第5話

兄からの電話はもうなかった。

そうだろう。

兄にとって、一通の電話は私への最後の忍耐だった。

初めて兄と激しく口論したときのことを思い出した。

彼の手には青筋が浮き、外の暗闇を指差し、手を伸ばせば五本の指も見えない場所を示していた。

「静香、出て行け」

「私はあんたの妹なんかじゃない」

私は涙をぬぐいながら、彼に叫んだ。

「あなたのような兄なんていらない！

伊藤悠介、私はあなたを憎んでいる」

彼は私の顔を平手打ちした。私の顔が熱く腫れてしまった。

私はドアを飛び出し、縮こまって外の道路で出てきた兄を待っていた。

夜風は冷たく、私は絹のパジャマだけを着ていた。

すぐに唇が紫色になり、震えが止まらなくなった。

最終的に気づいたのは、兄が私を探しに来ないことだった。

彼は一歩も外に出なかった。

その後、私は寒さに耐えられず、お金もなく、関係の良い同級生の家に行くことになった。

数晩、その同級生の家に泊まった。

そして、兄から電話がかかってきた。

彼がようやく私を心配してくれたのかと思い、期待して兄を待っていた。

初めて会ったとき、彼が私を抱きしめてくれると思っていた。

だが、予想に反して、彼は私を以前より強い平手打ちをした。

私は立ち上がれず、地面に倒れた。

顔を押さえ、涙を含んだ目で彼を見上げていた。彼は高い位置から私を見下ろし、嫌悪感を示していた。

「静香、また行方不明になるなら、二度と戻ってくるな。

もし父がいなければ、あなたを養う気なんてあると思うか？」