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第29話

迷薬の効果が一気に高まり、携帯電話が手から滑り落ちた。優子は痛みで意識を保とうと自分の足を掴み、携帯を掴んだまま力を込めた。

しかし、痛みは燃え上がる欲望を抑えきれなかった。

彼女は歯を食いしばり、呻き声を上げた。

「君はまだ僕に一つ願いを返す義務がある。これが最後の願いだ。他の人に君を送らせること」

峻介の言葉がぼんやりした頭の中で何度も響いた。

彼女の全身は汗でびっしょりになり、自分をぎゅっと抱きしめた。体の苦しさからなのか、心の痛みからなのか、涙が途切れることなく流れた。

熱い……

彼女の体内でマグマが煮えたぎっている。

冷たい水がほしい!

そう、冷たい水が……

峻介に会う前、ホテルに頼んでバスタブに氷を入れた冷水を準備していた。

前回と同じようにこれを乗り越えれば大丈夫だった。

彼女は壁を支えにして無理やり立ち上がり、ふらふらしながら氷が浮かぶバスタブに身を投げ込んだ。

外では進が電話越しでかすかに水の音を聞き取り、携帯を握りしめながらほとんど変形させそうになった。そして電話を切り、アシスタントに言った。「ホテルのマネージャーに鍵を開けさせろ。君は車をホテルの正面玄関に回して」

アシスタントは頷き、一歩離れて電話をかけた。

すぐにマネージャーがスタッフを連れて到着し、カードキーでドアを開けた。

進は振り返って険しい表情の瑛介を一瞥した。金縁眼鏡越しの目は氷のように冷たく恐ろしかった。「こいつを警察に引き渡せ」

「森本社長!森本社長。僕は佐藤の義弟です!今日は僕のせいじゃありません!僕も命令に従っただけなんです!峻介は三階の個室で食事中です。僕たちは一緒に来たんです!信じられなければ……」

「こいつを峻介のところに連れて行け。峻介にこの件について説明を求めると伝えてくれ」

進は苛立ちながら言い、ドアを開けて浴室に向かった。

羽織っていたダウンコートを着たまま優子は氷水に浸かり、濡れた髪をバスタブの縁に垂らしていた。大理石の床には、彼女が浴槽に倒れ込んだ際に飛び散った水と氷が散らばっていた。

薬の効果なのか、それとも冷たさからなのかは分からないが、彼女の白い関節はバスタブの縁を強く掴んで震えていた。

進は手早くコートとスーツを脱ぎ、寒さで骨が染みる水から彼女を引き上げた。

氷のように冷たい水が優子のダウンコートを通し
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