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第12話

優子も峻介とここまでくるとは思っていなかった。

そして、ここまで来て、どうやらどちらも間違っていなかったようだ。

峻介が22歳の誕生日に言った第一の願いは、すぐにでも彼女と結婚届を出したいということだった。第二の願いは、26歳の誕生日を二人の子供と一緒に過ごしたいということ。第三の願いは、彼女と共に白髪になるまで生きたいということだった。

その願いのうち一つだけが実現した。

彼女はまだ市役所から出てきたときのことを覚えていた。峻介は結婚式が終わったら結婚証明書を燃やすと言っていのだ。彼らの間に離婚はなく、死別しかないと。

それは、2年間失われた記憶を持つ優子にとって、まるで昨日のことのようだった。

今、彼らが結婚届を提出した市役所の外で、白い離婚証を持っているのは本当に皮肉なことだった。

優子は手の甲で痛む目をこすり、離婚証と住民票をしまった。スマートフォンを取り出し、翌日の夜に光風市へ飛ぶためのチケットを予約しようとしたとき、黒い車が彼女の前に止まった。

後部座席の窓が下がり、進の冷たく鋭い顔立ちが見えた。

優子は周囲を見渡し、急いでスマートフォンの画面を消して車のそばに近づいた。腰をかがめて両手を車窓の縁にかけ、運転席の後ろに座っていた進に尋ねた。「どうしてここにいるんですか?」

「霧ヶ峰市の支社に行ってきたんだ」彼は優子に合図し、「乗りなさい」と言った。

アシスタント席にいた進のアシスタントがすでに車から降りていて、微笑みながら優子に挨拶し、彼女のためにドアを開けようとした。

しかし、優子は動かなかった。

彼女は進の端正な顔立ちを見つめ、慎重に口を開いた。「森本さん、これからは会ったときには知らないふりをしましょう。あなたはよくメディアに登場していますし、万が一記者に私と一緒にいるところを撮られたら、森本という苗字とメディアに出ている顔を見て、高橋家がきっと直歩をあなたと関わらせるでしょう。もしかしたらあなたを通じて森本家にも絡んでくるかもしれません」

彼女はもうすぐ到着するバスを一瞥し、さらにこう言った。「バスがもうすぐ来ますから、森本さん……」

「先に乗りなさい」進の声は落ち着いていて力強かった。

優子の指先が縮んだ。

バスがクラクションを鳴らして車を急かしていた。

しかし、進はまったく焦っていないようで、彼女と一緒にいることに耐えるつもりのようだった。彼はただ静かに彼女を見つめていた。

バスがクラクションを鳴らして到着する直前、優子はついに車のドアを開けて乗り込んだ。

車に乗り込むと、優子が運転手にどこで降ろしてもらいたいかを言う前に誰かが電話をかけ、進に仕事の話をしていた。

さらに、進の組んだ足の上にはまだ読まれていない書類が置かれていた。彼女はスマートフォンをマナーモードにし、できるだけ静かにして彼を邪魔しないように努めた。

しかし、彼女と峻介が離婚証を受け取ったというニュースはすでに広まっていて、LINEのメッセージが次々と届き、スマートフォンが絶えず振動していた。

電話を切った後、進はスーツのポケットからペンを取り出し、キャップを外しながら隣でスマートフォンをいじっている優子に尋ねた。「どうして病院にいないんだ?」

ちょうどスマートフォンの連絡先を一つ一つ削除していた優子は、頭を上げずに答えた。「明日、峻介が私に謝罪を公開するので、彼と離婚証を取りに来たんです」

進はペンを持つ手を止めた。

彼らは離婚したのか?

そんなに早いとは思わなかった。

初めて峻介と優子の小さな恋心を覗いたとき、彼は優子に峻介は友達としては適しているが、彼女の未来には不適切と言ったことを思い出した。

17歳の優子は髪をゆるくポニーテールにし、アイボリーのゆったりしたバットウィングスリーブのシャツと黒のスリムなジーンズを着ていた。小さな白いスニーカーを履き、競技会のチームから配られたバックパックを背負い、白くて清楚な顔立ちを上に向け、黒く輝く瞳で彼を見上げた。その姿は、まるで警戒心はあるが決して噛みつかないハリネズミのようで、素直で頑固だった。

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