第4話

松井詩はキッチンでしばらく過ごした後、足がもたなくなりかけていた。このバカ麻生恭弥、どれだけ飢えていたのか、彼女に直接厳しく迫ってきたせいで、今や彼女の太ももは震えていた。思わず彼女は「バカ」を言ってしまった。

彼女は自分が木にぶつかるウサギのように感じ、自分自身を麻生恭弥の食卓に送り込んでしまったのだと気づいた。「同じ家族でないと同じ家には入れない」とは言うが、麻生恭弥は偽善者で、片瀬響人は本物の小人、兄弟の一人もろくなものではない。

彼女は今、体中が麻生恭弥の唾液でベタベタしていて、不快感を覚えた。彼女は思い切ってキッチンのドアを押し開け、浴室に向かうことにした。

リビングにいる二人は、彼女の動きに驚いた。

麻生恭弥は言った。「これは絶対に怒っているね」

片瀬響人は続けた。「もしかしたら怒っているのはお前かもしれない」

麻生恭弥は微笑みを浮かべた。「おお？」

「やっと帰ってきたのに、君が急に来るとは」

麻生恭弥は言った。「じゃあ、俺が帰るか？」

「いや、せっかく来たんだから、昼ご飯を奢るよ」

松井詩は浴槽でゆったりとお風呂に入り、全身がほぐれて心地よくなり、うとうとと眠りかけていた。

ドンドン——

突然、浴室のドアがノックされた。彼女はびっくりして目を覚ました。「誰？」

「まだ誰だと思う？」と片瀬響人は言った。「俺と表哥は外で飯を食うけど、一緒に行くか？」

「行かない」

「本当に行かないのか？」

「中田葵を連れて行け」

彼女は今、誰とも話したくなかった。

どれくらいお風呂に浸かっていたかわからないが、水が少し冷たく感じ始めるまで、彼女はゆっくりと目を覚ました。

まぶたを閉じてしばらく休んでいると、やっと体力が少し回復した。しかし、まだ眠い。

あくびをしながら出ていくと、目の前の人に驚いた。

彼女は急いでタオルをしっかりと押さえ、浴室に飛び込んでドアを強く閉めた。「まだ行かないの？」

「待ってるよ」と麻生恭弥は言った。「朝ご飯を食べていないし、昨夜は体力を消耗したから、食べないと低血糖になる」

松井詩は眉をひそめた。「私は出前を頼んだ」

「出前はおいしくない」

「じゃあ、私が自分で作る」

麻生恭弥は笑った。「本当に料理する力が残っていると思う？」

松井詩はイライラして言った。「あなたは......」

「恭弥、見つけたよ」片瀬響人は主寝室から出てきて言った。「なんで結婚証明書を見たいの？」

麻生恭弥は浴室のドアに寄りかかって松井詩と話していたが、片瀬響人が来ると、その表情は少し冷たくなり、姿勢も正した。

「協定を作るために必要だから？登録日を確認したい」

「日付は教えればいいじゃない」

「覚えている？」

「詩ちゃんの誕生日」

麻生恭弥は結婚証明書を手に取り、ちらっと見た後、再び微笑んだが、今回は少し冷たさを含んでいた。「君たちはもう結婚して五年になるんだ」

「うん、離婚に何か影響があるのか？」

彼の指は二人の写真を撫でていた。24歳の松井詩はシンプルなポニーテールをしていて、顔は少し丸みを帯びていて、目がキラキラしていた。

唯一の欠点は、頭が少し片瀬響人の方に傾いていたこと。見ていてまぶしかった。

麻生恭弥は結婚証明書をパチンと閉じて返し、「結婚期間が短ければ、お金を部分的に返還申請できる」と言った。

片瀬響人は笑いながら、「俺たちは恋愛を始めてから君がずっと見てきたんだから、結婚してどれくらい経つか、君よりも誰が知っているっていうんだ。証明書を見る必要があるか？」

麻生恭弥は言った。「間違えないように、確認するだけだ」

片瀬響人は頷きながら、イライラして浴室の中にいる松井詩に促した。「まだ洗ってないのか？こっちはもう二時間も待っているんだ」

「待ちたいなら、待ってて」

麻生恭弥は再びドアを叩いた。「いつまで浴室にいるつもりだ？」

松井詩は深く息を吸った。自分の体についている青あざを見て、外のオスカー俳優を噛み殺したい気分だった。

「出て待っててください」

麻生恭弥は笑い、「いいよ、出るから、急がなくていいよ」と言った。

彼は片瀬響人の肩を叩いて、「行こう、リビングに行こう」と言った。

松井詩は小走りで部屋に戻り、シンプルなTシャツとジーンズに着替え、髪を半乾きに整えてそのまま外に出た。

片瀬響人は眉をひそめた。「その服、まだ捨ててないの？」

その服は大学時代に着ていたもので、シンプルで質素だが、柔らかくて快適だった。以前は片瀬の地位に合わせて、いつも化粧をし、きちんとした服装をしていたが、今は手を抜いているので、もちろん楽な服を着ることにした。

「あなたも捨ててないじゃない？」松井詩は言った。「あなたの方がこの服よりずっと古いよ」

片瀬響人はあまりいい顔をしなかった。「好きにすれば、行こう」

「帰ったら髪を乾かしてから出てきて。」麻生恭弥は眉をひそめて言った。「外は風が強いから」