった。

「もう遅いですから、呼ぶ必要はないです。おじいさんのツボを押して、薬を塗ってあげれば明日の朝にはよくなっているはずですから」

篠崎暁斗は半信半疑だった。

しかし、おじいさんがどうしてもと言うので、吉沢凛子は薬剤オイルを取り出しておじいさんにマッサージをしてあげた。

一つ一つ、ツボを確実に押していき、おじいさんの腰の痛みはだいぶ緩和された。

篠崎暁斗はそれを見て少し安心した。

吉沢凛子がマッサージを終えると、おじいさんはすぐに動けるようになり、彼女の腕を褒めた。

篠崎誠はかなり喜んだ様子で、もはや黙っていられなかった。宝物を拾ったような気持ちだったのだ。

「吉沢お嬢さん、できるだけ早く暁斗と子供を作ってください。子供ができたら、おじいさんがこの家をまるごとあなたにプレゼントしますよ。どうですか?」

「ごほ、ごほ、ごほ......」この言葉で、部屋に戻ろうとしていた篠崎暁斗は危うく自分の唾にむせて死ぬところだった。

「おじいさん、子供のことは焦らないでください。今日は早めにお休みくださいね」

この家は今の不動産価格で200億以上するのだから、この誘惑は誰にとってもかなり大きい。

篠崎暁斗は頭が痛かった。

篠崎凛子はそれでも非常に淡々とした様子だった。結局半年後には離婚するのだから、彼女はこの家のために知らない人と子供を作るはずなどないのだ。

二人は再び部屋に戻り、篠崎暁斗はポケットから一枚のカード取り出して吉沢凛子に手渡した。

「これは給与が振込まれるカードです。持っていてください。今後、家庭内の出費は家政婦の相田さんの毎月18万の給料も含めて、このカードを使ってください......」

「あなたの家の家政婦さんのお給料はとても高くないですか」吉沢凛子はカードを受け取った。

「彼女はおばさんの紹介なんです。とても仕事ができるし、信頼できる人です」

「あの、今後の家のことは全て私が決めていいんですよね?」

「もちろん、でも重要なことは私と相談して決めてください」

「重要なことって例えば?」

篠崎暁斗は一瞬固まった。彼自身も何が重要なことなのか考えていなかったのだ。

「もう少し給料が安い家政婦さんに変えるのはそれに含まれます?」吉沢凛子は純粋にこの家政婦を雇うのは高いと思ったのだ。

「これは重要なこととは言えませんけど、18万の給料が高いですか?」

「あなたの給料の3分の1ですよね。高くないです?」吉沢凛子は不思議そうに篠崎暁斗を見つめた。二人の間の認識には大きな差があるようだ。

篠崎暁斗は眉をひそめた。彼のシャツは一枚18万どころではないのだと言いたかった。

「もし高いと思うなら、好きにしてくれて大丈夫です」篠崎暁斗はそう言うと、着替えの服を持って浴室へと入っていった。

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