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第27話

「ホテルの道くらい覚えているわ」優子は瑛介の手から逃れようとした。

「高橋さん、遠慮しなくてもいいですよ!」瑛介はほとんど優子を連れ去るように抱え、エレベーターの方へ歩いて行った。

薬が効くにつれ、優子の頭はますますぼんやりし、脚にも力が入らなくなっていた。

彼女は必死に抵抗したが、瑛介の太い腕から逃れることはできなかった。「放して!」

エレベーター前で、数人が優子と瑛介の方をちらりと見た。

瑛介は全身の力が抜けた優子をしっかりと抱き、あたかも彼女を甘やかすような態度で言った。「お酒が弱いって言っていたのに無理するから…さあ、部屋に戻って休もう」

そう言うと、瑛介は周囲の人々に謝るように笑いかけた。片手でエレベーターのボタンを押しながら、優子の耳元でささやいた。「峻介兄さんの成人式での最後の願いは、君を送って帰ることだよ!どうだ…君は後悔してるのか?」

優子の視線はもう焦点が合わなくなっていたが、彼女は瑛介が押したのがエレベーターの上昇ボタンで、下降ボタンではないことをはっきりと見て取った。

悠斗はまだ現れていなかった…

峻介と瑛介が彼女に薬を飲ませたように、悠斗にも薬を盛った可能性があった。

彼女は推測した。同じように薬を盛られた悠斗が上の階のどこかの部屋にいるのではないかと。

峻介の最後の願いは、彼女が彼の望むように行動することだった。

だが、なぜそれが悠斗でなければならないのか?

「大人しくして、もう騒がないで。酔ってるんだから、まずは部屋に戻って休もう」瑛介は半ば無理やり彼女をエレベーターに押し込み、57階のボタンを押した。

立っているのもやっとの優子は、ポケットの中のカードキーをしっかり握った。万が一に備えて予約した部屋がちょうど…57階にあった。

「まだ君は僕に一つの願いを残している。これが最後の願いだ。他の人に君を送らせるんだ」

峻介の言葉が頭の中で響いた。優子はカードキーを握りしめながら、サボテンを掴んでいるかのような痛みを感じた。

反抗する意志が内側から崩れ始めていた。

これが峻介に対する最後の願いの償いだ。

錯覚かもしれないが、虚無感と自暴自棄の思いが十数年ぶりに彼女の脳を支配した瞬間、彼女は朦朧とした意識の中で長身の進がエレベーターの前を通り過ぎたのを見た気がした。

進!

彼女は急に気を取り直した。

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