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第5話

優子は我に返り、峻介をじっと見つめた。瞳の色が心と同じように徐々に冷たくなっていった。

「あなたを高橋村から連れ出したことが、一番の後悔だ。お前は強姦犯の子供......やっぱりこの世で一番汚くて卑しい存在だ!だから森本家もあなたとは何の関係も持ちたくないんだ......」

峻介が言い終わる前に、突然頭に強い衝撃を受け、よろけて木の幹にぶつかった。

優子は顔の半分が血まみれになった状態で、峻介が立っていた場所に立ち、手に折れた半分のレンガを握りしめ、震えていた。

峻介も衝撃で呆然とし、優子を見つめた。熱い血が目に入り、右目が真っ赤になった。

悠斗と里美は浅い池の中で固まり、優子が峻介に手を出すとは思ってもみなかった。

優子は顔色を失い、冷静を装いながら半分のレンガを池に投げ込み、かすれた声で言った。「峻介、これでおあいこよ」

峻介の頭の中に、ぼんやりとした映像が浮かんだ......

夕日の光がオレンジ色に染まった校舎の裏で、清潔な制服を着た少女が顔を赤らめた彼を壁に押し付け、笑顔で「峻介、これでおあいこね!」と言った。

彼の心臓は激しく鼓動し、呼吸が荒くなり、鼻に漂ったのは少女の身体から漂ったガーデニアの香りだった。壁を這って咲き誇っていた蔓薔薇も少女の笑顔には敵わなかった。

峻介は胸を押さえた。頭を振ってその少女の姿をはっきり見ようとしたが、そのドキドキは映像と共に消えてしまった。

「峻介お兄ちゃん、大丈夫?」里美が尋ねた。

我に返った峻介が頭に手をやると血でいっぱいだった。彼は一言の悪態をつき、顔を上げて優子を見た。

「峻介さん!」里美はすぐに峻介に駆け寄り、彼を抱きしめた。彼が手を出すのを恐れていた。

悠斗もすぐに駆け寄り、優子の腕を引っ張って彼女を自分の後ろに隠した。

水に浸かったダウンジャケットは鉛のように重くなり、優子の体力も限界に達していた。先ほどの一撃で彼女は全力を使い果たし、悠斗に引っ張られて何歩も後退した。そして、ようやく大きな手で肩を強く押さえられ倒れずに済んだ。

彼女は振り返り、お礼の言葉が喉まで出かかったが、唇を動かすだけで声にはならなかった。

峻介も顔の半分が血で覆われていたが、困惑しながらも嫌々ながら年長者を「森本叔父さん」と呼んだ。

優子を支えていたのは、まだ三十歳になったばかりの男性だった。彼は眉をひそめ、金縁の眼鏡をかけ、端正な顔立ちをしていた。黒いコートの下には仕立ての良い鈍色のスーツを着ており、その姿はすらりとして堂々としていた。

彼は峻介よりもわずかに四歳年上でしかないが、その落ち着きと威厳は圧倒的で、峻介の若さとは対照的だった。

彼が優子と少し似ていることは一目瞭然だった。

森本進は優子の頭の傷を見て、唇を強く引き締めた。彼は片手で素早くネクタイを引き抜き、それを手のひらに巻き付け、彼女の傷口を押さえた。冷たい視線で峻介を一瞥し、彼女を抱えながら背を向けて「病院へ行くぞ」と冷たく言った。

アシスタントが急いで車のドアを開けた。

進が優子の傷口を押さえながら車に彼女を押し込んでいたのを見た。峻介は二歩追いかけた。「森本叔父さん!」

車に片足を掛けた進は顔を上げ、金縁の眼鏡の奥から冷たい視線を投げかけた。峻介は背筋が凍るかのように感じた。

優子と峻介は一緒に急診に入り、別々に傷の手当てを受けた。

ゴム手袋をはめて傷の処置をしようとしていた看護師は、優子の濡れた白いマフラーと白いダウンジャケットが血まみれになっていたのを見て言った。「まずはマフラーと濡れた上着を脱いでください」

優子は一瞬戸惑い、礼儀正しく尋ねた。「傷の処置に影響はありますか?」

「傷の処置に影響はありませんが、濡れた上着やマフラーを着たままでは不快でしょう?」看護師は処置用のカートを手元に引き寄せながら言った。「脱いでください」

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