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第92話

高橋優子は目を閉じてから再び開き、鬼本弁護士に向かって言った。「鬼本弁護士、ありがとうございます」

鬼本弁護士と一緒にカフェから出たところで、高橋優子は車の後部座席から降りてきた森本進を見つけ足をとめた。目には自然と涙が浮かぶ。

「森本総裁!」鬼本弁護士は森本進に挨拶した。

スーツ姿の森本進は普段かけている眼鏡をかけておらず、商人としての成熟した落ち着きが漂っていたが、その深くくぼんだ目元には疲れが滲んでいた。

「高橋優子、乗れ」森本進は高橋優子に車に乗るよう促した。

高橋優子は手をぎゅっと握りしめながら、森本教授から森本進と森本家の人々から距離を置くよう言われた言葉を思い出していた。

鬼本弁護士はその様子を察して、挨拶をして先に去った。

高橋優子は森本進を見つめ、最終的には階段を下りて彼と一緒に車に乗った。

話をはっきりさせる必要があった。

「これはどこに行くんですか?」

車内で、森本進は何も言わずにいたため、高橋優子は我慢できずに問いかけた。

「すぐ着く」森本進は答えた。

黒い車は光風市大学からそれほど遠くないマンションの前で止まった。

森本進は先に車から降り、駐車スペースを回って高橋優子のためにドアを開け、車の屋根を支えながら車内の高橋優子に向かって言った。「降りて」

高橋優子はその言葉に従い車を降り、指紋を入力してマンションのドアを開けた森本進と一緒に中に入り、エレベーターで最上階に直行した。

森本進は高橋優子のために靴箱から新しい女性用スリッパを取り出し、スーツの上着を脱いで靴を履き替えた。「先に座って、今お水を持ってくる」

高橋優子は手を伸ばして森本進の袖を引っ張った。「私は森本教授に会いました」

スーツの上着を握ったまま、森本進は振り返って高橋優子を見つめた。

「私は森本教授に、今後森本家の誰とも連絡を取らないと約束しました」高橋優子は目を伏せて森本進を直視できずに言った。「これまであなたにはたくさん助けていただき、とても感謝しています。でも、森本家のためにも、あなたのためにも、これからはもう連絡を取らない方がいいです」

森本進はじっと目の前の高橋優子を見つめ、しばらくしてから口を開いた。「子供のこと、どうするつもりだ?」

高橋優子は驚いて顔を上げた。

男の深い静かな目がただじっと彼女を見つめていた。

高橋優
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