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妻を救うために、俺は両目を失った

妻を救うために、俺は両目を失った

Par:  嶺月時彦Complété
Langue: Japanese
goodnovel4goodnovel
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彼女を守るため、爆発に巻き込まれた俺は視力を失った。 恩義を感じた彼女は俺との結婚を選んだが、俺の知らないところで新しい男を作っていた。 さらに、心臓病を抱える新しい男のそばにいるため、彼女は盲目の俺を一人で空港に向かわせ、事故が起きるまで放っておいた。 俺が拷問され、バラバラにされたあの夜、妻は自ら新しい男に心臓移植手術を施した。 その後、新しい男が拒絶反応を起こすと、彼女は集中治療室の外で一日一晩、ひたすら祈り続けた。

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第1話

爆発に巻き込まれたあの日、矢部友香を守るために俺は視力を失った。恩義を感じた彼女は俺との結婚を選んだが、知らないところで新しい男を作っていた。さらに心臓病を抱える新しい男のため、彼女は盲目の俺を一人で空港に向かわせ、事故が起きるまで放っておいた。俺が拷問され、バラバラにされたあの夜、友香は新しい男に心臓移植手術を施した。だが彼女は知らなかった。あの男に移植された心臓が、俺のものだということを。……俺が死んだ後、六年間光を失っていた目は魂となって再び光を取り戻した。そして俺は友香のそばを漂い、彼女の口から何度も聞かされた戸村大輔の姿を初めて目にした。彼は友香の患者であり、秘書でもある男だ。その時、彼は顔色も良く病室のベッドに腰掛け、笑みを浮かべながら友香が彼のためにリンゴを剥く姿を見つめていた。心臓病を抱えているとは到底思えないほどの顔色だ。突然、看護師が慌ただしく病室に駆け込んできて息を切らしながら言った。「矢部院長、戸村さんに適合する心臓が見つかりました!今、急いで病院に運ばれています!」その言葉を聞いた瞬間、友香のリンゴを剥いていた手が止まり、危うく指を切りそうになった。ほぼ同時に立ち上がり、興奮で瞳孔が無意識に大きく開いた彼女は急いで看護師に言った。「急いで手術の準備をして、私が執刀する」そして座り直すと、彼女は戸村の手をしっかりと握りしめ、目には隠しきれないほどの歓喜の色が滲んでいた。口元からは「よかった、よかった……」という言葉が何度もこぼれ落ちた。そんな二人の情に溢れた様子を見て、俺はきっと彼らを憎むべきなんだろうと思った。もしあの時、戸村が心臓の不調を訴えなければ、友香が俺を空港まで送るはずだった。暗い雨の夜に白杖を頼りに一人でタクシーを拾い、その車の中で俺は犯人に殺されることもなかった。そもそも俺の目は、爆発に巻き込まれた時、友香を守るために失ったものだ。目を治すため、俺は海外の病院で三年間を過ごした。その頃、戸村は静かに友香の人生に入り込んでいった。結婚して三年後、友香は戸村を自分の一番近くに置く秘書の座に就かせた。そしてよく電話一本で、盲目の俺を家に一人残して出かけていった。俺という夫と交わす言葉は、日に十句にも満たなかった。十句のうち八句は「病院...

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第1話
爆発に巻き込まれたあの日、矢部友香を守るために俺は視力を失った。恩義を感じた彼女は俺との結婚を選んだが、知らないところで新しい男を作っていた。さらに心臓病を抱える新しい男のため、彼女は盲目の俺を一人で空港に向かわせ、事故が起きるまで放っておいた。俺が拷問され、バラバラにされたあの夜、友香は新しい男に心臓移植手術を施した。だが彼女は知らなかった。あの男に移植された心臓が、俺のものだということを。……俺が死んだ後、六年間光を失っていた目は魂となって再び光を取り戻した。そして俺は友香のそばを漂い、彼女の口から何度も聞かされた戸村大輔の姿を初めて目にした。彼は友香の患者であり、秘書でもある男だ。その時、彼は顔色も良く病室のベッドに腰掛け、笑みを浮かべながら友香が彼のためにリンゴを剥く姿を見つめていた。心臓病を抱えているとは到底思えないほどの顔色だ。突然、看護師が慌ただしく病室に駆け込んできて息を切らしながら言った。「矢部院長、戸村さんに適合する心臓が見つかりました!今、急いで病院に運ばれています!」その言葉を聞いた瞬間、友香のリンゴを剥いていた手が止まり、危うく指を切りそうになった。ほぼ同時に立ち上がり、興奮で瞳孔が無意識に大きく開いた彼女は急いで看護師に言った。「急いで手術の準備をして、私が執刀する」そして座り直すと、彼女は戸村の手をしっかりと握りしめ、目には隠しきれないほどの歓喜の色が滲んでいた。口元からは「よかった、よかった……」という言葉が何度もこぼれ落ちた。そんな二人の情に溢れた様子を見て、俺はきっと彼らを憎むべきなんだろうと思った。もしあの時、戸村が心臓の不調を訴えなければ、友香が俺を空港まで送るはずだった。暗い雨の夜に白杖を頼りに一人でタクシーを拾い、その車の中で俺は犯人に殺されることもなかった。そもそも俺の目は、爆発に巻き込まれた時、友香を守るために失ったものだ。目を治すため、俺は海外の病院で三年間を過ごした。その頃、戸村は静かに友香の人生に入り込んでいった。結婚して三年後、友香は戸村を自分の一番近くに置く秘書の座に就かせた。そしてよく電話一本で、盲目の俺を家に一人残して出かけていった。俺という夫と交わす言葉は、日に十句にも満たなかった。十句のうち八句は「病院
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第2話
戸村の容体が少し回復し、友香が家に戻ってきた時、俺が死んでから三日が経っていた。家は三日間人が住んでいなかっただけなのに、薄っすらと埃に覆われていた。友香は咳き込みながら手を振って目の前の埃を払った。そして、テーブルに目をやると、俺が出かける前に置いた離婚届が目に入った。実は、事故の前に俺と友香は一度喧嘩をしていた。その時、友香はシャワーを浴びていて、戸村は彼女に連絡が取れず、俺のところに電話をかけてきた。彼が俺に言った言葉は、まるで挑発だった。「友香ちゃんと連絡が取れないんだ。そっちにいる?伝えてくれよ、心臓の調子が悪くて彼女に会いたいって」「ああ、それから僕の名前は戸村大輔だ。知ってるだろう?」俺は携帯を強く握りしめ、相手の口調から得意げな表情がありありと浮かんだ。俺は怒りを押さえつけ、冷たい口調で言い返した。「あんまり伝える気はないな。それに、友香はもうお前の主治医じゃないんだ、自分で病院に行けばいいだろ?」その言葉を聞いたのは、ちょうどシャワーを終えて出てきた友香だった。彼女は慌てて俺の携帯を奪い取り、穏やかな声で相手をなだめた後、着替えて出かける準備をする音が聞こえた。
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第3話
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第5話
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第6話
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第7話
だが、俺の搭乗記録が表示された瞬間、友香の口元に浮かんでいた笑みは完全に消えた。友香は眉をひそめ、ページを閉じては再検索する動作を繰り返し始めた。だが、何度検索し直しても、画面に表示されるのは「乗客未搭乗」の文字だけだった。信じられないという混乱のせいか、友香の顔色は徐々に青ざめていった。母が不安そうに尋ねた。「友香さん、どうしたんだ?」友香はスマホを凝視し、呆然と呟いた。「そんなはずない……真一が未搭乗だなんて」「何?真一が飛行機に乗っていないだって?」その言葉に母さんは息を飲み、動揺しながら尋ねた。「出国していないなら、この間一体どこに行ったんだ?どうして連絡がつかないんだ?」「友香さん、何かの間違いだろ。あの日、空港まで送ったのはあんただろう?乗っていないはずがないじゃないか」この問いに友香は答えられなかった。あの日、俺が本当に空港へ行ったのかどうかすら彼女にはわからなかったからだ。だから友香はただひたすら俺に電話をかけ続けた。だが、その電話が繋がることは永遠になかった。隣にいた戸村が友香の肩に軽く触れ、なだめるように言った。「友香ちゃん、落ち着いて。慌てないで」その手がまるで導火線に火をつけたようだった。友香は勢いよく振り向き、戸村を強く押し返して叫んだ。「触らないで!」その激しい反応に、周りにいた人々はもちろん、俺ですら驚いてしまった。我に返った友香は、荒い息を吐きながら顔を背け、戸村を見ようとはしなかった。ただ、ドアを指差しながら言った。「出てって。今はあなたの顔なんか見たくない」戸村が出ていくと、友香の体は抑えきれないほど震え始めた。俺の両親を前に、友香はあの日、戸村のために俺を盲目のまま置き去りにしたことをどう説明すべきか迷っているようだった。結局、彼女はうなだれて小さな声で言った。「お父さん、お母さん、ごめんなさい……あの日、彼を一人で空港に行かせました」それはつまり、俺が搭乗しなかったのが事実であり、この半月、行方不明になっていたことも事実だと両親に伝えることだった。その一言が、二人は一気に打ちのめされた。母は衝撃を受けた顔のまま、雷に打たれたかのように動けずにいた。一方の父さんは胸を押さえながら、震える手を伸ばして言った。「急げ!早く!警察を呼べ!」
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俺の失踪を知ってからというもの、友香はずっと朦朧とした日々を過ごしていた。盲目の俺が国内で行方不明になって半月、警察に通報したものの、未だに何の手がかりも見つからない。俺がすでに手遅れである可能性が高いことくらい馬鹿でも分かることだろう。それでも友香は毎朝のように警察署の前で待ち続け、何度も俺の行方を尋ねていた。その日も何の手がかりも得られず、友香は魂が抜けたように家へと戻った。遠くからでも、俺の家の前に広がる花の海が目に入った。何日も沈んでいた顔に生気が戻り、友香の目には喜びの光が宿る。彼女は足早に花の方へと駆け寄った。だが、花の海の中央にいるのが戸村だと気づいた瞬間、その光は一気に消え失せた。友香は眉をひそめ、遠慮なく言い放った。「何してるの?」戸村は答えず、唐突に片膝をついて友香の前に跪くと、背後からネックレスを取り出し、しんみりとした声で言った。「友香ちゃん、この前ここで怒らせてしまったから、そのお詫びと……告白だ」白いスーツ姿の戸村は、手にしたネックレスが指輪にでもなれば、まるでプロポーズのように見えた。彼はそのネックレスを友香の前に差し出し、「友香ちゃん、僕にチャンスをくれないか?」と続けた。その言葉は、友香の一発の平手打ちで遮られた。友香は彼を鋭く睨みつけ、氷のような冷たい目を向けた。「戸村大輔、真一が行方不明だって分かってて、よく告白なんてしに来られるわね。頭おかしいの?」「自分の胸に聞いてみなよ。本当にあの日、心臓が痛かった?嘘ついて私を騙してなければ、真一が失踪なんてするはずないでしょ!」「今更、よくそんなこと言えるわね!」興奮した友香は、跪く戸村を突き飛ばし、辺りに広がる花々を乱暴に踏み散らかした。「誰がこんなもの飾れって言ったの?あなたは私の何なの?出て行って、今すぐ!」地面に倒れ込んだ戸村は信じられないという顔で見つめ、目には陰りが広がっていく。手に持ったネックレスの箱は、強く握り締められ歪んでいた。友香がひとしきり怒りをぶつけた後、戸村は拳を固く握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。「友香ちゃん、今日のこと、きっと後悔するぞ!」戸村は自分の胸を指差し、一言ずつ区切るように言った。「君が探しているものは、ここにある」「勘違いしないで、私が探してるのは
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