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第100話

現在、常盤太郎の心の中で佐藤峻介は妻を捨てた最低な男だと映っていた。彼は本当はメッセージを見たくなかったがつい好奇心に負けて見てしまった。

佐藤峻介のメッセージの内容は、高橋優子の様子を尋ねたり、彼女が子供を中絶したかどうかを確認したりするものばかりだった。

「本当に道徳がないな!」常盤太郎は返事をせず、画面をロックして携帯をポケットにしまった。

常盤太郎は、二十年以上会っていないこの従兄弟に対して、人間性について強い不満を抱いた。

なんと、離婚したばかりの前妻に中絶を強要するなんて。

昼近く、高橋優子は森本進から電話を受けた。

「昼食は家に戻って食べるか、それとも家政婦に実験室まで持って来させるか?」森本進は尋ねる口調だが、その声には拒否できない響きがあった。

高橋優子は電話の向こうから森本進が書類をめくる音が聞こえ、忙しい合間を縫っても彼が昼食を気にかけていることに驚いた。

「アパートに戻って食べます」高橋優子は答えた。

彼女は少しも疑っていなかった。もし彼女が拒否すれば、森本進は確実に家政婦に実験室まで持って来させるだろうと。

白衣を脱いだ高橋優子は渡辺綾子に挨拶をして、アパートまで歩いて帰った。

彼女が到着したとき、家政婦はすでに帰っていて、テーブルには豊かな香りのする料理が並んでいたが、高橋優子にはあまり食欲がなかった。

テーブルに並べられた二つの食器に疑問を抱いていたところ、手を洗い終えた森本進が洗面所から出てきた。

彼はどうやら会社から直接戻ってきたようで、シャツやベスト、ネクタイがきちんと整っていた。

森本進は腰をかがめ、袖口のカフスボタンをサイドテーブルに置き、何気なく言った。「戻ったのか、さあ食事をしよう」

彼はネクタイを外し、シャツのボタンを二つ開け、食卓に向かい、高橋優子にスープをよそい、彼女に左側に座るよう促した。

高橋優子はそれに従い、座ると、骨ばった手がスープ碗を彼女の前に置いたのを見て、礼を言った。「ありがとう」

妊娠しているからか、食事中、彼女の右側に座っていた森本進は、彼女にとても気を使っていた。

知的で冷静な雰囲気を持つ男性が、彼女のスープ碗が空になりかけると、すぐに新しいスープをよそい、彼女の好みの料理を皿に盛るなど、過剰なほど細やかな気配りを見せた。

ただ、彼の左手が高橋優子の椅子の背に
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