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第11話

林佑樹がたぶん今、会社の一階にいるのだと予想し、吉沢凛子は急いで彼女の後を追っていった。

吉沢凛子が下まで降りると、やっぱり林佑樹と榎本月香が激しく口論している声が聞こえてきた。

「林佑樹!」吉沢凛子は彼のところへ向かっていった。

林佑樹は吉沢凛子を見ると、榎本月香の手を引いて脱兎の如くぱっと駆け出していった。

吉沢凛子は外に出て通りをいくつも探し回ったが、やはり見逃してしまった。

この時、篠崎暁斗から電話がかかってきて、彼女にすぐに帰ってくるように言った。

吉沢凛子はおじいさんに何かあったのかと思い、急いでタクシーを拾って篠崎家に帰った。

しかし家に着くと、どうも様子がおかしかった。

篠崎暁斗はソファに腰掛け、その表情は暗く沈みとても恐ろしかった。

「どうしましたか?何があったんですか?」吉沢凛子は尋ねた。

「吉沢凛子、君は俺と約束したよな?」篠崎暁斗の声は異常なまでに冷たかった。

「どの約束です?」

「婚前契約のことだよ。君はおじいさんには内緒にすると約束しただろう。でも、今おじいさんはそれは知っただけでなく、今後の治療まで拒否し出したんだ」

篠崎暁斗は吉沢凛子の婚前契約書を彼女の前にバンッと叩きつけた。「どういうことか、説明してもらおうか」

吉沢凛子は事態の深刻さを理解していたが、彼女は本当にどういうことなのか訳が分からない。

「おじいさんがこの契約書を見つけたんですか?」

「まだとぼける気か?」篠崎暁斗は立ち上がり、吉沢凛子を失望した眼差しで見つめた。「おじいさんが今朝新聞を読んでいる時に、その中にこの契約書が挟まっていたそうだ。それで相田さんに確認したところ、彼女は今朝、君がおじいさんにこの新聞を手渡したと教えてくれたぞ」

「そうです、新聞は私が届けました。でも契約書なんて私、中に入れていませんよ?」吉沢凛子は全くの誤解だと思った。「どうして私がこんなことをする必要があるんですか。もしかして相田さんの仕業じゃ?」

「もういい。俺たちの部屋は普段は鍵をかけているんだぞ、相田さんが入って来られるか?相田さんが入ったのだとしても彼女が君の分の契約書がどこにあるのか知ってる?それに彼女がこんなことするして何の得があるんだ?」

「じゃあ、私がこんなことをして、どんな得があるって言うんですか?」吉沢凛子も腹を立てていた。

「どう
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