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第15話

家に戻った矢野康也は、私のためにお葬式を行った。

お葬式では、私の両親が悲しみに暮れ、非道な婿に向かって「娘を返せ」と泣き叫んだ。

矢野康也は一切反抗せず、両親からの罵声や殴打を受け入れた。

全てが終わった後、彼は息子の持ち物をまとめ、両親の元へ送り届けると、大金を振り込んだ。

その後、消防署に退職手続きをしに行き、阿部龍志からあのトートバッグを手に入れた彼は、山口真里衣に会った。

山口真里衣は彼が心変わりしたと思い込み、派手に着飾って現れた。

しかし、会うや否や、矢野康也はためらいもなくナイフで彼女を数十回刺した。

倒れた山口真里衣は、死に際にも「なぜだ?」と執拗に問い続けた。

矢野康也はまるで大笑いでもするかのように、狂ったような笑みを浮かべた。

彼は身をかがめて、彼女の胸に刺さったナイフを引き抜き、山口真里衣の命を終わらせた。

飛び散った血が顔にかかると、彼はそれを嫌悪するように手で拭った。

そして、完全に彼女が息を引き取った後、ようやく彼女の問いにゆっくりと答えた。

「俺たちは夕理を殺した罪人だ。死んで詫びることが、俺が考え得る最も誠実な謝罪の方法だ」

矢野康也は人を殺したにもかかわらず、まったく動じることがなかった。

彼は山口真里衣の死体を海に投げ入れると、首にかけた赤い紐から、私が落とした指輪を取り出した。

「夕理、俺は後悔している。あの時、一時の迷いで俺たちの家庭を壊すべきじゃなかったし、君の愛を疑うべきじゃなかった」

矢野康也の涙は、堤を切たように溢れ出た。

塩辛い海風が吹きつける中、彼の手から指輪が海へと落ちていった。

彼は狂ったように深海へと進み、ついには海と共に永眠した。

死後の矢野康也は、幽霊となった私を目にした。

「夕理、やっぱり君は俺や豪くんを見捨てたりしなかったんだね」

彼は喜びすぎて涙を流しながら私に近づいてきた。

私は満開のヒガンバナが咲き乱れる黄泉路を見つめ、体が勝手に明るい方へと漂っていった。

その時、耳元で矢野康也の悲痛な叫び声が聞こえたような気がした。

しかし、私はもう振り返ることも、彼の改心を待つこともなかった。

(終わり)
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