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第18話

「大丈夫ですよ。あまり心配しないでください」一清は白衣の下に膨らんだお腹を抱え、彼女の顔と同じように温かい笑顔を浮かべていた。「松本さんは峻介にしっかり守られて足首の脱臼だけで済んでいますし、峻介も外傷だけです」

それを聞いて、優子はほっと息をついた。

里美と峻介が大きな怪我をしていないなら、静子もすぐに保釈されるはずだった。

「中村先生、急診の方から電話が入りました。診察に来てほしいとのことです」エレベーターから顔を出した看護師が急いでオフィスの前に立っていた一清に呼びかけた。

「一清さん、先に行ってください!」優子は道を譲るように身を引いた。

「わかったわ」一清は聴診器を白衣にしまいながら言った。「遅くなったから、帰る時は気をつけてね。家に着いたら、LINEで知らせて」

優子はうなずいた。

入院棟のビルを出て、彼女は薄暗い病院の庭に座った。

彼女は目を伏せてスマートフォンの画面を見つめ、その覚えきった番号を入力したが、迷って発信ボタンを押すことができなかった。

悠斗が言った通り、今の峻介は彼女と静子の関係を知らない。この電話をかけることで峻介に誤解されるのは避けられなかった。

しかし、説明しなければ、峻介が彼女と静子の関係を自分で調べた時に彼女が連絡を取らないことでさらに深い誤解を招くのではないかと考えた。

優子が迷っている時、長椅子の竹林の後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「この静子という女の人、昔は優子の養母だったって?」

彼女は振り向いた。

長椅子の背もたれの向こうの薄い竹林の小道には、影でタバコを吸っている峻介と里美の従兄の姿が見えた。

あの日彼女と峻介が薬を盛られた酒を飲んだ後、里美の従兄が人を連れて部屋に突入し、彼女の裸の写真を撮ったことを優子は覚えていた。

後に峻介が霧ヶ峰市立大学にその写真を貼り出した時、里美の従兄である荒井瑛介が撮った写真を使っていた。

「そうだよ。峻介、君は昔のことを覚えていないから知らないかもしれないけど、優子の母親は高橋村に人身売買されたんだ。この静子っていう女の人は昔、優子の母親と一緒に逃げ出してきたんだよ。優子の母親が出産時に大量の出血で亡くなった後、森本家は高橋という姓の人を非常に憎んでいた。森本家は優子を育てたくなかったんだけど、静子が2年間も優子を育てたんだ」

「その後、静子が重い病気になって優子を養えなくなった時、森本家も優子を受け入れなかった。それで優子は高橋家の人に連れ戻されて、偶然君が誘拐された時に救われたんだ。それから…優子は君にしがみついて霧ヶ峰市へ一緒に来たんだ」

峻介は木に寄りかかり、長い脚をだらしなく伸ばしていた。暗い瞳は深い淵のように陰鬱で、唇をきつく結び何も言わなかった。

「優子が植物人間だった2年間、この北田という女がずっと病院で世話をしてたんだよ。静子には子供ができないから、優子を実の娘のように思ってるんだ。だから、優子がこの静子を指示して僕の姉ちゃんを傷つけようとしたに違いない!峻介…優子がこの北田という女を助けようとしたら、絶対に許さないで。必ず僕の姉ちゃんの仇を討って!」

「どうやって仇を討つつもりなんだ?」峻介が聞いた。

「峻介、見てよ。優子が君に薬を盛って、ベッドに忍び込むことで姉ちゃんと君を別れさせようとした。大和、美咲、この兄妹は優子と一緒に育った幼馴染だ。優子が大和警察に通報する演技をして事件を取り下げたのは、彼らが後ろめたかったからだよ!この件のせいで姉ちゃんは一時国外に逃げようとしたんだ」

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