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第48話

「先生、霧ヶ峰市から連絡がありました。2時間前に優子さんの前の養母が佐藤を訪ねて事故に遭い、助からず亡くなったそうです」と高村アシスタントが報告した。

進の瞳孔が縮まり、電話を握りしめながら「わかった」と答えた。

電話を切った彼は椅子の背もたれにかけてあったジャケットを手に取り、着ながら言った。「用事があるので先に失礼します」

「尾崎家の三女とはしっかり接触しておけ」朝宏は脚を組んで椅子に寄りかかり、傍らの机に置かれた棋譜を手に取った。「森本家は遅かれ早かれ君の手に渡ることになる。尾崎家の娘が助けになるなら将来取締役会での地位も安定するだろう」

その言葉の裏には、朝宏が尾崎家の三女を非常に気に入っているという意味が含まれており、進が拒否することはできなかった。

彼はわかっていた。朝宏に優子を受け入れさせるには、まだまだ道のりが長かった。

彩花は朝宏の唯一の娘で彼にとって溺愛する存在だった。森本家の宝のような彩花は、高橋家で地獄のような苦しみを受け、精神が崩壊した。帰ってきた時にはすでに誰も認識できなくなり、何度も自殺未遂を繰り返した。

朝宏にとって高橋家の人間全てが仇であり、その中には彩花が生んだ二人の子供、優子と直步も含まれていた。

もし当初、優子が彩花を連れて高橋村から逃げ出していなければ、森本家も見て見ぬふりをし、進が優子を助けることを許可しなかっただろう。

「わかりました」進は朝宏に軽く頭を下げた。

ちょうど進が書斎のドアを開けて出ようとした時、朝宏がまた軽く口を開いた。「これまでどれだけ私が反対しても、君は自分が優子に対して負い目を感じていると思っている。自分が彼女の立場を奪ったと感じているからこそ、これまで彼女を助けることを阻止しなかった。しかし、もうそろそろいいだろう。今後、優子のことには関与しないように」

彼は振り返り、デスクライトに近寄って棋譜を眺めている朝宏を一瞥し黙って書斎を出た。

「進、もう行くの?」松沢初江は味噌汁を二杯持って書斎に入り、笑顔で言った。「じゃあ、味噌汁を持って行ってあげるわ。この頃桜峰市は乾燥しているから、味噌汁が体に一番いいものだよ」

「いいえ、大丈夫です。まだ用事がありますので」

初江は何か言おうとしたが、進は既に初江を回避して急ぎ足で階下へ向かった。

「何があったんだろう?そんなに急いで
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