クラックコア

クラックコア

last updateLast Updated : 2025-01-28
By:   百舌巌  Updated just now
Language: Japanese
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Synopsis

アクション

現代

三人称

不良

転生

ディミトリは三十五歳。傭兵を生業としている彼は世界中の戦場から戦場へと渡り歩いていた。 彼の記憶の最後に在るのはシリアだ。ヨーロッパへの麻薬配給源である生産工場を襲撃したまでは作戦通りだが撤収に失敗してしまった。 仲間の一人が敵に通じていたのだ。ディミトリは工場の爆発に巻き込まれてしまった。 ディミトリが再び目が覚めるとニホンと言う国に居た。しかも、ガリヒョロの中学生の身体の中にだ。街の不良たちに絡まれたり、老人相手の詐欺野郎たちを駆逐したり、元の身体に戻りたいディミトリの闘いが始まる。

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第001-1話 とある傭兵の憂鬱

 平日の昼頃。「う…… ううう~…………」 ディミトリ・ゴヴァノフは手酷い頭痛で目が覚めた。 彼は今年で三十五歳になる。傭兵を生業とするロシア出身の男だった。 もちろん、軍隊での戦闘経験は豊富で、退役する時には特殊部隊にも所属していた。 最後の作戦で戦闘ヘリコプターをお釈迦にしてしまい除隊させられてしまった。 学歴もなく手にこれといった技術を持たなかったディミトリは、仲間に誘われて傭兵に成ったのだ。 それについては別に不満は無かった。彼は戦闘行動が無類に好きだったのだ。 上官が学士学校上がりのガチガチ芋頭から、諜報学校上がりのピーマン頭に変わるだけだからだ。(馴染みの酒場で出された、安っすい酒の二日酔いより酷いな……) 頭の側でグワングワンと鐘を鳴らされているような頭痛の鼓動が迫ってくる。 身体が強烈に重くなるのも一緒だった。何とか動かそうとするも一ミリも動いた気がしない。(うぅぅぅ…… ここはどこだ?) ディミトリは眩しそうに目を開けた。眩しいのは自分の頭上にある蛍光灯のせいのようだ。 だが、視界が定まらないのかグルグルと部屋が回っているような感覚に襲われている。 ディミトリは目を瞑った。(1・2・3・4……) 目眩がする時には、目をつぶって深呼吸しながら数字をカウントするのが有効だと兵学校で教わった。 これは砲弾が近くに着弾した時に目眩に襲われやすいからだ。 戦闘時の目眩は爆風や爆圧で頭を揺さぶられてしまうので発生してしまう。そこで軍は初期教練で対象方法を教えている。 自分の少なくない経験でも知っていることなので冷静に対処法を実践してみた。 何回か目をシバシバと瞬きしていると、落ち着いて部屋の中を見ることが出来るようになった。(……………… 病院!?) 白を基調とした飾りっ気の無い部屋。消毒液の匂い。まあ、病院なのだろうと納得したようだ。(六人部屋だけどオレ一人だけか……) ディミトリがベッドの中でモゾモゾしていると、病室の中に入ってきた看護師がひどく驚いていた。 そして、彼女は慌てて部屋を出ていった。しばらくすると医師と他の看護師を連れて部屋に入ってきた。(ずいぶんと顔が平ったい黄色い連中だな……) 彼らを初めて見たときの印象だった。 ディミトリはロシアのクリミヤ生まれだ。 自分が生まれた街には白人...

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第001-1話 とある傭兵の憂鬱
 平日の昼頃。「う…… ううう~…………」 ディミトリ・ゴヴァノフは手酷い頭痛で目が覚めた。 彼は今年で三十五歳になる。傭兵を生業とするロシア出身の男だった。 もちろん、軍隊での戦闘経験は豊富で、退役する時には特殊部隊にも所属していた。 最後の作戦で戦闘ヘリコプターをお釈迦にしてしまい除隊させられてしまった。 学歴もなく手にこれといった技術を持たなかったディミトリは、仲間に誘われて傭兵に成ったのだ。 それについては別に不満は無かった。彼は戦闘行動が無類に好きだったのだ。 上官が学士学校上がりのガチガチ芋頭から、諜報学校上がりのピーマン頭に変わるだけだからだ。(馴染みの酒場で出された、安っすい酒の二日酔いより酷いな……) 頭の側でグワングワンと鐘を鳴らされているような頭痛の鼓動が迫ってくる。 身体が強烈に重くなるのも一緒だった。何とか動かそうとするも一ミリも動いた気がしない。(うぅぅぅ…… ここはどこだ?) ディミトリは眩しそうに目を開けた。眩しいのは自分の頭上にある蛍光灯のせいのようだ。 だが、視界が定まらないのかグルグルと部屋が回っているような感覚に襲われている。 ディミトリは目を瞑った。(1・2・3・4……) 目眩がする時には、目をつぶって深呼吸しながら数字をカウントするのが有効だと兵学校で教わった。 これは砲弾が近くに着弾した時に目眩に襲われやすいからだ。 戦闘時の目眩は爆風や爆圧で頭を揺さぶられてしまうので発生してしまう。そこで軍は初期教練で対象方法を教えている。 自分の少なくない経験でも知っていることなので冷静に対処法を実践してみた。 何回か目をシバシバと瞬きしていると、落ち着いて部屋の中を見ることが出来るようになった。(……………… 病院!?) 白を基調とした飾りっ気の無い部屋。消毒液の匂い。まあ、病院なのだろうと納得したようだ。(六人部屋だけどオレ一人だけか……) ディミトリがベッドの中でモゾモゾしていると、病室の中に入ってきた看護師がひどく驚いていた。 そして、彼女は慌てて部屋を出ていった。しばらくすると医師と他の看護師を連れて部屋に入ってきた。(ずいぶんと顔が平ったい黄色い連中だな……) 彼らを初めて見たときの印象だった。 ディミトリはロシアのクリミヤ生まれだ。 自分が生まれた街には白人
last updateLast Updated : 2024-12-25
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第001-2話 無数にある工場
「…………!」「!」「……!」「!!?」 医師の一団は何かを必死に話しかけているらしいが耳に入って来ない。まだ耳鳴りが酷いのだ。 わーんと唸っていて耳が何の音も拾わないからだ。もっとも聞こえたとしても言葉が分かるとも思えない。 そこでディミトリは耳を指さして頭を振った。 分からないと言ったつもりだったが、医者たちは筆記で何かを尋ねてこようとしていた。(やれやれ…… 仕事熱心だな……) 見せられても意味が分からない。象形文字は線で構成された幾何学模様にしか見えない。彼は首を横に振って目を背けた。 するとディミトリの目が制服を着た人物を見つけた。部屋の入り口の所に居る。(あれは…… 警備員か?) 彼に気がついたディミトリは直ぐに視線を外し、顔を向けずに目の端で観察する事にした。警備員というのは自分を見つめる人物は怪しいと決めつける職業だ。これは警官にも言えることだ。 それを無視して見ていた結果は、大概ややこしい事態になるのは経験済みだ。 自分が警備員や警察官に好かれないのはよく知っているつもりだった。(違うな腰に拳銃を装備してる…… 軍警か警備兵だな……) 腰の所の膨らみを見て、拳銃を携帯していると考えたようだ。 すると他の事にも気がついた。(ん? もうひとり…… 二人いるのか……) 部屋の入り口の外にも、もうひとり居るのを彼は見逃さなかった。(くそっ! 中国軍の捕虜になっちまったか……) ディミトリにとっては、東洋人イコール中国人である。多くの白人は中国人と日本人の区別は付かないのだから仕方がない。 そして、少なくない経験から自分は捕虜になっていて、現在は警備兵の監視下にあると思い至ったようだ。(随分と厳重な監視じゃないか……) ディミトリは厄介な事になったなと溜息が出そうになった。 だが、同時に疑問も湧いてきた。(……なんで、俺は中国軍に捕まっているんだ?) 自分が襲った麻薬工場はイラクマフィアの工場だったはずだ。作戦計画書にそう書いてあった。 そこはアフガニスタンで収穫されたケシをアヘンに精製する工場だ。 アフガニスタンでは米軍に見つかって爆撃されてしまう。なので、遠路はるばるシリアまで持ち込んで作っているのだ。 工場で作られたアヘンはヨーロッパやロシアに配給されるていると聞いた。 各国が躍起になって
last updateLast Updated : 2024-12-25
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第001-3話 脱出方法
(でも、ターバン巻いたヒゲモジャ連中しか居なかったよな……) 工場には中東の連中ばかりだった気がする。もっとも、自分が見聞きした範囲内での考えだ。 何か裏取引が関わって居る気がしないでも無い。最近の中国は政治的な影響力を拡大させたいのか世界中の紛争に首を突っ込んでいる。(生き残りが俺しか居なかったのか?) だが、単なる戦闘員である自分に価値が有るとは思えなかった。 製品には薬剤を掛けて最終処分し、生産設備は破壊するという簡単なお仕事だったのだ。 もちろん、お宝もタップリ有ると話は聞いていた。当日はチェチェンマフィアが取引に来ていたのだ。(頭痛が酷くなりそうだな……) 彼は政治的な話には興味が無かった。 引き金を引くのに政治は関係ないし、銃弾は政治を選んで当たったり外れたりしないからだ。(このクソッタレな世の中で唯一の平等をもたらす物だからな……) そう考えてフフフッと笑ってみた。彼は刹那的な生き方をする方だ。自分の人生について達観している部分もある。 日常的に人の生き死にに接しているからなのだろう。 ディミトリは自分の頭を擦ろうと腕を伸ばすと管だらけなのに気がついた。(何だっ! これはっ!!) 自分の手を見て驚いた。まるで老人のように細くなっているのだ。 そして、そこに無数の管やら電線が繋がれている。(丸でマリオネットだな……) 自分の身体が異様に重く感じるのは、食事をとっていないせいなのだろうと考えた。(これじゃ、近接戦闘は無理っぽいな…… 逆に制圧されてしまう……) 子供の頃から空手を習っていた事もあり、格闘戦は彼の得意分野のひとつでもあった。 ところが、目の前にある自分の手は枯れ枝に指が生えているような感じなのだ。 これでは相手をぶん殴っても逆に折れてしまいそうだった。(随分と長い事入院していた様子だな…… まあ、爆発に巻き込まれれば無理ないか) 入院していると痩せてしまうのはよく聞く話だ。ましてや大怪我をして動けないとなると筋肉がみるみる内に無くなっていく。 何しろ食事をしっかり取れないことが多く、ほとんどが点滴で栄養を流し込んでいるだけなのだ。 ディミトリも戦友を見舞いに行くことが多いが、連中が退院した後に苦労するのが体力の回復なのだ。(爆弾の爆風をモロに受けたからな……) 自分も体力の回復にどのく
last updateLast Updated : 2024-12-25
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第002-1話 脱出開始
 目が覚めてから数日たった。 医者は相変わらずやってくるが何も喋ろうとしないディミトリに手を焼いてるようだった。 繋がれていた管は殆ど取り払われたが監視は付けられたままだった。 それでも部屋の中を彷徨くぐらいには回復していた。(まずは現状を把握せねば……) 特殊部隊に居た事もあるディミトリは観察し分析するのも得意な分野だ。 部屋の外を観察した結果。自分が居る病室は二階で有るらしい。 そして、住宅街の真ん中に病院は位置しているらしい事は分かった。(まず、ここを脱出しないと……) 脱出するためにはいくつかの問題点がある。 まず、自分が今着ているのは病院のパジャマだ。脱出して外を彷徨くには着替える必要がある。 民家が近いのなら洗濯物が干されているだろうから途中で拝借すれば解決するだろう。(かっぱらいなんてガキの頃以来だな……) そう思ってディミトリは苦笑してしまった。裕福な家庭の出身では無い彼は、貧民街と呼ばれる街で育った。 正直な者が損をする仕組みが根付いている街だ。当然、彼はそんな街が大嫌いだった。 大人になって正規兵・特殊部隊・用心棒・傭兵と、戦う職業を転々と渡り歩いたのも偶然ではない。 強さこそが自分の証明なのだと、その街で叩き込まれたのだ。 後は道中に必要な金銭をどうするのかとか、移動手段に必要な車をどうやって調達するかだ。 何より、今どこに居るのかが分からないのも問題だ。(まあ、細かいことは良い……) 些か、行き当たりばったりな計画だが、まずは行動を起こすことが肝心だと自分に言い聞かせた。(まず、優先すべきポイントはここを脱出する事だ) 自分が目を覚ました事が軍の上層部に知られるのは時間の問題だろう。 そうなれば自白させるために拷問が待っている。 それだけはまっぴらごめんだとディミトリは思っていた。 ふと、見るとベッドの脇に小さな小机みたいのがある。普通そこには着替えなどが入っているものだ。 ディミトリは何気無く開けてみた。すると、そこには自分用と思われる着替えが収まっていた。(よしっ! これに着替えれば何とか脱出出来るかも知れない……) 嬉しくなったディミトリは早速広げて見た。だが、すぐに意気消沈してしまった。 小さすぎるのだ。自分の戦闘服が入っているかも期待してただけにガッカリしたのだ。(いや…
last updateLast Updated : 2024-12-25
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第002-2話 金髪突進
 彼は人通りの多い大きい道路では無く、並行して繋がっているらしい住宅街の道路を歩いていく。 病院を抜ける時に人混みに紛れる必要はあったが、今はなるべく人目に付かないようした方が得策だ。 そう考えて住宅街をヒョコヒョコ歩いていた。まだ、上手く歩けないのだ。 そして、路地を曲がった所で地べたに座り込んでるニ人組が目に付いた。この手の連中は大概厄介だ。 金髪の男とヒョロヒョロの長髪の男。二人共に顔にピアスをしている。 ディミトリはチラッと見ただけで無視して通り過ぎようとしていた。「おい、お前っ!」「ちょっと待てよ……」 二人組が何やら言い出してきた。しかし、ディミトリは気にもかけない。ニ人組を無視して歩き続けた。「ガン付けてシカトこいてるんじゃねぇよ」「待てってんだろっ!」 なんだか意味不明な単語を並べながら二人共向かってきた。ディミトリィは揉め事は避けたかった。 そして、路地を曲がると走り出した。「待ちやがれっ!」 路地の入口を不良の一人が叫びながら曲がってくるのが見えた。(待て言われて待つ奴がいるかいっ!) ディミトリはそんな事を考えながら不自由な足を懸命に動かしていた。 身体が悲鳴を上げているのは分かっているが何とも出来ないでいる。ここで捕まる訳にはいかない。 だが、ディミトリは立ち止まってしまった。 奇妙なことに気がついたのだ。(あれ? なんで連中の言葉理解できるんだ??) ディミトリはロシア語を始めに欧州系の言語は読み書き出来る。だが、アジア系の言葉は馴染みが無い。 彼が知っているのは中国人くらいだからだ。(中国語なんて聞いたことも無いぞ?) そんな事を考えている内に金髪の男たちが追いついてしまった。「くっそチョロチョロ逃げやがってっ!」 そう言いながら先頭の男がディミトリの胸ぐらを左手掴み、右手で殴りかかろうと振りかぶった。 しかし、ディミトリはすんでの所で躱した。(ああ…… コイツ…… 戦闘経験が無いんだな……) ディミトリは躱しながら、そんな事をボンヤリと考えた。 彼の少なくない戦闘経験で胸ぐらを掴むなどやらないからだ。そんな手間かけずに殴ったほうが早い。 そして、金髪の腕が伸び切った所で腕を引っ張ってあげた。金髪の彼はそのまま勢いを付けて転んでしまった。 少し拍子抜けしてしまった。 彼は
last updateLast Updated : 2024-12-25
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第002-3話 ガリヒョロ
(なんだコイツラは……) ディミトリは、今まで相手にしてきた狂犬のような不良たちとの違いにうろたえてしまっている。  だが、面倒な人種に思えてきたので、さっさと逃げだそうかと思った時に声が掛けられてきた。「お前たちっ! 何してるっ!!」 そう怒鳴りながら警察官たちが近づいてきた。どうやら喧嘩をしていると通報されていたらしい。  警察官たちは傍に来てディミトリと不良二人とに引き離した。 喧嘩の様子を双方に聞いていたが、二人組は一方的に殴られたと主張している。  しかし、喧嘩の様子を見ていた警官は、金髪がディミトリの周りでコロコロと転がっていただけなのを見ていた。  結果、不良たちは厳重注意されていた。  だが、自分をジロジロと見る警察官はどこかに無線連絡している。それからディミトリに尋ねてきた。「君は大川病院から勝手に外出した人だね?」 「……」 ディミトリは何も答えなかった。周りを警官に囲まれているし、何か迂闊なことを言えば自分が不利になる思ったからだ。「保護依頼が出ているから一緒に来たまえ」 「……」 警察官はそう言うとディミトリをパトカーに載せた。彼も大人しく従っている。  何故かと言うと警官たちは警棒すら手にしなかったからだ。  自分の今までの常識では、警官は拳銃を構えて相手を制圧するのが常だったのだ。 最悪の場合は近接戦闘戦になると覚悟していたが拍子抜けしてしまった。  もっとも、今の状態でディミトリが包囲網を脱出できるとは思っていないのは事実だ。  だから、大人しく言うことに従っていたのだ。 不思議な事に手錠を掛けられる事無く警察署に連れて行かれた。(なんだ?) 脱走した捕虜の扱いは大抵酷い目に会わされるものだ。そうしないと、再び脱走を企てるからだ。  四、五人で取り囲んで袋叩きにする。自分もされたことが有るしやったこともあった。  だが、彼らはそうはしない。(く、国によってやり方が違うものなのか?) ディミトリは益々混乱してしまった。 警察署に到着すると先程の警察官が、トイレを指さして言ってきた。「取り敢えずは顔を洗って来なさい……」 ディミトリはトイレの洗面所に入っていく。汗と血痕でひどい格好になっているらしかった。  洗面台の蛇口を捻ると綺麗な水が出てくるのに軽く驚いた。  シリアの基地
last updateLast Updated : 2025-01-07
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第003-1話 問診
元の病室。 どうやら自分が今いる場所はダマスカス(シリアの首都)では無いとディミトリは理解したようだ。 ビルが立ち並んでいるのが見えていたので、勝手にそう思い込んでいただけだった。 そして中国でもない。もっと東にある日本という国なのだと知った。(違いが分からん…… で、どこだ?) ディミトリには中国も日本も新聞の記事でしか見たことが無い。なので、地理的なイメージが湧かないらしい。 だが、場所などはまだまだ些細な事だ。 彼はもっと深刻な問題を抱えている最中だった。(なんで、見知らぬ小僧の身体になっているのか……) にわかに信じがたい状態にあるのだ。 目が覚めたら自分が他人になっている。こんな話は聞いたことが無い。 しかも、困った事に自分は違う人間だと証明しようが無い事だった。 すっかり取り乱したディミトリは警察署のトイレで大声で騒ぎ出したようだ。 それを警察官たちはなだめるのに大変だったらしい。 やがて、興奮のあまり気を失ってしまったディミトリは病院に戻されてしまっていた。「じゃあ、君が覚えていることを教えてくれるかな?」 鏑木医師がディミトリに尋ねた。彼は入院した時からの担当医だ。 警察署での様子を付添の警察官から聞いた医師は心配事が増えたようだった。 しかし、具体性の無い質問を言われても分からない。「ナルト……」「?」 ディミトリは日本で知っている唯一の単語を口にしていた。 日本のアニメ好きの同僚が口にしていたものだ。 彼は忍者に憧れていたので武器の一種なのだろうと推測していた。「ナルト? ラーメンに入ってるヤツ?」「え?」 今度はディミトリが混乱してしまった。(ラーメンってなんだ?) 意味不明な単語に戸惑ってしまった。だが、ディミトリの腹が『ぐぅ~』と鳴るので食い物関連かも知れないと考えた。「ああ、アニメの方のナルトね……」「!」 ディミトリの戸惑った表情で、違う方の『ナルト』だと気がついた医師はアニメだと思ったらしい。 医師もアニメは知っているらしかった。きっと有名なのだろう。 その様子にディミトリは頷き返した。「アニメは好きなのかな?」「どうでしょう…… あまり覚えていません……」「ふむ……」 医師はカルテに何かを書き込んで質問を続けた。「自分の名前は?」「……」 まさか『ディ
last updateLast Updated : 2025-01-07
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第003-2話 苦悩の始まり
「……」 もっとも、ディミトリにしても自分が置かれている状況が掴めていない。  そんな状況で下手な受け答えをして言質を取られてしまうと、後々拙い事になるのは良くある話だ。  沈黙が状況の改善をしてくれるのを彼は願った。 これが軍関係の尋問であるのなら簡単だ。自分の所属する軍と名前だけを答えていれば良い。  もっとも、尋問官は拳で語りかけることが多いので、無事で済んだ事の方が皆無だった。「記憶障害かもしれないな……」 医師は何も答えようとしないディミトリに匙を投げた。  取り敢えず、様子見と称して薬を与えて経過を見るに留めるしかないと判断したようだった。  医師は傍らにいる看護師に手で合図した。すると看護師は。「今、君の保護者がいらっしゃるからちょっと待っててね……」 そう言って看護師はニッコリと笑った。怪我をしてなければバーで一杯奢りたくなる笑顔だ。  しかし、ここは病院で自分は未成年の立場だ。見た目が小僧では相手にもして貰えないだろう。  彼女を口説くことが出来ないのを残念に思っていた。 ディミトリが警察署のトイレで、大声を上げながら騒いだので保護者が呼ばれたらしい。 看護師に案内されて一人の老婆が診察室に入って来た。 その老婆はディミトリも知っていた。よく病室に来ていたからだ。  来るたびに部屋の片付けや掃除をしてゆくので、病室の掃除の担当だと思いこんでいたぐらいだ。  医者の話では自分の祖母にあたるらしい。道理で愛想が良かったはずだ。「家族をいっぺんに失われて記憶障害が出ているようです……」 人間は辛いことが大きすぎると心を護るために、記憶を封印してしまう事があるのだそうだ。  ディミトリに出ている症状はそうなのだろうと医師は判断したらしかった。  医師は入ってきてディミトリの隣に腰掛けた老婆にそう告げていた。  老婆はウンウンと頷いている。彼女からすれば可愛い孫が無事だったら何でも良かったのかも知れない。 そして、事故の経緯や術後の経過観察などが説明されていく。  どうやらディミトリが入り込んでる少年の家族は、交通事故で全員が死んでしまっているらしい。  少年だけが重症だが助かったようなのだ。  どうりで目覚めた時に管だらけだったはずだ。(しかし…… 何故、こうなった……) 少年が病院にいた原因は分
last updateLast Updated : 2025-01-07
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第004-1話 入れ替え
タダヤス祖母宅。 色々と驚愕させられることの多い毎日だが、もっと驚愕することがあった。 何気なく見た新聞の日付がそれだ。 なんと工場を襲撃した時から数年経っているのだ。(色々と覚えることが多すぎて日にちまで気が回らなかったぜ……) 何となく季節が違うなとは思っていたが、爆発で重症を負ったので長期入院なのだと思いこんでいた。 まさか、何年も経過しているとは思っていなかったのだ。(次は何にビックリすれば良いんだ……) ディミトリは朝方はランニングをするようにしている。これは彼が傭兵だった時からやっていた事だ。 基礎的な体力を付けるにはランニングが一番だからだ。 それに考えに没頭できる所も気に入っている。(脳がどうやって移植されたのかを調べる必要があるな……) ランニングから帰宅したディミトリは早速洗面所に向かった。 ディミトリは脳が丸ごと移植されたと考えている。「…………」 洗面所で自分の頭をジッと見つめている。 脳を移植された傷跡を探しているのだ。きっと手術跡などが有るはずなのだ。 ディミトリは戦闘で怪我をする事が多かったので、体中が手術跡だらけだったのを思い出していた。「うーーーーん……」 手鏡をアチコチかざしてみたが、手術跡など何処にもなかった。 普通に考えて頭蓋骨を切り開かないと脳は入れ替えが出来ないはずだ。しかし、頭をいくら見てもそんな跡は無い。(んーーーー…… どうやったんだ?) 日本は科学技術だけでは無くて、医療技術も発展しているのだろう。だから、跡の残らない手術が可能だったのかも知れない。 自分が日本に居るのはそういう意味なのかと取り敢えずは納得させた。(取り敢えずは中に入れることが出来るのだから元に戻す方法も有るはずだ……) ディミトリは元の自分に戻る方法を考えることにした。 普通なら若返ったと喜びそうだが、知らない他人の身体では気味が悪い方が勝っている。 それに、こんな枯れ枝に手足を付けたような、貧弱な身体は気に入らなかったのだ。 強さこそ己の証明みたいな所のある傭兵あがりには弱いと思われるのが嫌なのであろう。(原因も理由も分からなければ、いつ消えても不思議じゃないからな……) 確かにいつ自分が消えてしまうのかを考えると恐怖で狂いそうだ。(何とかしないと……) そんな事を考えていると、
last updateLast Updated : 2025-01-08
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第004-2話 化学反応
 ふと、ディミトリは有ることを思いついた。「子供の頃の写真が有ったら見せてください……」「はいはい、一杯撮ってあるわよ~」 ディミトリがそう言うと、祖母はいそいそと嬉しそうに写真を取り出してきてアレコレ説明を始めた。 医者の話では記憶障害となっているので、その解決の糸口にでもなればと考えているようだ。「この時はね……」 彼女は大量の写真が収められたアルバムを持ってきて並べ始めた。 タダヤスが子供の頃の写真。何とも可愛らしい子供の写真だ。「これが小学校の入学式の時に撮ったのよ……」 親子三人で撮影された写真。タダヤスを間に挟んでニコニコと笑っている一家の写真だった。 どうやらタダヤス一家は三人家族だったらしい。「これが運動会で…… これは学校発表会で……」 運動会や学芸会という謎の行事。これは生徒の家族を呼んで見せる催しらしい。 彼女は次々と写真を示して、事細かく説明していく。 だが、何も思い出せない。「保護者会の時に……」(何だか普通の子供の写真だな……) 自分が持っている子供の頃の記憶は、クラスメートと喧嘩した事ぐらいしか思い出せない。 ディミトリの親は子供に関心が無いので、写真など存在していなかった。 学校にも家庭にも良い思い出などなかったからだ。「この時は学校で怪我をしちゃって大騒ぎだったわ……」(タダヤスの記憶の欠片でも残ってても良さそうなんだがな……) 自分が急に日本語を理解できるようになったのは、タダヤスの記憶が蘇りつつあるせいではないかと推測していた。 そうで無ければ、目覚めて数日で聞いたこともない言語が理解出来るとは思えないからだ。 しかし、タダヤスの両親の写真を見せられても、何も思い出すことは無い。「この時に貴方のお父さんが昇進してね……」(記憶が上手く繋がらないのだろうか?) 記憶は連鎖反応のような物だと聞いたことがある。 学習というのは、それを効率的に引き出すことが出来るようにする訓練なのだ。 まあ、訓練が上手なやつと苦手なやつが居るが、ディミトリは後者の方だった。「それから学校で飼育されてたうさぎが死んじゃってね……」(まあ、中学時代に習った科学の先生が言っていた事だがな) そういえば、あの先生は無神論者だと公言していたのも思い出した。 何故かディミトリは嫌われていて、良く呼
last updateLast Updated : 2025-01-08
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