高校二年生の白川穂香は、ある日、目覚めるとなぜか現実世界がゲームになっていた。 この世界から脱出できるたった一つの方法は、学園内のイケメンから告白されること。 自称幼なじみのサポートキャラ高橋レンと、この世界から脱出するために恋人のふりをすることになったが、なぜか他のイケメン達ともどんどん仲がよくなっていき、彼らの秘密が明らかに。 陰陽師!? 異世界を救った勇者!? ホラーゲームの主人公!? 彼らの協力を得て、穂香はこの世界の謎を解き明かし脱出を試みる。
View More呆れた表情を浮かべたレンは、「また突拍子もないことを……」とつぶやく。「そうかな?」夢の中のレンは『監視されている』と言っていた。だから、穂香達の会話はどうしてもあやふやな表現になってしまう。もどかしさを感じながら、穂香は思考を巡らせた。(レンは『未来の科学者』って言ってたよね。この若さで人類を救うためのプロジェクトに参加しているって、確実に特別で優秀な人だと思う)そんな彼を最高に幸せにして、究極の幸福状態にすれば、人類の滅亡を防ぐ手立てを見つけられるかもしれない。「レン。私達、これからは、もっと積極的に仲よくなろう」人類を救うために。穂香の意図が伝わったのか、レンは小さくうなづいた。「これでもし、私が恋愛相手じゃなかったら、本気で怒りますからね? で? 仲良くって具体的には何をするんですか?」「あ、えーと、じゃあ手でも繋いでみる?」穂香が右手を差し出すと、レンは眉間にシワを寄せながらためらった。「どうして、そんなに嫌そうなの?」レンは指でメガネを押し上げる。「知っていますか? この時代の人の手には、皮膚1平方センチメートルあたり39,000~4,600,000個もの細菌がいると言われていて……」「えいっ」穂香がレンの手を握ると、レンは「うっ」とうめいた。「えっ? 別に痛くはないよね?」コクリとうなずいたレンの顔は少し赤い。予想外の反応に穂香は、首をかしげた。「レンって、もしかして、私と一緒で恋愛経験がゼロだとか、そんなことは……」「……そうですよ、ないですよ。何か文句ありますか?」「そんなにイケメンなのに!?」意外過ぎて驚く穂香に、レンがジトッとした目を向ける。「仕方ないでしょう。他人に興味が持てないんですから」「で、でも、サポートキャラなのに、恋愛経験ゼロとか、どうやって私をサポートするつもりだったの?」「それは……それなりに頑張っていたんですよ」ムスッとしているレンを見て、急に身近に感じられた。「なんだ、私達って似ている部分もあるんだね」咳払いをしたレンに、「で? 次はどうするんですか?」と尋ねられる。「そんなにたくさん思いつかないよ。今日はこれくらいでいいんじゃない?」穂香がパッとレンの手を離すと、レンは繋いでいた手のひらをジッと見つめる。「レン、気持ち悪いなら手を洗ってくる? あ、そういえば、さ
(私に何か特別な才能があるなんて、思ってもみなかった)レンの言葉の続きを待つ穂香に、期待と不安が入り混じる。「【あなたが選んだパートナーを、最高に幸せにできる】という才能だったのです」「……え? なんかパッとしないね?」「そうですか? あなたに選ばれた未来の旦那様は、幸せすぎてうっかりオーパーツを作ってしまうくらいですからね。究極の幸福状態と言えるでしょう」究極の幸福状態と言われても、穂香にはよく分からない。「これは、あなたがもし、政治家を志している人と結婚すれば、夫が幸せすぎてうっかり世界征服をしてしまう……そんなレベルの才能です」「え、ええー……私の能力って、幸せにするだけでしょう? 幸せなだけで、そんなことができるのかなぁ?」「結論から言うとできます。ただ、幸せな気分でいるだけで、人はなんでも出来てしまうし、何にでもなれてしまうのです」「ふーん。だったら、仮想空間とか、恋愛ゲームとか、こんなめんどくさいことをせずに、私とその人を会わないようにすれば済むんじゃないの?」レンは、ため息をついた。「もちろん、そうしました。しかし、あなたが他のパートナーを選ぶと、やはり、世界に何かしらの大きな影響が出てくるんです。……先ほどの例え話のように」「もしかして、さっきの『政治家が世界征服する』って話は……」「様々な検証の過程で実際に起こりました」「う、うわー……」ドン引きしている穂香から、レンは視線をそらした。「正直に言いますが、あなたを抹殺するという案もありました」穂香の背筋に冷たいものが走る。「でも、それは不可能でした。なので、私を含めた未来人達が、あなたに危害を加えることはありません」「それは、どうして?」「なぜなら、あなたがこの世界から消えると、人類の幸福度が2%下がるのです」「たったの2%?」「2%も、です。ちなみに、そこら辺の人を無差別に1000人くらい消しても、幸福度の数値は少しも変わりませんからね? ようするに、あなたがいなくなったら、地球の2%がなくなると思ってください。事の重大さが分かりましたか?」「は、はぁ……な、なんとなく」正直にいうと、話が壮大すぎて付いていけていなかったが、穂香は『とりあえず最後まで聞こう』と思った。「そういうわけで、私達はあなたを生かしたまま、人類の滅亡を阻止するため、適切なパ
「私、レンを信じる」出会ったばかりでレンのことは何も知らない。それでも、怖がらせないために今まで一緒にいてくれた人のことを、穂香は信じようと思った。大きく目を見開いたレンの頬が赤くなっている。今度は気のせいではない。「まったく、あなたという人は……」その声はあきれているというより、どこか嬉しそうだった。「レンの話の続きを聞きたいけど、ここでは、何も話せないんだよね?」「そうです」「夢の中なら……?」「大丈夫です」「じゃあ、今から寝よう!」急いで家に戻ると、穂香は自室でおまじないの準備を始める。枕の下におまじないの紙を入れる穂香を見ながら、レンがため息をついた。「いや、あなた、今起きたばかりですよね? 寝れるはずがないでしょう?」「そうだけど、レンの話の続きが気になりすぎて! とりあえず、寝るだけ寝てみようよ。不思議な力で寝れるかもしれないし」穂香はベッドに潜り込むと、レンの腕を引っ張った。「はい、レンも寝る!」「ちょっと、何を!? まさか一緒のベッドで寝るつもりですか!?」「床で寝たら風邪ひくよ? いいからいいから」穂香はレンの両目を手のひらで覆うと、自身もそっと目を閉じた。*気がつけば、穂香は教室に立っていた。「やった! ほら、来れたよ、レン!」不機嫌そうなレンは、頬だけでなく耳まで赤い。いつものように夢の中では、メガネをかけていない。「……なんなんですか、あなたは……。いくら幼なじみ設定でも、一緒のベッドで寝るなんてありえないでしょうが!」「何怒ってるの? 今はそれどころじゃないでしょう? 早く続きを話してよ」咳払いをしたレンは、気持ちを切り替えたようだ。「そうですね、今はそれどころではありませんでした」「そうだよ! それで私のせいで、人類が滅亡するってどういうことなの?」「正確には、あなたのせいではありません。ただきっかけを作ってしまうだけです。あなたは、このまま普通に生きていくと、大学でとある男性に出会い、結婚する予定でした」穂香は、急に未来の旦那様の話をされて戸惑った。「そ、そうなんだ」「その男性は、のちに画期的で、便利な発明をします。詳しくは言えないのですが……。そうですね、この時代の物で例えるならば、パソコンやスマートフォンといったような、誰にでも簡単に使えて、生活にかかせないようなものです
「……は?」穂香のまぬけな声を無視して、レンは「ああ、言えた……やはり、そうか……」とつぶやく。「現実の私は、常に監視されていて、自分や未来にかかわることをあなたに伝えられない状態だったのです。言おうとすると、一時停止がかかり、内容を修正されます」「は、え?」レンの表情は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。「今、私達が閉じ込められているこの世界は、現実世界に恋愛ゲーム要素を被せてつくられたもので、現実に影響を及ぼすことができる高度な仮想空間です」ぽかんと口を開けている穂香をよそに、レンは説明を続ける。「あなたは、この仮想空間で選ばれた相手から必ず告白されないといけません」「ど、どうして?」レンの話を聞いていると、穂香達が恋愛ゲームに紛れ込んでしまったのではなく、まるで穂香のためにその仮想空間が作られたように聞こえる。「それは穂香さんがこのままでは、人類滅亡のきっかけを作ってしまうからです」レンの話がぶっ飛びすぎていて、穂香はもう何も言えなかった。「私が住んでいる時代――あなたからすると遥か遠い未来の世界は、あと数百年ほどで、人類が滅亡します」「いや、ちょっと待って……」レンは教室の壁にかかっている時計を見ると「もう目覚める時間のようですね。思っていたより短いな」とため息をついた。「穂香さん」レンの緑色の瞳がまっすぐ穂香を見つめている。「私を信じることができますか?」*聞きなれた目覚まし時計の音で、穂香は目が覚めた。【10月9日(土)朝自室】夢の中でレンがとんでもないことを言っていたような気がする。(私が原因で、人類が滅亡する……とか、なんとか?)意味が分からないので、今すぐレンを質問攻めにしたいところだが、レンは監視されていて夢の中以外では、真実を話せないと言っていた。「とりあえず、学校に」いつもなら、ベッドから下りたら風景が変わり通学路を歩いているのに変わらない。(あっそっか、今日は土曜日だから学校がないんだ)部屋の中にいても仕方がないので、穂香は私服に着替えて玄関に向かった。姿が見えない母の声が聞こえる。「今日は早起きね。どこかに行くの?」「ちょっとレンに会ってくる」家から出た穂香は、隣のレンの家ではなく、別の方向に歩き出した。(頭が混乱しているから、レンに会う前に整理しないと。まず、
【同日 朝/体育館裏】通学路を歩いていたのだから教室に着くと思っていた穂香は、目の前に現れた文字を見て目を見開いた。「あれ? どうして体育館裏に飛ばされたの?」その問いに応えるように、レンがポケットから折りたたんだ紙を取り出す。「おまじないを完成させろということでは?」「あっ、そうか。おまじないで使った紙を、こっそりと学校内のどこかに埋めないとおまじないが完成しないんだったね」辺りを見回しても人の気配はない。穂香とレンは視線を合わせて頷いたあと、やわらかそうな部分の土を手で掘って紙を埋めた。「これでよし!」立ち上がった穂香は、背後から声をかけられ身体をビクッと震わす。「白川と高橋?」振り返ると真っ青な髪が、穂香の視界に映った。「せ、先生」「お前達、ここで何をしているんだ?」青い瞳は、こちらを探るように見つめている。返答に詰まった穂香の代わりにレンが答えた。「先生こそ、こんなところで何をしているんですか?」「ああ、俺か? 俺はな、生徒の監視だよ」「監視?」レンの声が低くなったような気がする。先生は「ほら、最近変なのが校内で流行ってんだろ」とため息をついた。「確か『恋が叶うまじない』だったか?」ギクッとしてしまった穂香を、レンがさりげなく背後に隠す。「お前達は、やってないだろうな?」その声は咎めるようだった。(これ、バレたらまずいんじゃ……)あせる穂香とは対照的に、レンは涼しい顔で「やっていません」と嘘をつく。「まぁ、なんでもいいが、まじないはやめとけよ」「どうしてですか?」穂香が不安そうな顔をすると、先生はしゃがみ込んで木の枝を拾い地面に『呪い』と書いた。「まじないは、漢字で書くとコレだ。ようするに、呪(のろ)いだ、呪い」「呪い……」青ざめる穂香を見て、先生は表情をやわらげる。「怖がらせて悪いな。まぁ、この世界のまじないは遊びみたいなものだから、なんの影響もないんだが念には念をだ」先生が立ち去ると、風景が変わった。【同日 昼/教室】「お昼になってる……」穂香は2つ持ってきたお弁当のうち、1つをレンに渡した。「今日も、私の分があるんですね」「嫌だった?」「いいえ、食べてもお腹を壊さないことが分かったのでいただきます」「失礼な……。だから、私じゃなくてお母さんが作ったから大丈夫だって」昨日と
【同日 夜/自室】いつのまにかパジャマに着替えた穂香は、一人ベッドに腰かけていた。(もう夜になってる。恋愛イベントがないときは飛ばされるはずなのに、飛ばされないということは……)穂香の手元には穴織から貰ったおまじないの紙と、そのやり方が書かれた紙がある。(このおまじないが、恋愛イベントに関係あるってことだよね? でも、レンはやるなって言ってた)悩む穂香の前に透明な2つのパネルが現れた。それぞれのパネルには『おなじないをやる』『おまじないをやらない』と書かれている。(選択肢が出てきたってことは、かなり重要なイベントなんじゃないのこれ?)どちらのパネルを押そうか迷った末、穂香は『おまじないをやる』パネルにふれた。そのとたんにパネルが光り消えてなくなる。(失敗してもループするだけだから、やるだけやってみよう!)穂香はおまじないのやり方にサッと目を通す。(まず、『好きな人を思い浮かべながら針で指を刺し、おまじないの紙の中心に自分の血をつける』って、だいぶ本格的……。おまじないというよりヤバイ儀式っぽい)その紙を折りたたんで枕の下に敷いて寝ると、思い浮かべた人の夢が見れるらしい。そして、次の日に、この紙をこっそりと学校内のどこかに埋めるとおまじないが完成すると書かれている。(ふーん? これを何回も繰り返すと、夢が現実になって恋が叶うんだよね? 本当かな)針で指をさすのはなかなか勇気がいったが、やるしかないと覚悟を決めた。おまじないの準備を終わらせると、枕の下におまじないの紙を入れる。(この状態で寝たら、好きな相手の夢が見れるんだよね? 私、レンのこと、別に恋愛相手として好きじゃないけど、おまじない成功するのかな?)そんなことを考えながら穂香は、そっと目を閉じた。*穂香が目を開けると、学校の教室に緑髪の青年が佇んでいた。(レン、だよね?)どうしてそう思ったかというと、レンがトレードマークともいえるメガネをかけていなかったから。穂香に気がついていないのか、レンは教室の天井を見たり、机にさわったりしながら、首を捻っている。「夢をコントロールする機能なんて、この世界にはないはずなのに……」そんな呟きが聞こえてきた。「レン」穂香が声をかけると、レンは驚きながら振り返る。「穂香さん? まさか、本当にあのおまじないに効果があったなんて」
レンと並んで通学路を歩いていると、風景が変わった。【同日 昼/教室】「うわっ、お昼まで飛ばされた!?」驚く穂香の横で、レンが考え込むように腕を組んだ。「恋愛に繋がるイベントが何も起こらなかったということですね」「そ、そうなんだ」「そもそも、サポートキャラの私との恋愛イベントが、この世界に存在するのかすら怪しいですが」「うっ、それを言われたらつらい! でもだからこそ、自分でイベントっぽいことを準備して来ました」穂香は鞄の中からお弁当を2つ取りだした。「すごい食欲ですね」と言うレンにひとつ渡す。「それはレンの分だよ」「私? いえ、私は食べません」「そんなこと言わずに! せっかく持ってきたんだから」半ば無理やりお弁当を押し付けると、レンはしぶしぶ受け取る。「……うーん……」お弁当のフタを開けたものの、食べようとはしない。穂香は、卵焼きをお箸で掴むとレンに差し出した。「はい、あーん」「怒りますよ?」「そんな怖い顔しないでよ! これでもレンに好きになってもらうために頑張ってるんだから」必死な穂香に戸惑ったレンは、遠慮がちに口を開けた。そのまま、パクッと卵焼きを食べる。無言で咀嚼するレンを、穂香は心配そうに見つめた。「どう?」「味はいいですね」「うんうん、そうだよね!」レンは「あとは、私がお腹を壊さないかですね」と深刻な顔をする。「失礼な……大丈夫だよ。それ作ったの私じゃなくてお母さんだから」穂香はふと視線を感じて振り返った。そこでは、すごいものを見てしまったというような顔で穴織がこちらを見つめていた。「あ、穴織くん?」化け物と戦っていたことが頭をよぎり、穂香の声は思わず震える。でも、穴織は昨日のことなんてなかったかのように、いつも通りだ。(そっか、穴織くんは、私の記憶を消したと思っているから、私もいつも通りにしないと)穂香がニコッと作った笑みを浮かべると、穴織は大げさな動きで頭を抱えた。「自分ら幼なじみとか言って、ガッツリ付き合ってるやん!」「付き合ってないよ」否定した穂香のあとにレンも続く。「付き合ってませんね」「じゃあレンレンは、付き合ってない女子に、あーんで食べさせてもらったん?」「そうですね。流れで仕方なく」穴織は「こっちの学校はすごいなぁ」と感心している。「まぁ、自分らが付き合ってないならちょ
「別の世界線では、穴織くんが主役になれる……。なるほど」確かに話す武器を持って化け物の戦っている穴織は、主役級のストーリーがありそうだ。そう納得した穂香は、ハッと気がつく。「じゃあ、生徒会長や先生にもそういう隠された秘密があるってこと!?」「そうなりますね」「どうして、この世界は平凡すぎる私に、そんなキャラの濃い人達と恋愛させようと思ったの!? 絶対に無理でしょうが!」頭を抱えた穂香に、レンは「深く考えたら負けですよ」と微笑みかける。「夢なのに、なかなか冷めないし……。やっぱりもうレンに好きになってもらうしかないよ」穂香が縋るように見つめると、レンの瞳がスッと細くなる。「それこそ無理だって言っているでしょう? 人の心はどうにもなりませんよ。そんなことより、せっかく穴織くんの秘密が分かったのだから、穴織くんと恋愛すればいいのでは?」「いや、記憶を消されそうになったんだよ⁉ 怖いから無理! 私はレン以外と恋愛は無理だから!」レンは、深いため息をついた。「そもそも、私があなたを好きになるためには、あなたも私のことを好きになる必要があるのでは?」「そっか……そうだね。恋愛をするんだから、お互いに歩み寄らないといけないよね」それが分かっても恋愛経験ゼロの穂香には、何をどうしたらいいのか分からない。穂香は、改めてレンのいいところを探してみた。「えっと、素敵なメガネですね」「それってもしかして、私をほめて仲良くなろうとしています?」「うん」「でしたら、もっと他に言い方があるでしょうに、まったくあなたという人は……」レンのあきれた視線が穂香に刺さる。「だって私、付き合ったことはもちろん男友達すらいたことがないんだって! だから、私に恋愛は無理だって言っているのに……」うっかり涙ぐむと、レンはまたため息をついた。「あなたに恋愛経験がないことくらい知っていますよ。でも、ここは恋愛ゲームの世界なんですよ? 難しく考えずゲーム感覚で頑張ってみては?」「ゲーム感覚……ということは、レベル上げとか?」穂香の言葉を聞いたレンは「と、言うと?」と言葉の先をうながす。「ほら、ゲームってレベルを上げたら強くなるでしょ? だから、私は女子力レベルを上げて、レンの好みの女性を目指すのはどうかな?」「なるほど」「で、レンの好みは『積極的に問題を解決する人
小さく悲鳴を上げてしまった穂香を、穴織が驚きの表情で見つめている。「え、白川さん? どうやってここに?」『この娘、ワシらの張った結界をすり抜けてきたようだ』いつもは人懐っこい穴織の瞳が、とたんに鋭くなった。穴織は、右手に持っている錫杖に話しかけているように見える。「ジジィ、どういうことや?」『じじぃ言うな、こわっぱめ。先代御当主様と呼ばんかい!』(えっと……穴織くん、錫杖と話してる?)穂香は、今まで読んだマンガの知識を総動員した。(これは、ようするに『話す武器』ってこと?)しかも、『先代御当主様と呼べ』と言っているので、あの錫杖には穴織のご先祖様の意思なり魂なりが宿っていると推測できる。(いやいやいや、少年漫画の主人公みたいな人が出て来ちゃったよ!? 恋愛ゲームだよね、これ?)気がつけば、真っ赤な穴織の瞳が、まるで不審者でも見るように穂香を睨みつけていた。「白川さんは、敵か?」『さぁな。今の段階ではなんともいえぬ。ただ、この学園内でおかしなことが起こっているのは確かだな』「まぁ、その怪異を解決するために俺が派遣されたからな……」穴織達はコソコソと話しあっているが、なぜか穂香にははっきりと聞こえた。もし、レンがここにいたら、『これもこの世界の仕様です』と言いそうだ。会話を整理すると、穴織はこの学校で起こっている不思議な事件を解決するために転校して来たらしい。(これって、もしかして、穴織くんが学校内の怪異ってやつを解決したら、ゲームクリア扱いされて、私が告白されなくても、この世界から脱出できる可能性ないかな? 逆に穴織くんに敵認定されたら、即ゲームオーバーになりそうな気もするけど……)穂香と穴織が、お互いに『どうしたものか』と見つめ合っていると、穴織が先に視線をそらした。「とりあえず、白川さんの件は保留や」『娘の記憶は消しておけ。騒がれると面倒だ』「分かった」まっすぐこちらに歩いてきた穴織の表情は硬い。穂香は逃げようとしたが、足が地面に縫い付けられたように動かなかった。穴織の人差し指と中指が、そっと穂香の額にふれる。ふれられた箇所がじんわりと温かくなっていく。「白川さんは、ここでは何も見なかった」怖いくらい真剣な穴織の顔がすぐ近くにあった。徐々に薄れていく意識の中で穂香は『これって失敗!? やり直しになるの?』とあせ
ベッドの中で心地好い眠りについていた穂香(ほのか)は、聞きなれた電子音で目が覚めた。朝6時にセットしていたスマートフォンのアラームが鳴っている。(学校に行きたくない……)そんなことを思いながら、枕元に置いていたスマホを手探りで探す。高校二年生になったばかりの穂香は、一年生のときに仲が良かった友達全員とクラスが離れてしまった。別にイジメにあっているわけではない。だけど、仲がいい友達がクラスにいないことがつらい。「はぁ……」穂香のため息は、鳴り続ける電子音にかき消された。アラームを止めたいけど、スマホが見つからない。「あれ?」スマホを探すために、穂香はベッドから起き上がった。すると、部屋の隅にメガネをかけた見知らぬ男子高校生が佇んでいることに気がつく。(あっ、これは夢だ)普通なら悲鳴を上げるところだけど、男子高校生の髪と瞳が鮮やかな緑色だったので、穂香はすぐに夢だと気がついた。穂香を見つめる男子高校生は顔がとても整っていて、まるでマンガやゲームのキャラクターのように見える。「起きましたね。アラームは消しますよ」そんなことを言いながら男子高校生は、穂香のスマホのアラームを慣れた手つきで止めた。「穂香さん、おはようございます」「え? どうして、私の名前を?」と、言いつつ『そういえば、これは夢だった』と思い出す。夢なら知らない人が穂香の名前を知っていても不思議ではない。「えっと……どちらさまですか?」おそるおそる尋ねると、男子高校生はニッコリ微笑んだ。「嫌だなぁ、寝ぼけているんですか? 私はあなたの幼なじみのレンですよ。毎朝、穂香さんを起こしに来ているでしょう?」「幼なじみ? レン?」穂香には、レンという名前の知り合いはいなかった。そもそも幼なじみと呼べるような関係の人すらいない。(なるほど、これはそういう設定の夢なのね。夢だったら、いないはずの幼なじみがいても問題ないか)穂香は、初対面の幼なじみに遠慮がちに話しかけた。「えっと……。とりあえず、あなたのことは、レンさんって呼んだらいいですか?」「レンさんだなんて! いつも私のことはレンと呼んでいるじゃないですか」「あっ、そうなんですね」「穂香さん。いつものようにもっと気軽に話してください」(そんなことを言われても……)穂香はその『いつも』を知らない。「でも、レン...
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